人柱皇女はキスをねだる(R18)

彩葉ヨウ(いろはヨウ)

文字の大きさ
上 下
26 / 38

意外な特技③

しおりを挟む
「シャガート様はとても慣れているようね。」

「ああ。以前やっていたらしい。」

「そうなのね。シャガート様って…」

俺は気付いている。さっきからセレンナから聞かれる会話には必ずシャガートが絡んでいる。

余程シャガートの気遣いが嬉しかったのだろう。街へと向かう中も食材を購入する中も、ずっとシャガートの話を聞いていた。

「セレンナ。あとはセレンナの服を見よう。」

「え?必要ないわよ、まだ着れるし。」

「それじゃ、出かけ着を見よう。それに、新しい下着も。さすがに俺が選ぶわけにはいかないだろう?」

「そ、そうね。分かったわ。ありがとう。」

セレンナは渋々ではあるが服を選んでくれる。セレンナは本当に無欲だ。
俺だってそこそこ貰っている。それなのに自分で使えと言ってくるのだ。

仕方ないのでセレンナが嫁ぐ為のお金として貯めることにしている。いつかセレンナが結婚する。まだ先のことなのに、考えるだけで寂しいのは妹のような存在だからだろうか。

「あ!ゼノ~!」
その声を聞いてすぐに頭が痛くなる。俺はこの声にいつも困らせられているのだ。聞き間違えるはずがない。
後ろから聞こえるその声に振り返って俺はそいつの名を呼んだ。

「…ルーア。っ…。」
そこには茶髪の見慣れた顔があった。
「え…り、リア?」

「ゼノ。」
そしてにっこりと笑う天使の後ろから紫の悪魔が現れた。

「やっほー。」
「ルーア…」

なぜ2人が一緒にいるんだ。しかもリアは護衛も連れずにこんなところを歩いている。


「ありがとうゼノ兄、買い終わっ…え?」

買い物を終えたセレンナはタイミングが悪かったのかと俺とリアを交互に見ていた。

「セレンナ。久しぶり!」
「あ、ルーアさん。お久しぶりです。どうしたんですか?」

「リアがゼノを探していたから手伝っていたの。」
いつの間にやら仲良くなったらしい2人は顔を見合わせて笑っていた。

「リアさん?」
セレンナは初めて見るリアの顔にキョトンとする。

「初めまして。リアです。ゼノにこんな可愛らしい妹さんがいるなんて知らなかったわ。」

「えっ。ありがとうございます。」



「はぁぁ…どうしてリアがここにいるんだ?(シャノン卿はどうした?)」

「ゼノが出かけたと知って、いてもたってもいられなかったの。(撒いてきたわ)」

「家でみんな心配しているかも知れないな。(早く帰るぞ)」

「そんなことないわ。シャガートは?(折角城外に出れたのだからもっといたいわ)」

「シャガートは…」

「あ、孤児院にいますよ。
今戻るところだったのでリアさんも行きますか?」

シャガートを知っているリアにセレンナは心を開ける者だと理解したようだ。
家へと案内するセレンナを止めることもできず、俺たちは孤児院へと向かうこととなった。

「まぁ!いいの?それじゃ行きましょうか!」

ああ。止めてやることができなかった。
帰ったらきっと執務を倍にされるだろうと心の中で思った。

「ゼノ。私は用事があるからここで失礼するわ。」

「あ?ああ。悪かったな、ルーア。」

「いいよ。今度またリアと会わせてよ!話し足りないんだから。
それじゃあね!」

ルーアはそのまま反対方向へと歩き出し、俺たちはそのまま孤児院へと戻った。




______

「ただいまー!」
出かける時よりも元気になったセレンナはルンルンで敷地へと入った。

「お帰り!セレ姉ちゃん!」
「セレ姉ちゃんだー!」
「セレンナ。お帰り。」
マーリンが昼寝を終えた小さい子たちと外遊びをしており、真っ先に出迎えてくれた。

「あれ?このお姉ちゃんはだーれ?」
「初めまして。リアって言うの。よろしくね?」
「リア姉ちゃん!うん。よろしくねー!」

人見知りのしないチトはリアにすぐさま懐いている。

すると賑わいに気付いたシャガートが顔を出した。

「お帰りなさい、師匠。セレンナさん。ゆっくりできましたか?」

「はい!シャガート様のおかげです。本当にありがとう。」

「いやいや、こちらこそ信用して任せてもらえるなんてとても嬉しいですから。」

なにやら花が見えるようにほのぼのとした雰囲気に俺は入っていくことができない。セレンナの顔を見る限り、シャガートに惹かれつつあるのは分かった。

「ん?…あの、そちらの女性は…



もしかしてですが、ヴィ…」

リアの存在に気付いたシャガートの口を塞ぐ。

全員がキョトンとしている中で口を開いたのはリアだった。

「忘れちゃったの?リアよ。」

ニッコリと笑うその笑顔に隠されている情報を読み取ったように、シャガートはああ、そうでした!リアさん!と続けていた。

「師匠。私はもう少し孤児院ここでお手伝いをしてから戻ります。17時には戻るようにしますので、よろしいでしょうか?(早くヴィクトリア様を王宮へと連れて戻ってください)」

「あぁ、そうだな。仕事を思い出したことだし、リアを送りながら王宮へと戻ることにするよ。(悪いな、シャガート)」

「ゼノ兄、今日はありがとう。楽しかったわ。」

「いや、いいんだ。また来るよ。何かあればシャガートに頼むと良い。」

「ええ。ありがとう。それと…
シャガート様を連れてきてくれてありがとう。」

ボソッと俺に耳打ちをするセレンナは俺が思った通りシャガートに心を奪われたようだ。

「…さあ、リア。帰ろうか。」


そうは言っても名残惜しそうにするセレンナの頭を撫で、俺はリアと一緒に王宮へと戻った。

「リア。孤児院のこと驚かないのか?」

「ゼノのことは調べていたから驚くことではないわ。でも見た感じだとしっかりと支援の要請が通っていなかったようね。あそこのオーナーに話を通さなければいけなくなったわ。」

笑っているがきっと怒っている。何やら黒いオーラが見えるのだ。
俺の家族のために怒ってくれるリアに、俺はなんだか嬉しくなった。




リアが見当たらなくなってから暫く経っていたようで、王宮ではシャノン卿が疲れた顔をしていた。

そのシャノン卿にこっ酷く説教され、執務を増やされたことは言うまでもなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...