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終結

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「ヴィー!逃げろ、早く!」

パキパキと防御魔法で造られた壁にヒビが入る。それはもう限界と言うことが聞かずとも分かった。

「シャノン兄様…。
ごめんなさい。私のせいで…。」

私がここでゼノを待とうとしなければ、集まった騎士はもう少しなりとも家族と過ごせたかもしれない。

自分の判断は間違っていた。そう思うと胸が苦しくなった。

「…王族は国民を守る為にある。
そうだろう?俺はヴィーの判断のお陰でここに立てたんだ。だ。
しかしもう…。っ。」

「ゼノ…っ。」

もう間に合わない。
私はお母様のように世界も国も救えなかった。ただ自分の気持ちだけで動いてしまった。

情けない。
王族として、生命の樹の人柱としてもっと戦うことを身につけておきたかった。



今こんな状態でも、あなたが好きで仕方がないわ。…ゼノ。

ゼノ。愛してる。

ギュッと胸元で手を握る。すると胸元にあるブローチが見たこともないほど光を放った。

それと同時にシャノンの防御魔法は崩れ、一斉に魔物が襲い掛かる。

もう間に合わない。
ゼノ。ごめんなさい。
国を守り切れなくて…
待っているという約束も守れなくて…
ごめんなさい。

「ゼノ…大好きよ。」
ギュッと目を瞑り、そう口に出した。

「ああ。俺もだ。」

低く聞き慣れた、聞きたくて仕方のなかった声。それが私の耳元で響いた。

「っ!ゼノ⁈」
私が目を開けると、ゼノに抱きしめられていた。
周りを見渡すと、シャノンの防御魔法ではなく、見たことのない防壁が敷かれている。

「悪い。遅くなった。もう大丈夫だから。」

私の額にちゅっとキスを落とし、
ゼノは自分のものとは違う剣を地面に刺した。

「悪いが話は後だ。まずは魔物退治と行こうか。…準備はできたよ、師匠にいさん。」

ゼノが地面に刺した剣から転送魔法が感じられると、シャノンと同じ歳くらいの男が現れた。

私はその男を知っている。

「ガイル…?」
あの頃と全く変わらない姿。
彼はこちらに振り返ってニッコリと笑った。

「待たせてしまって申し訳ない。皇女様ヴィーちゃん。…そして悪かった、カミーリア。」

師匠イルにい、話している時間はない…早く包囲魔法を!」

「ああ。ゼノ。一気にやってくれ。
街には攻撃が影響しないようにしてやる。」

ゼノとガイルの連携は、兄弟かと思う程のものだった。

ガイルが包囲魔法で魔物を袋に閉じ込めるかのように囲い、ゼノがその中へ特大魔法を放つ。

ゼノの特大魔法でも弾けない包囲魔法は彼の強さを表している。

「す、凄い…。」

こんなに間近で戦いなど見たことのなかった私は腰が抜け、ヘタっと座り込んだ。

カミーリアに全て魔力を注ぎ込み、もう私の力は残っていない。
カミーリアはまだ淀んだ魔素を吸収し続けている。

『……ヴィクトリア。よく聞いて。』

「っ!カミーリア!どうしたの?」

『…私は全ての淀みを引き受けるわ。私が役目を終えたら直ぐにシトロンと正式な契約をして大地を癒して頂戴。
直ぐにやれば大地は崩れることなく元に戻ることができるわ。』

「えっ。カミーリア。それではあなたが…!」

『いいの。この国を守り、最後にまたガイルと会えた。本当にありがとう。
ヴィクトリア。あなたに宿って本当に良かったわ。』

「…カミーリア。」

私は彼女の魔素を取り除いてやることはできない。植物である彼女に回復魔法は効かない。

他に何か方法はないのだろうか。

シトロンならばできるかもしれないが、シトロンの力を借りることができるのは正式に契約してから。その為にはまずカミーリアとの契約を切らなければならない。

しかし、カミーリアと契約を切ればカミーリアは枯れてしまうのだ。

「…どうしたらいいの…!」

カミーリアを救いたい。
それなのにどうすることもできない。

ドンッと言う爆発音が響き、戦いが終わったことが分かった。

ゼノとガイルは大きな怪我もなく、私たちの元へと急ぐ。

「リア。大丈夫か?」

足に力が入らず、立てない私の肩を寄せてくれた。

「ええ。私は大丈夫。魔力を使い果たしただけだもの。
それよりもカミーリアが!」

カミーリアに目をやると、ガイルがカミーリアの樹にソッと触れ、額を付けて何やら話をしていた。




「…カミーリア。遅くなってすまなかった。待っていてくれと言ったのに、随分と待たせてしまったね。」

『……ガイル。いいのよ。最後に会えて嬉しいわ。』

「最後だなんて寂しいことは言わないで欲しい。もう私のことは好きじゃななくなってしまったかい?」


『そんなことないわ。今でも貴方だけを一途に愛しているもの…。』



「ならば私と共に生きよう。私は必ず君を幸せにするから。」

『ガイル…。ガイル、愛しているわ。
心の底から、好きよ。』

「ああ。私もだ。カミーリア。」


「……我が名の下にここへ形創る許しを乞う。固まれリウデューロ。」

パァッと生命の樹が光る。
綺麗なその光を見て思わず魅入ったが、
生命の樹カミーリアがその光に包まれた途端に形を消したことで私は目を覆った。

「っ!」

救えなかった。あんなにも私に寄り添ってくれた彼女を私は助けてやることができなかった。

「リア。シトロンと契約を。」

「…ええ。」

ゼノに促されるまま、私は場所の離れているシトロンと契約を結ぶ。そしてシトロンに大地を癒すように命令した。

「シトロン…私の魔力がなくてもできる?」

『ああ。任せるのじゃ…。』

距離が遠くとも声が聞こえる。
それは私の体にシトロンが宿ったからこの場で聞こえるようだ。

シトロンの声は私に乗り移らなくても聞こえる。それは以前言っていた通り、シトロンは相性が良いらしい。

シトロンが力を使ったのか、
いつものように空気が澄み始めた。

空は太陽が顔を出し、風はゆっくりと流れる。草はサワサワと音を出し、大地はしっかりとそこに存在している。

『大丈夫じゃ。魔穴が閉じているおかげで妾の力だけでも癒せる。』

それを聞いて私は安心した。

「魔穴は閉じた。苦戦はしたが、師匠イルにいがいたおかげでどうにかなったんだ。」

「そういえばガイルはどうしてここに?」

「イル兄は己の魔力で魔穴を封じていた。それが開いてしまったからイル兄をそのままにする必要はないからな。
目覚めさせて手伝ってもらったんだ。」

「目覚めさせたって…それは…」

高度な魔法。それを最も簡単にこなすゼノは本当に只者ではない。

「ゼノはどうやってここに来れたの?」

「リアに渡しただろう?転移魔法に使える俺の魔力玉を。それを通してこちらに転移した。そしてイル兄の転移魔法に使う剣を一緒に持ってきたんだ。だから2人がこちらへ来れた。」

「魔力玉…。まさか、あのブローチを使って!」
私は咄嗟にブローチを見る。
すると真っ赤な魔力玉は粉々に砕けてしまっていた。

「ああっ…魔力玉がっ…
ごめんなさい。この魔力玉を作るのに沢山の時間が必要だったはずよ。」

私は悲しくなり、ブローチに手を添えた。しかしゼノは何とも思っていないようだった。

「魔力玉の限界だったんだ。壊れてしまったが、これのおかげでリアを守れた。俺にとってリア程大切なものはないのだから。」

「………ありがとう。」



優しく笑うゼノを見て私はホッと胸を撫で下ろした。するとゼノは視線を外して口を開いた。

「イル兄。どうだった?」
「っ!」


生命の樹カミーリアは消えた。
それが答えだ。

カミーリアの代わりにこれからはシトロンが生命の樹としてこの国を守る。

国は救えたが生命の樹カミーリアを救うことはできなかった。

そう思うと私の頬を涙が伝った。
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