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対面

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「お久しぶりでございます。ヴィクトリア様。」

綺麗な礼をリアに向けるのは隣国のベンジャミン皇子だ。

国王陛下への挨拶を済ませてこちらへ来たようで、隣にはアイリーン様がいる。

「ええ。久しぶりですね。」

「この度はこちらの出した書面で混乱させてしまったようで申し訳ありません。

ヴィクトリア様が進言してくださったと聞いています。
本当にありがとうございます。」

リアというよりはカミーリアなのだが、カミーリアが出てこれると知らせるのはまだ早い。

リアを利用してカミーリアの力を得ようとするものは沢山いるのだ。
どこから情報が漏れるかも分からないので、そこは伝えることができない。

「ふふっ。自分の妹のことですもの。
気付いて当然ですわ。
最初に聞いた時は驚きましたが、やはり思った通りで安心致しました。
アイリーンをよろしくお願いします。」

ふわっとした笑顔で言えばベンジャミン皇子もホッとしたように笑っていた。




そんな中俺が気になるのは騎士の方だ。
騎士はベンジャミン皇子の後ろに立ち、主人を見るわけでもリアを見る訳でもなく俺を見ている。

暫く談笑していた皇子はそういえばと思い出したように話題を変えた。

「…ああ、そうでした。
私の護衛のシャガートです。
彼もこちらの国でお世話になることになっております。」


「……シャガートと申します。」

一礼してすぐにジッとこちらを見る彼は鋭い目を向けていた。

「まあ。そうなんですの。
どうぞよろしくお願いします。

シャガートは剣技場へも行ってみましたか?隊員たちが訓練をしている場なので、興味があれば是非。

体を動かしたい時は隊員たちと手合わせして頂いてもかまいませんわ。」

リアは無愛想なシャガートにそういうと、シャガートは口を開いた。



「ありがとうございます。
…では、ヴィクトリア様の騎士様をお借りできませんでしょうか。」

「「え?」」
リアとアイリーン様が驚いている中で、ベンジャミン皇子が彼を止めた。

「シャガート。いくらなんでも急すぎるぞ。きちんと話をしてからでないと失礼だ。」

するとその制止を直ぐに拒む。
「私はこの日をずっと待っていたのです。ゼノあなた様と一戦交えなければ気が済みません。」

そう言って俺を見れば、俺はリアに判断を任せるしかない。

「……ヴィクトリア様。
いかが致しましょうか?」

俺は受けても良い。剣を交えれば俺も彼が何者か思い出すことができるかもしれない。

それに、きっと俺への恨みを晴らしたいのだから、俺にできるのはそれを受けてやることしかないのだ。

「…怪我しないでくれるのであれば。」

俺の気持ちを分かってくれているのか、止めないでくれる主人には感謝しかない。

リアは俺を信じてくれているものの、やはり心配はするようで、キュッと俺の裾を掴む。

俺はリアに視線を移すことなくそのまま「約束致します。」と口に出した。



「シャガート様。ここでは危ないので剣技場へ参りましょう。」

俺がそう言うとシャガートは後についてきた。

ベンジャミン皇子は次の挨拶が詰まっており、後ろ髪を引かれながらもアイリーン様と一緒に行ってもらった。


王宮横にある剣技場。そこは様々な場に備えた設備がされている。

シャガートを案内したそこの場所にはなにもない。ただ整備された地面があるだけだ。

「時間は15分。それでよろしいですか?」

「はい。」

「公平を期す為に同じ木刀を使います。魔法は使えば反則と見なし、負けということでよろしいですね?」

「…分かりました。」


シャガートの顔をいくら見てもやはり思い出すことはできなかった。
いつ彼の恨みを買ったのだろうか。

俺が恨まれる分には構わないが、それがリアに影響するならばその芽は摘み取らなければならない。

そう思って慣れない木刀を握りしめた。




不安そうにしながらも、リアは合図を掛けた。
それを聞き、俺はシャガートの懐へと入る。

すぐさま振り下ろされたそれを俺は弾き、後ろへと下がった。

息つく暇もなく、俺はシャガートに攻撃をしていく。それを受ける彼はなんだか動きがぎこちない。

俺への復讐のために来たのなら、なんて力不足なのだろうと思う。
本当の戦いであればそれは命取りだ。

「…腰が引けてるぞ?」
いつもの訓練の癖で相手に声をかけた。

「もっと攻めろ。左だ。
すぐに体勢を整えろ。
足で踏み出してすぐに…。そうだ。」

俺の言葉を聞いて瞬時に動けるところを見ると、一応素質はあるようだ。

「上手いが、その動きでは行動が読まれてしまうぞ。」
「っ!」

シャガートは喋る余裕はないようで、必死に俺に掴みかかる。

カンカンとリズム良く木刀が鳴る。
10分を過ぎるとシャガートは俺の動きに合わなくなってきた。疲れたのだろうか。

「…悪いが終わりだ。」
そう言って後ろを取り、首に木刀を添えれば、勝敗はついたのだ。

膝から崩れたシャガートは肩で息をしていた。

「どこでお前の恨みを買ったか知らないが、それはこれっきりにしてほしい。」

俺がそう言うとシャガートは仰向けに転がった。

「っ。流石です。




俺はあなたのようになりたい。

ずっと…。
ずっと探しておりました。

あなたに
こうして騎士になったものの、
全く強くなれないのです。」

俺は耳を疑った。

「ゼノ様。俺を…
弟子にしてください。」

起き上がったシャガートは俺に向かってそう言った。

「…………は?」




____________


「……つまり、俺の名前を聞いてこの国へ来たのは、俺に弟子入りするためで、直ぐにでも手合わせをしたかったということなのか?」

剣技場のど真ん中に座り込み、コップに注いだ水を出してやる。

それをゴクゴクと一気に飲み干したシャガートは口を開いた。

「っ。はい。
私はあなたのようになりたい。

あなたに命を助けて頂いたときからずっとそう思っていたのです。」

俺が20の時、戦場を去る最後の出向で、俺はシャガートを助けたらしい。

記憶を遡ってみるものの、俺は敵以外
見えていなかったので覚えがないのだ。

「あの時のはとても格好良かったです。誰にも負けない強さ、鋭い目つきに迫力、助けて頂いた時のことを鮮明に思い返すことができます。」

何やらうっとりと空を仰ぐ姿は触れないでおこう。

「悪いが弟子を取るつもりはない。
俺はヴィクトリア様の専属騎士だ。」

俺がはっきりとそう言うと、
そんな…と泣きそうになっていた。

「ゼノ。良いじゃない。」
シャガートを哀れに思ったようで、優しいリアは俺に言う。

「あなたが剣を握っているところを私ももっと見たいの。シャガートを弟子にとって、仕事の合間にでも面倒を見てあげられないかしら?」

「っ!ありがとうございます。ヴィクトリア様。」

そう言ってリアの手を握るシャガートを俺はすぐさま引き離した。

「無礼だぞ。それにリアは俺の婚約者だ。気安く触るな。」

怒りを顔に出すと、リアは声を漏らした。

「ゼノ…」
なんだか顔を赤らめながらうっとりと見ている。

そして視線をシャガートへと移すと、
何故かシャガートも俺をうっとりと見ていたのだ。

「…師匠に怒っていただけるなんて感無量です。」




「…はぁぁぁ。」


俺への恨みだと思っていたものはただの憧れであって、リアに害が及ぶものではないと知り、少しは安心することができた。

しかし、同時に余計なものを近くに置く羽目になったと思うのだった。
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