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決意
しおりを挟む「…シトロン。」
私が足を運んだのは、もう1つの生命の樹であるシトロンがいる場所だ。
私は変装もせず、そのままの姿でここまで来た。案外バレなかったのはここがあまり目立たない場所だからだろうか。
静かなここの場所はなんだか落ち着く。
「シトロン。お願い。話がしたいの。」
返事は返ってこない。
しかしカミーリアと話せないのなら、あまり力を使わなくとも話せるシトロンに頼るしかない。
私はギュッと唇を噛んだ。
やっぱりゼノがいないとできないの…?
ゼノ…。
私は右手でブローチに触れる。
すると声が響いた。
『…なんじゃ。』
「シトロン?」
どうして急に。
でも好都合だと思った。
『ほほぅ。…魔力玉とは奴も考えたよの。』
「…魔力玉?」
そう言われてハッとした。
今手中にあるこのブローチは、もしかするとゼノの魔力で作られたものなのではないだろうか。
普通魔力玉とは小さいもので、1週間から1ヶ月ほどかけて魔力を集めて形作るものだ。
それはお守りとして昔からプレゼントなどに贈られる。
しかしこのサイズ、そしてブローチにはめる為に削ったことを考えれば、1ヶ月どころか3ヶ月でも合わない。
『ほう。見事じゃ。半年以上は掛けているようじゃの。』
「っ!」
半年。と言うことはまさか、私の騎士になり始めた時からこれを…?
『まあ、それのおかげで妾が話せるのじゃ。ゼノに感謝せねばならんな。』
「っ。シトロン。教えて!
今世界では何が起きているの?
どうして生命の樹の根があんなにも…。」
『…運命なのじゃ。』
「運命…?」
『生命の樹は本来8年前に無くなり、妾が後を継ぐ予定じゃった。
カミーリアが淀みを受け、魔穴が封印された後は妾が大地を癒す。そういう手筈だった。
しかし、カミーリアの後釜である妾は誰に宿ることもできなかった。エリザベートに宿ろうにも、国王からの愛情は薄くなっていたからの。
世界の大地を救うため、カミーリアの力を最大限にしようと、エリザベートは命を捧げ、この世を去った。
そして魔穴では勇者が1人また1人と命を落とした。それでも人間はそれに立ち向かい、意地でもそれを拒んだ。誰1人として世界の滅亡を選ぶ者はなかったのじゃ。
…たった1人、残された勇者は魔穴を封印する為にその場で自身を贄に魔穴を閉じた。しかしそれでは持たなんだ。
魔穴の封印は最低でも3人の力が必要。
あの時は力のある者が次々にやられてしまって、残ったのはその者だけだった。だから8年という短い封印しかできなかったのじゃ。
しかし今は強者が育ち、今尚残っておる。
ゼノが急ぎで呼ばれたのもその為。
以前のように誰もいなくなってからでは遅いからの。
本来なら8年前の侵食は3人の勇者とカミーリア、そして妾によって止められるはずだったのじゃ。
それができなかった為にまたこうやって魔穴が開いてしまった。
今、生命の樹は世界の大地を守っている。
8年前に守りきれなかった命を償いたいが為に、あやつはその根の広さを生かして淀んだものが人々に影響しないように必死なのじゃ。
あの頃のように病が国に広がらないのはカミーリア自身が生き残る為のエネルギーを残すことなど考えていないからじゃ。
あの時のように運命は決まっておる。
3人の勇者とカミーリア、そして妾。
それで世界を救う。そういう運命なのだ。だからカミーリアの犠牲は仕方のないこと、そう受け止めるしかない。』
「っ!どうにかできないの?
私にできることは…」
『…ない。それに、生命の樹はそれを望んではいない。
……奴と共に戦わせてやってくれ。それが残されてしまったカミーリアの願いなのじゃ。』
「…そんな。」
『話は以上だ。妾達に出来ることはない。カミーリアと契約を切り、妾と正式に契約しても、今の妾の根の広がりではカミーリアのように世界を守ることはできない。
カミーリアに寄り添ってやるしかないのじゃ。
…それと魔力玉は大事に使うべきじゃ、そうでなければ壊れてしまう。それでは、またの。』
「…ええ。シトロン。ありがとう。」
納得することができない。
しかし、自分がどうしたらいいのかも分からなかった。
世界を守っているカミーリア。
魔穴の封印に呼ばれたゼノ。
その行く末を見守るシトロン。
私が出来ることとは…何か。
ギュッと目を瞑る。
すると地響きが鳴り響いた。
「な、なに?…っきゃぁ!」
グラグラと揺れるその地面に私は立っていられなかった。
座り込む私に駆け寄ってきたのはシャノンだった。
「ヴィー!早く城へ戻るぞ!
魔物がこちらに向かっているようだ!」
私の後をついてきていたのだろう。シャノンは私の手を引き、走り出した。
私は怖いという感情よりもゼノの安否が心配でならない。
ゼノが魔物を取り逃すなんてあり得ない。何があったの…ゼノ…。
一体魔穴では何が起こっているのだろうか。
そう思って暗くなる西の空を眺めた。
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