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接触
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「おはようございます。」
いつものように部屋へと入ると、綺麗な薄茶色の髪をしたリアがシンプルなワンピースを着て立っていた。
「ゼノ!」
ゆっくりと俺に近づいてくるリアはそこら辺の町娘には見えない。
「ヴィクトリア様。そんなに綺麗な動きではすぐにバレてしまいます。」
「あ…そうね。気を付けないと。
でも、ゼノも言葉使いに気を付けてくれないとすぐにバレてしまうじゃない!」
「俺は慣れているから心配いらない。」
フッと俺が笑うと、リアは悔しそうにしていた。
「そろそろシャノンも来る頃だと思うのだけれど。」
それを聞いていたかのように扉が叩かれ、いつもの人が扉を開けた。
「もう準備が終わっていたのか。」
そう言って入ってきたシャノン卿は赤茶色の髪をオールバックにしていた。
「え、シャノン卿…?」
「今日はシャロンだ。ロンと呼んでくれ。」
咄嗟の変装だというのになんだか違和感を感じさせないのは何故だろうか。
いつものシャノン卿とはガラッと雰囲気が違う。
「ロン…分かりました。今日は敬語も使いませんので。」
「ああ。そうしてくれ。
それよりもゼノは変装しないのか?」
「私は元々平民ですから必要はないでしょう。以前街へ出た時もそうしましたから。」
「そうか。ゼノ。敬語には気をつけてくれよ。」
「ああ。その心配は必要ないだろう。」
俺がそう言うと、さすがだなと笑っていた。俺が隊にいた頃は討伐だけでなくスパイや潜入もしたことがある。言葉使いなどどうとでもなるのだ。
「それじゃ、生命の樹へ、行きましょう。」
生命の樹は生命の樹とは違い、王都にある訳ではない。
生命の樹は南にあり、立入禁止区域とされているが、北にある生命の樹は何も対策をされていない。そしてそこへ行くためには東の街外れを通らなければ行くことはできないのだ。
王都は馬車で抜け、街へと出る前に馬車から降りた。王都では馬車の方が目立たなく、街では歩く方が目立たないからだ。
「遠回りだが仕方ないな。」
「ええ。ヒールのない靴だからいくらでも歩けるわ。」
町娘風のリアは機嫌がいいのかズンズン歩いていく。俺とシャノン卿…いや、ロンはそれに続いて歩く。
何やら注目を浴びているようだが、仕方ないだろう。
リアは変装しているが国一の美貌を持っているのだ、隠すのにも限界がある。そしてシャノン卿も言わずと知れた甘いマスクを持っている。変装していてもその湧き出る色気は抑え切れていない。
平民として目立つのだ。
こんなにオーラをダダ漏れにして歩くやつがいるだろうか。しかし2人は訓練も受けたことのない王族。そうなることは仕方のないことなのだと目を瞑るしかない。
「ロンじゃないの!」
急に声をかけてきたのはシャノン卿の知り合いだろうか。シャノン卿に隠れていて見えないが、聞き覚えのある声のような気もする。
俺はゆっくりと相手が見える場所に動き、その顔を確認した。
「ルーア?」
「あ!ゼノもいたのね。え、リアも!
一体どんな組み合わせなの?」
ワクワクとしているのが伝わってくるようだ。
そしてシャノン卿が口を開いた。
「散歩だよ。こちら側はあまり来たことがなかったからね。妹のリアとゼノに案内してもらってるんだ。」
「そうなの!時間が合えば一緒に行きたい所だったけど、今はちょっとお客さん待たせているから一緒には行けないなー。残念。」
来ないでくれ、頼むからと思っていた俺はその言葉を聞いて内心ホッとした。
「ロンがお店に来てくれなくなって寂しかったのよ。もし気が向いたらまた来てね。その時は…ね?」
シャノン卿の頬に手を添え、少し頬を染めるルーアは流石だと思う。
ルーアは街で有名な手練れ経営者。バーを経営している。その意味深な言い回しに俺はピンときた。
ああ。シャノン卿は食われたのだ。と。
そしてルーアはシャノン卿をまた欲している。
取っ替え引っ替えしているルーアには珍しいことだ。男の方がまた相手をしてほしいと寄ってくることはあっても、ルーアからこんなにアピールをしているのはなかなか見ることができない。
「随分と彼女に気に入られているのですね。」
俺は機転を利かせて敬語にした。
お嬢様と兄となれば俺は警護のお付きということでいいだろう。
「ゼノ。あんたもたまには来なさいよ。リアと一緒に。」
にっこりと笑い、ウィンクを飛ばすルーアにリアは嬉しそうだ。
「悪いがリアは酒が飲めないんだ。だから、店は遠慮しておくよ。」
「そう。残念だけど、仕方ないわね。
次は店じゃなく、また街を案内しようかしら。
あ、もう時間迫ってるから。またね!」
嵐のようなルーアが去っていくと各々疑問が浮かんだようだ。
「ゼノ。ルーアとはどんな関係なんだ?」
「ただの腐れ縁で幼馴染。というものです。
それよりもロンはルーアとどんな関係で?」
「いや…以前店で酒を飲んだ、事くらいか。」
シャノン卿らしからぬ歯切れの悪い発言に俺はクロだなと確信した。
遊ぶだけならまだしも、本気になれば難しい相手だと思う。ルーアは飽きっぽい。余程寛大な心を持っているか、ルーアがのめり込まない限り周りの男と同じ扱いを受けるだろう。
「…それにヴィ…リアまでいつの間に街を案内される関係になったんだ。」
「あぁ~…それは…」
それはきっとシャノン卿の目を盗んで王宮から出た時のことだろう。
じっとりとリアを見つめる目は確かに怖い。リアはうふふふふ~と笑いながら、そのまま目線を逸らして俺たちの少し前を歩きだした。
「あ、あれじゃないかしら?」
誰もおらず、何もない場所にポツンと佇んでいる小さな樹は、葉をつけていてそよそよと揺れている。
「これが生命の樹。」
やはりその樹は白くは光っていなかった。
「とにかく私が触れてみるわ。」
生命の樹は宿った相手が触れると分かるようで、リアはゆっくり近づき、樹へと触れた。
まだ大きくないその樹は易々と近づくことができるので、俺とシャノン卿はリアの後ろでそれを見守るだけだ。
「……シトロン。」
彼女の名を口にすると樹の葉がサワサワと音を立てた。シトロンはもしかしたらリアの声に応えたのかもしれない。
「………やっぱり声は聞かせてくれないのかしら…」
「気を落とさないでください。きっとシトロンも話をしたいと思っていると思いますよ。」
サワサワと葉が動いたのを見ていた俺はなんとなくだがそう感じた為、リアを励ました。
「うん。ここに来たら話せるかと思ったのだけど…」
「心を開いてもらえるようにこれから足を運びましょう。」
「…そうね。」
残念そうな顔をして俺に近づいてきたリアの肩を優しく抱いてやる。するといつものレモングラスの香りがした。
「…シトロン。」
今日はダメでもいつか話してほしい。
どうしてリアに宿ったのか。
どうして今なのか。何を伝えようとしているのか。
そう思いながら名を呼んだ。
『…なんじゃ。』
「っ!」
透き通るような声が響く。
どこから聞こえているのかと辺りを見渡してみたが、ここには俺たち以外に誰の姿もない。
『愛しいヴィクトリア。
魔力を分けてくれて感謝するぞ。』
「っ!シトロンなの?」
『ああ、そうじゃ。やはりゼノと接触して正解のようだったの。来てくれるのではないかと思っておったぞ。』
「どうして急に…さっきは応えてくれなかったのに…」
『返事はしておったのじゃが、まだ妾の存在が不安定じゃからな。
そうやって2人がくっついている間だけは声が聞こえるようじゃ。』
リアを励ますためだったのだが、
どうやらタイミングが良かったようだ。
『して、そっちのお前。妾と話したいと申しておったよの。』
今まで状況整理をしていたシャノン卿にシトロンは話しかけた。
「…はい。聞きたいことが山積みなのですが、よろしいでしょうか。」
『嫌じゃ。簡潔に申せ。』
「っ!
…では、何故ヴィーに宿られたのかだけでも教えてほしいのです。」
『ふむ。良いじゃろう。
妾はヴィクトリアの想いから生まれた生命の樹じゃ。ヴィクトリアが初めて恋に落ち、初々しく真っ直ぐな想いを拾ったのが始まりなのじゃ。』
「ヴィーの、初恋…?」
『ヴィクトリアは10になる頃、ゼノに恋をした。そして妾は芽を出したのじゃ。
しかし、この国には…もとい、ヴィクトリアには生命の樹が宿っておった。
じゃからずっと細々と普通の木と同様に過ごしてきた。
だがの。生命の樹が大きくなりすぎたせいで、ヴィクトリアの身体は悲鳴を上げ始めた。そして暴走を繰り返すようになったのじゃ。
だから妾はヴィクトリアと生命の樹を離そうと決意し、こうやって接触することに成功した。』
「っ!」
「えっ。でも私の暴走はゼノに止めてもらっているわ。それではダメなの?」
『生命の樹は情熱の樹。情熱的に愛し合っているからこそ為し得ているものじゃ。それが1度でも崩れてしまえば樹は腐り、国の結界は歪むじゃろう。
それに、ゼノが先立ってしまったらどうする?他に暴走を止められる奴がいるのだろうか?
それに引き換え、妾は誠実の樹。単純にお互いを思い合う心があれば暴走などしないのじゃ。』
「…つまりどういうことなんだ?」
『生命の樹を捨てて妾だけを宿せ。そうすればヴィクトリアは苦しむことはない。』
「…。」
カミーリアを捨てる。それは何百年と国を支えてきた彼女を捨てるということになる。大きくなりすぎた彼女は膨大な魔力を必要とする。だからどんどんリアが耐えられなくなってしまうのだろう。
「…嫌よ。」
ボソッと口に出したのはリアだった。
『どうしてじゃ。妾が小さい樹じゃからか?小さくとも生命の樹に変わりはない。むしろ小さいからこそ魔力を無駄にすることなく国を守れるのじゃ。』
「そう言うことじゃないわ…
私は、カミーリアにずっと助けられてきたの。だからカミーリアを捨てるなんてできない。」
リアらしい真っ直ぐとした応えだ。
「他に方法はないの?」
『…ない。
…少し考えてみると良い。
妾はいつまでも待っておるから。』
「…。」
『カミーリア。お主もヴィクトリアの意識の中で聞いておるのだろう?
いつまで待ったところでお前の穴は埋まらぬ。
ヴィクトリアを壊してしまう前によく考えるのじゃ。
それじゃぁの。』
そう言ったっきり、シトロンとの会話は途切れてしまった。
カミーリアかシトロン。それはあまりにも突然のことですぐに決めることはできない。
とにかく俺たちは大した会話をすることもなく足早に王宮へと戻った。
いつものように部屋へと入ると、綺麗な薄茶色の髪をしたリアがシンプルなワンピースを着て立っていた。
「ゼノ!」
ゆっくりと俺に近づいてくるリアはそこら辺の町娘には見えない。
「ヴィクトリア様。そんなに綺麗な動きではすぐにバレてしまいます。」
「あ…そうね。気を付けないと。
でも、ゼノも言葉使いに気を付けてくれないとすぐにバレてしまうじゃない!」
「俺は慣れているから心配いらない。」
フッと俺が笑うと、リアは悔しそうにしていた。
「そろそろシャノンも来る頃だと思うのだけれど。」
それを聞いていたかのように扉が叩かれ、いつもの人が扉を開けた。
「もう準備が終わっていたのか。」
そう言って入ってきたシャノン卿は赤茶色の髪をオールバックにしていた。
「え、シャノン卿…?」
「今日はシャロンだ。ロンと呼んでくれ。」
咄嗟の変装だというのになんだか違和感を感じさせないのは何故だろうか。
いつものシャノン卿とはガラッと雰囲気が違う。
「ロン…分かりました。今日は敬語も使いませんので。」
「ああ。そうしてくれ。
それよりもゼノは変装しないのか?」
「私は元々平民ですから必要はないでしょう。以前街へ出た時もそうしましたから。」
「そうか。ゼノ。敬語には気をつけてくれよ。」
「ああ。その心配は必要ないだろう。」
俺がそう言うと、さすがだなと笑っていた。俺が隊にいた頃は討伐だけでなくスパイや潜入もしたことがある。言葉使いなどどうとでもなるのだ。
「それじゃ、生命の樹へ、行きましょう。」
生命の樹は生命の樹とは違い、王都にある訳ではない。
生命の樹は南にあり、立入禁止区域とされているが、北にある生命の樹は何も対策をされていない。そしてそこへ行くためには東の街外れを通らなければ行くことはできないのだ。
王都は馬車で抜け、街へと出る前に馬車から降りた。王都では馬車の方が目立たなく、街では歩く方が目立たないからだ。
「遠回りだが仕方ないな。」
「ええ。ヒールのない靴だからいくらでも歩けるわ。」
町娘風のリアは機嫌がいいのかズンズン歩いていく。俺とシャノン卿…いや、ロンはそれに続いて歩く。
何やら注目を浴びているようだが、仕方ないだろう。
リアは変装しているが国一の美貌を持っているのだ、隠すのにも限界がある。そしてシャノン卿も言わずと知れた甘いマスクを持っている。変装していてもその湧き出る色気は抑え切れていない。
平民として目立つのだ。
こんなにオーラをダダ漏れにして歩くやつがいるだろうか。しかし2人は訓練も受けたことのない王族。そうなることは仕方のないことなのだと目を瞑るしかない。
「ロンじゃないの!」
急に声をかけてきたのはシャノン卿の知り合いだろうか。シャノン卿に隠れていて見えないが、聞き覚えのある声のような気もする。
俺はゆっくりと相手が見える場所に動き、その顔を確認した。
「ルーア?」
「あ!ゼノもいたのね。え、リアも!
一体どんな組み合わせなの?」
ワクワクとしているのが伝わってくるようだ。
そしてシャノン卿が口を開いた。
「散歩だよ。こちら側はあまり来たことがなかったからね。妹のリアとゼノに案内してもらってるんだ。」
「そうなの!時間が合えば一緒に行きたい所だったけど、今はちょっとお客さん待たせているから一緒には行けないなー。残念。」
来ないでくれ、頼むからと思っていた俺はその言葉を聞いて内心ホッとした。
「ロンがお店に来てくれなくなって寂しかったのよ。もし気が向いたらまた来てね。その時は…ね?」
シャノン卿の頬に手を添え、少し頬を染めるルーアは流石だと思う。
ルーアは街で有名な手練れ経営者。バーを経営している。その意味深な言い回しに俺はピンときた。
ああ。シャノン卿は食われたのだ。と。
そしてルーアはシャノン卿をまた欲している。
取っ替え引っ替えしているルーアには珍しいことだ。男の方がまた相手をしてほしいと寄ってくることはあっても、ルーアからこんなにアピールをしているのはなかなか見ることができない。
「随分と彼女に気に入られているのですね。」
俺は機転を利かせて敬語にした。
お嬢様と兄となれば俺は警護のお付きということでいいだろう。
「ゼノ。あんたもたまには来なさいよ。リアと一緒に。」
にっこりと笑い、ウィンクを飛ばすルーアにリアは嬉しそうだ。
「悪いがリアは酒が飲めないんだ。だから、店は遠慮しておくよ。」
「そう。残念だけど、仕方ないわね。
次は店じゃなく、また街を案内しようかしら。
あ、もう時間迫ってるから。またね!」
嵐のようなルーアが去っていくと各々疑問が浮かんだようだ。
「ゼノ。ルーアとはどんな関係なんだ?」
「ただの腐れ縁で幼馴染。というものです。
それよりもロンはルーアとどんな関係で?」
「いや…以前店で酒を飲んだ、事くらいか。」
シャノン卿らしからぬ歯切れの悪い発言に俺はクロだなと確信した。
遊ぶだけならまだしも、本気になれば難しい相手だと思う。ルーアは飽きっぽい。余程寛大な心を持っているか、ルーアがのめり込まない限り周りの男と同じ扱いを受けるだろう。
「…それにヴィ…リアまでいつの間に街を案内される関係になったんだ。」
「あぁ~…それは…」
それはきっとシャノン卿の目を盗んで王宮から出た時のことだろう。
じっとりとリアを見つめる目は確かに怖い。リアはうふふふふ~と笑いながら、そのまま目線を逸らして俺たちの少し前を歩きだした。
「あ、あれじゃないかしら?」
誰もおらず、何もない場所にポツンと佇んでいる小さな樹は、葉をつけていてそよそよと揺れている。
「これが生命の樹。」
やはりその樹は白くは光っていなかった。
「とにかく私が触れてみるわ。」
生命の樹は宿った相手が触れると分かるようで、リアはゆっくり近づき、樹へと触れた。
まだ大きくないその樹は易々と近づくことができるので、俺とシャノン卿はリアの後ろでそれを見守るだけだ。
「……シトロン。」
彼女の名を口にすると樹の葉がサワサワと音を立てた。シトロンはもしかしたらリアの声に応えたのかもしれない。
「………やっぱり声は聞かせてくれないのかしら…」
「気を落とさないでください。きっとシトロンも話をしたいと思っていると思いますよ。」
サワサワと葉が動いたのを見ていた俺はなんとなくだがそう感じた為、リアを励ました。
「うん。ここに来たら話せるかと思ったのだけど…」
「心を開いてもらえるようにこれから足を運びましょう。」
「…そうね。」
残念そうな顔をして俺に近づいてきたリアの肩を優しく抱いてやる。するといつものレモングラスの香りがした。
「…シトロン。」
今日はダメでもいつか話してほしい。
どうしてリアに宿ったのか。
どうして今なのか。何を伝えようとしているのか。
そう思いながら名を呼んだ。
『…なんじゃ。』
「っ!」
透き通るような声が響く。
どこから聞こえているのかと辺りを見渡してみたが、ここには俺たち以外に誰の姿もない。
『愛しいヴィクトリア。
魔力を分けてくれて感謝するぞ。』
「っ!シトロンなの?」
『ああ、そうじゃ。やはりゼノと接触して正解のようだったの。来てくれるのではないかと思っておったぞ。』
「どうして急に…さっきは応えてくれなかったのに…」
『返事はしておったのじゃが、まだ妾の存在が不安定じゃからな。
そうやって2人がくっついている間だけは声が聞こえるようじゃ。』
リアを励ますためだったのだが、
どうやらタイミングが良かったようだ。
『して、そっちのお前。妾と話したいと申しておったよの。』
今まで状況整理をしていたシャノン卿にシトロンは話しかけた。
「…はい。聞きたいことが山積みなのですが、よろしいでしょうか。」
『嫌じゃ。簡潔に申せ。』
「っ!
…では、何故ヴィーに宿られたのかだけでも教えてほしいのです。」
『ふむ。良いじゃろう。
妾はヴィクトリアの想いから生まれた生命の樹じゃ。ヴィクトリアが初めて恋に落ち、初々しく真っ直ぐな想いを拾ったのが始まりなのじゃ。』
「ヴィーの、初恋…?」
『ヴィクトリアは10になる頃、ゼノに恋をした。そして妾は芽を出したのじゃ。
しかし、この国には…もとい、ヴィクトリアには生命の樹が宿っておった。
じゃからずっと細々と普通の木と同様に過ごしてきた。
だがの。生命の樹が大きくなりすぎたせいで、ヴィクトリアの身体は悲鳴を上げ始めた。そして暴走を繰り返すようになったのじゃ。
だから妾はヴィクトリアと生命の樹を離そうと決意し、こうやって接触することに成功した。』
「っ!」
「えっ。でも私の暴走はゼノに止めてもらっているわ。それではダメなの?」
『生命の樹は情熱の樹。情熱的に愛し合っているからこそ為し得ているものじゃ。それが1度でも崩れてしまえば樹は腐り、国の結界は歪むじゃろう。
それに、ゼノが先立ってしまったらどうする?他に暴走を止められる奴がいるのだろうか?
それに引き換え、妾は誠実の樹。単純にお互いを思い合う心があれば暴走などしないのじゃ。』
「…つまりどういうことなんだ?」
『生命の樹を捨てて妾だけを宿せ。そうすればヴィクトリアは苦しむことはない。』
「…。」
カミーリアを捨てる。それは何百年と国を支えてきた彼女を捨てるということになる。大きくなりすぎた彼女は膨大な魔力を必要とする。だからどんどんリアが耐えられなくなってしまうのだろう。
「…嫌よ。」
ボソッと口に出したのはリアだった。
『どうしてじゃ。妾が小さい樹じゃからか?小さくとも生命の樹に変わりはない。むしろ小さいからこそ魔力を無駄にすることなく国を守れるのじゃ。』
「そう言うことじゃないわ…
私は、カミーリアにずっと助けられてきたの。だからカミーリアを捨てるなんてできない。」
リアらしい真っ直ぐとした応えだ。
「他に方法はないの?」
『…ない。
…少し考えてみると良い。
妾はいつまでも待っておるから。』
「…。」
『カミーリア。お主もヴィクトリアの意識の中で聞いておるのだろう?
いつまで待ったところでお前の穴は埋まらぬ。
ヴィクトリアを壊してしまう前によく考えるのじゃ。
それじゃぁの。』
そう言ったっきり、シトロンとの会話は途切れてしまった。
カミーリアかシトロン。それはあまりにも突然のことですぐに決めることはできない。
とにかく俺たちは大した会話をすることもなく足早に王宮へと戻った。
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