人柱皇女はキスをねだる(R18)

彩葉ヨウ(いろはヨウ)

文字の大きさ
上 下
35 / 38

決意

しおりを挟む


「…シトロン。」
私が足を運んだのは、もう1つの生命の樹であるシトロンがいる場所だ。

私は変装もせず、そのままの姿でここまで来た。案外バレなかったのはここがあまり目立たない場所だからだろうか。

静かなここの場所はなんだか落ち着く。

「シトロン。お願い。話がしたいの。」

返事は返ってこない。
しかしカミーリアと話せないのなら、あまり力を使わなくとも話せるシトロンに頼るしかない。

私はギュッと唇を噛んだ。
やっぱりゼノがいないとできないの…?

ゼノ…。


私は右手でブローチに触れる。
すると声が響いた。

『…なんじゃ。』

「シトロン?」

どうして急に。
でも好都合だと思った。

『ほほぅ。…魔力玉いのちだまとは奴も考えたよの。』

「…魔力玉?」

そう言われてハッとした。
今手中にあるこのブローチは、もしかするとゼノの魔力で作られたものなのではないだろうか。

普通魔力玉とは小さいもので、1週間から1ヶ月ほどかけて魔力を集めて形作るものだ。
それはお守りとして昔からプレゼントなどに贈られる。
しかしこのサイズ、そしてブローチにはめる為に削ったことを考えれば、1ヶ月どころか3ヶ月でも合わない。

『ほう。見事じゃ。半年以上は掛けているようじゃの。』
「っ!」

半年。と言うことはまさか、私の騎士になり始めた時からこれを…?

『まあ、それのおかげで妾が話せるのじゃ。ゼノに感謝せねばならんな。』

「っ。シトロン。教えて!
今世界では何が起きているの?
どうして生命の樹カミーリアの根があんなにも…。」

『…運命さだめなのじゃ。』

「運命…?」

生命の樹カミーリアは本来8年前に無くなり、妾が後を継ぐ予定じゃった。

カミーリアが淀みを受け、魔穴が封印された後は妾が大地を癒す。そういう手筈だった。

しかし、カミーリアの後釜である妾は誰に宿ることもできなかった。エリザベートに宿ろうにも、国王からの愛情は薄くなっていたからの。

世界の大地を救うため、カミーリアの力を最大限にしようと、エリザベートは命を捧げ、この世を去った。


そして魔穴では勇者が1人また1人と命を落とした。それでも人間はそれに立ち向かい、意地でもそれを拒んだ。誰1人として世界の滅亡を選ぶ者はなかったのじゃ。

…たった1人、残された勇者は魔穴を封印する為にその場で自身を贄に魔穴を閉じた。しかしそれでは持たなんだ。

魔穴の封印は最低でも3人の力が必要。
あの時は力のある者が次々にやられてしまって、残ったのはその者だけだった。だから8年という短い封印しかできなかったのじゃ。

しかし今は強者が育ち、今尚残っておる。
ゼノが急ぎで呼ばれたのもその為。
以前のように誰もいなくなってからでは遅いからの。

本来なら8年前の侵食は3人の勇者とカミーリア、そして妾によって止められるはずだったのじゃ。

それができなかった為にまたこうやって魔穴が開いてしまった。

今、生命の樹カミーリアは世界の大地を守っている。

8年前に守りきれなかった命を償いたいが為に、あやつはその根の広さを生かして淀んだものが人々に影響しないように必死なのじゃ。

あの頃のように病が国に広がらないのはカミーリア自身が生き残る為のエネルギーを残すことなど考えていないからじゃ。

あの時のように運命は決まっておる。
3人の勇者とカミーリア、そして妾。
それで世界を救う。そういう運命なのだ。だからカミーリアの犠牲は仕方のないこと、そう受け止めるしかない。』

「っ!どうにかできないの?
私にできることは…」

『…ない。それに、生命の樹カミーリアはそれを望んではいない。
……と共に戦わせてやってくれ。それが残されてカミーリアの願いなのじゃ。』

「…そんな。」

『話は以上だ。妾達に出来ることはない。カミーリアと契約を切り、妾と正式に契約しても、今の妾の根の広がりではカミーリアのように世界を守ることはできない。
カミーリアに寄り添ってやるしかないのじゃ。

…それと魔力玉は大事に使うべきじゃ、そうでなければ壊れてしまう。それでは、またの。』

「…ええ。シトロン。ありがとう。」

納得することができない。
しかし、自分がどうしたらいいのかも分からなかった。


世界を守っているカミーリア。
魔穴の封印に呼ばれたゼノ。
その行く末を見守るシトロン。
私が出来ることとは…何か。

ギュッと目を瞑る。

すると地響きが鳴り響いた。


「な、なに?…っきゃぁ!」

グラグラと揺れるその地面に私は立っていられなかった。

座り込む私に駆け寄ってきたのはシャノンだった。

「ヴィー!早く城へ戻るぞ!
魔物がこちらに向かっているようだ!」

私の後をついてきていたのだろう。シャノンは私の手を引き、走り出した。




私は怖いという感情よりもゼノの安否が心配でならない。

ゼノが魔物を取り逃すなんてあり得ない。何があったの…ゼノ…。


一体魔穴では何が起こっているのだろうか。
そう思って暗くなる西の空を眺めた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...