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助け
しおりを挟むリアを囲む男が3人いるのが見え、すぐに1人を後ろ手に取った。
しかし男は抵抗もなく、そのまま崩れ落ちたのだ。そして後の2人も次々に倒れ込む。
俺は何もしていない。
それなのに一体何が起きたのだろうか。
その男の首を触ると脈はある。
その男は気を失っているようだが、一体誰がやったのだろうか。
「…どういうことだ。」
「遅いわよ。」
そう言って立ち上がったリアは赤い目をしている。
「……カミーリア?」
「あら、私が分かるの?光栄だわ。」
そう言ってリアの顔で笑うのに、リアの笑顔とは全く違っていた。
「君がやったのか?」
恐る恐るそう聞くとすぐに答えが返ってきた。
「ええ。そうよ。
私の可愛いヴィクトリアに手を出そうとするからよ。
女の子に危害を加えようとするなんて男としてあり得ない。心から反省するまで役勃たずにしてやったわ。
あ、軽い毒だから心配要らないわよ。
体は動かないし記憶も消えるけど、自業自得でしょう?」
そう言ってニヤリと笑うカミーリアに俺は確認した。
「暴走ではないのか?」
「…ええ。あなたが毎日ちゃんと愛情表現してくれるおかげで、暴走することはなくなったの。ありがとう。
こうやって穏やかに外に出てくることなんて何百年と無かったから助かるわ。」
「…どうして暴走しなくなったんだ?」
以前はもっと暴走していたと聞いていたが、俺が契約してからは1度も見たことがないのだ。
「…そんなことも分からないで契約したの?
良いわ、いつも十分に栄養をくれるゼノだから、私から説明してあげる。
私はね、ヴィクトリアから魔力を貰っているの、少しの心と一緒にね。
でもヴィクトリアは心が弱く、いつも足りなくなってしまうのよ。
それを補うのに誰かのハグやキスがいるのだけれど、シャノンはヴィクトリアにハグはするもののキスは滅多にしなかった。
それに頬や額だけ。唇にしたことなんて無かったわ。」
「え?それじゃ俺がしていたことは…」
確かに説明ではハグやキスとしか言われていない。初めてヴィクトリア様にキスをしたときに慣れているなどと誤解されたのはそういうことだったのかと項垂れた。
「落ち着きなさい。
唇にするのが正解なのよ。
シャノンはちゃんと唇にしない上に恋心を持っていない。だからすぐに心が底をついて私が暴走していたの。
それに比べて貴方は底知れぬ愛でヴィクトリアを想っている。そしてそれを唇で伝えてくるのだから私は暴走しないし、こうやってヴィクトリアを守るために乗り移ることだってできたのよ。」
ヴィクトリア様は俺がシャノン卿とキスする場所が違うと教えてはくれなかった。
もしかしたら唇にするのが正解だと知っていたのかもしれない。
そして勝手に正解に辿り着いていた為、今回ヴィクトリア様を守ることができたのだ。結果オーライと思うことにしよう。
「カミーリア。ヴィクトリア様を守ってくれてありがとう。」
「いいのよ。この事はヴィクトリアには秘密にしてくれる?
あなたが助けたことにしてほしいの。」
「…良いのか?」
俺は何もしていない。それなのに良いのだろうかと思った。
「その代わり、ヴィクトリアの機嫌を直してあげて頂戴。
相当、妬いているわよ。」
ヤキモチ…妬いてくれたのは嬉しいが、一体何に対して妬いたのだろうか。
そう思っていると、ニヤリと笑ったカミーリアはそのまま目を閉じた。
するとヴィクトリア様の体は力が抜けて崩れた。
俺が咄嗟に抱きかかえた為、どこもぶつけることはなかったようだ。
「ん…。」
「リア!」
リアを腕に抱き、名前を呼ぶとリアはゆっくりと目を開けてくれた。
「大丈夫か?」
「あれ…私……。っ!」
キョロキョロと辺りを見渡して状況を理解したようだった。
徐々に顔を青ざめていくリアを大丈夫だと優しく撫でる。
俺はそいつらが見えなくなるようにリアを抱き上げ、先程のベンチへと戻る。
「ゼノ…ごめんなさい。」
「いいや。俺が悪いんだ。
1人にして悪かった。
怖かったろ。ごめんな。」
そう言ってジッとリアを見つめた。
「ゼノが来てくれたのだもの。私は大丈夫よ。」
リアはそう言って、俺の胸に静かに顔を埋めた。
「…さっき会った女は俺の幼馴染で、ルーアって言うんだ。腐れ縁で長いこと一緒にいるからか、俺をよくからかってくる。
つまり…何が言いたいかと言うと、
さっきの話はルーアの悪い冗談なんだよ。」
さっきのとはルーアと一夜を過ごしたというデマのことだ。
気付いてくれただろうかとリアに目線を下げると、ジッと俺を見つめるリアはゆっくりと口を開いた。
「ルーアさんと一夜を過ごしたことは…」
「ない。」
きっぱりと断言できる。
むしろ誰とも関係を持ったこともないのだから。
「…そうなの…良かった。」
「リアに誤解されたままは嫌だからな。
でも、嫌だと思ってもらえて嬉しいよ。」
誤解が解けて、ホッとする。
「本当に一夜を過ごしたのであれば私ともして欲しい。」
顔を赤く染めてそう発言するリアを俺は諭した。
「リア。そういうことはあまり言わない方がいい。先程のように怖い目に合うかも知れないんだ。
興味があるのはいいことだが、好いている人だけにしないといけない。
俺は練習相手になることはできないからね。」
自分で言っていて悲しくなったが、リアを守るためには伝えなければならない。
俺は先程のベンチへとリアを座らせた。
そして離れようとした時、腰に腕を回された。
「それじゃ、キスでさっきのことを忘れたいわ。」
今にも泣きそうな顔で俺を見つめるリアに、俺はゾクッとした。
「リア。」
「誰もいないから…」
先程怖い思いをしたばかりだというのに、俺に触れられるのは大丈夫だろうかと心配になる。
でもリアが俺を求めてくれるのなら、出来るだけ応えてやりたい。そう思って
せっかく降ろしたばかりのリアをまた抱え、俺はよく昼寝で使う木陰へと移動した。
「ゼノ…」
俺を見上げる想い人にゆっくりとキスを落とす。
ゆっくりと優しく何度も角度を変えると、俺の指にリアの指が絡んだ。
俺はそれを合図にどんどんキスを深めていった。
食べるようにリアの唇に吸い付けば、
ピクッと反応してくれるのだ。
「リア…」
そっと唇を離すと、リアが涙を流した。
「…もっと。して。」
純粋に俺を求めているのか、それともカミーリアが出てきて心が足りなくなりつつあるのか分からないが、俺はまたリアにキスをした。
次第にリップ音が聞こえてくる。
その頃にはもう舌を絡め始めていた。
「んっ。んぁ…」
夜会以来の深いキスだが、あの日のように怒りに任せたものではない。
優しくそして深く、俺の愛情が伝わってほしいと願いながら俺はリアを堪能した。
「んんっ。」
そっと唇を離すと、名残惜しそうに銀色の糸が引いた。
「ゼノ…」
トロンとした顔を向けられれば、俺の理性は崩壊寸前だった。
「っ。………ヴィクトリア様…
……お慕いしております。」
このままではまずい。そう思った俺は精一杯の壁を立てた。
本当なら好きだと伝えてしまいたい。
心から愛しているのはリア様だけなのだと言ってしまいたい。そんな気持ちを抑えた。
きっとそれは主人と騎士の関係を壊してしまう。
彼女のそばにいられなくなるのは嫌だと、俺は臆病になった。
そして俯いたリアが次に発したのは俺への返事ではなかった。
「……パン。頂こうかしら。」
いつものヴィクトリア様に戻ったようでふんわりと笑っている。そんな彼女に袋を開け、また先程のようにパンを見せた。
「こっちのパンは何かしら?」
「それはチーズが入っていて美味しいですよ。」
「あらそうなのね。それじゃあこれにするわ。」
ベンチではなく木陰で食べ始める。
「素敵ね。ここの場所。」
ニッコリとそう褒められて俺は嬉しくなった。
「ここは俺がよく昼寝に使っている場所ですので、気に入ってもらえて嬉しいです。」
「また連れてきてくれる?」
「ええ。もちろんです。俺とで良ければ。」
「何回でも言うわ。ゼノと一緒に来たいの。」
騎士として頼られていると分かっているのに、期待してしまうようなことを言わないでほしい。
「ありがとうございます。俺もリアとまた一緒に出かけたいです。」
今俺が伝えられる精一杯を伝えると、
リアは笑っていた。
「ちゃんとデートが終わるまで、言葉使いに気をつけなきゃダメじゃない。」
そう言ってまた笑うのだ。
俺も本当だ。と笑いが込み上げ、
息抜きをした後は城へと戻った。
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