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夜会の準備
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今日は夜会が行われる為、急いで執務を片付けていた。いつもの挨拶もできないまま、夜会の準備も並行して行う。
俺は剣技場へ午前のうちに向かい、もうすぐ夕方になる今はリア様の部屋で書類を受け取るだけの手伝いをしていた。
「今日のドレスは如何致しましょうか。」
いつもはいない侍女も部屋に置かれ、書類を片付けながら髪をセットされていた。
「この間シャノンに選ばせたものにして。」
「かしこまりました。」
シャノン卿はここでも出てくるのかと思ったが、従兄弟ということは夜会慣れもしているだろうし、ドレスを選ばせるには適任かと納得した。
「ゼノ。きっと夜会ではバタバタして食べられないだろうから、今のうちに食べておくといいわよ。」
夜会にはあまり参加しない俺に、リア様が教えてくれた。
きっと専属騎士は常に側にいるから食べる時間など無いのだろう。
いつもは行儀が悪いと言われてしまうのだが、書類を見ながらリア様もポリポリとクラッカーをつまんでいた。
それだけで足りるのだろうか。そんな視線を送っていると、その視線に気付いたリア様が口を開いた。
「ゼノも食べる?」
そう言って1枚口元に運ばれ、それを受け取ろうとしたら怒られた。
「もう!口を開いて?手が汚れてしまうでしょう?」
自分の手は既にクラッカーを摘んでいたから良いのだろうか。俺は仕方なくそのまま口で受け取った。
ポリポリと音を鳴らして食べる。
言いにくいが素朴な味だなと言うのが感想だ。
「…。」
「美味しくはないかしら?」
困ったように言うリア様に、しまったと思って慌てて訂正した。
「いえ。ヴィクトリア様に頂いたものが美味しくない訳はありません。」
「ふふっ。いいのよ。少し物足りない味よね。いつもはソースを付けて食べるの。」
なんだ。と思って安心する。
「これが終わったらソースも用意させるわ。」
そう言ってまた書類に目を向け始めた。
「…んー。終わったわ。
思いの外早くできたわね。
ありがとう、ゼノ。」
リア様は書類を片し終えたテーブルにクラッカーとソースを用意させた。
侍女達はまた後で夜会の準備に来るそうなので、その間に軽食としてクラッカーを食べることにしたのだ。
「はい。ゼノ。」
ソースを付けたクラッカーを口元に運ばれ、俺は慌てた。
「っ。自分で食べられます。」
「さっきは食べてくれたじゃない。」
先程は仕方ないと思って食べたが今は違うというのに、拗ねてしまったリア様を前に俺は慌てた。
「~っ。」
惚れた方が負けだと思った。
そんな顔をされてしまったら食べるしかない。
俺はゆっくりと口を開いてリア様の手からクラッカーを食べた。
「ふふっ。嬉しいわ。」
リア様はそう言って俺の口についたソースを指で拭き、それを舐めた。
「~っ。」
ボッと顔が赤くなる。
それと同時にお腹がいっぱいだと思った。
「…ゼノ。私にも食べさせて頂戴?」
口を開いたリア様にゆっくりとクラッカーを運ぶ。
すると指が少し唇に触れた。
「っ。慣れないもので…すみません。」
そう言うとコンコンと扉がノックされた。
「ヴィクトリア様。夜会の準備に参りました。」
「…分かったわ。
ゼノも部屋で準備してきて頂戴。
準備が終わったらすぐに来てくれて構わないわ。」
「かしこまりました。ではまた後ほど。」
そう言って部屋を出ると、一気に緊張から解放されてしゃがみ込んだ。
どうしてあんなに平気なんだろうか。
俺はたかがクラッカーを食べるだけだというのに、どうしてこんなにもドキドキする必要があるんだと悔しくなる。
ドキドキとすることが疲れるのに、嫌じゃないという不思議な感情になった。
「…俺と同じ気持ちならいいのに。」
ボソッと呟いたその声は誰にも届くことなく廊下に消えた。
俺は剣技場へ午前のうちに向かい、もうすぐ夕方になる今はリア様の部屋で書類を受け取るだけの手伝いをしていた。
「今日のドレスは如何致しましょうか。」
いつもはいない侍女も部屋に置かれ、書類を片付けながら髪をセットされていた。
「この間シャノンに選ばせたものにして。」
「かしこまりました。」
シャノン卿はここでも出てくるのかと思ったが、従兄弟ということは夜会慣れもしているだろうし、ドレスを選ばせるには適任かと納得した。
「ゼノ。きっと夜会ではバタバタして食べられないだろうから、今のうちに食べておくといいわよ。」
夜会にはあまり参加しない俺に、リア様が教えてくれた。
きっと専属騎士は常に側にいるから食べる時間など無いのだろう。
いつもは行儀が悪いと言われてしまうのだが、書類を見ながらリア様もポリポリとクラッカーをつまんでいた。
それだけで足りるのだろうか。そんな視線を送っていると、その視線に気付いたリア様が口を開いた。
「ゼノも食べる?」
そう言って1枚口元に運ばれ、それを受け取ろうとしたら怒られた。
「もう!口を開いて?手が汚れてしまうでしょう?」
自分の手は既にクラッカーを摘んでいたから良いのだろうか。俺は仕方なくそのまま口で受け取った。
ポリポリと音を鳴らして食べる。
言いにくいが素朴な味だなと言うのが感想だ。
「…。」
「美味しくはないかしら?」
困ったように言うリア様に、しまったと思って慌てて訂正した。
「いえ。ヴィクトリア様に頂いたものが美味しくない訳はありません。」
「ふふっ。いいのよ。少し物足りない味よね。いつもはソースを付けて食べるの。」
なんだ。と思って安心する。
「これが終わったらソースも用意させるわ。」
そう言ってまた書類に目を向け始めた。
「…んー。終わったわ。
思いの外早くできたわね。
ありがとう、ゼノ。」
リア様は書類を片し終えたテーブルにクラッカーとソースを用意させた。
侍女達はまた後で夜会の準備に来るそうなので、その間に軽食としてクラッカーを食べることにしたのだ。
「はい。ゼノ。」
ソースを付けたクラッカーを口元に運ばれ、俺は慌てた。
「っ。自分で食べられます。」
「さっきは食べてくれたじゃない。」
先程は仕方ないと思って食べたが今は違うというのに、拗ねてしまったリア様を前に俺は慌てた。
「~っ。」
惚れた方が負けだと思った。
そんな顔をされてしまったら食べるしかない。
俺はゆっくりと口を開いてリア様の手からクラッカーを食べた。
「ふふっ。嬉しいわ。」
リア様はそう言って俺の口についたソースを指で拭き、それを舐めた。
「~っ。」
ボッと顔が赤くなる。
それと同時にお腹がいっぱいだと思った。
「…ゼノ。私にも食べさせて頂戴?」
口を開いたリア様にゆっくりとクラッカーを運ぶ。
すると指が少し唇に触れた。
「っ。慣れないもので…すみません。」
そう言うとコンコンと扉がノックされた。
「ヴィクトリア様。夜会の準備に参りました。」
「…分かったわ。
ゼノも部屋で準備してきて頂戴。
準備が終わったらすぐに来てくれて構わないわ。」
「かしこまりました。ではまた後ほど。」
そう言って部屋を出ると、一気に緊張から解放されてしゃがみ込んだ。
どうしてあんなに平気なんだろうか。
俺はたかがクラッカーを食べるだけだというのに、どうしてこんなにもドキドキする必要があるんだと悔しくなる。
ドキドキとすることが疲れるのに、嫌じゃないという不思議な感情になった。
「…俺と同じ気持ちならいいのに。」
ボソッと呟いたその声は誰にも届くことなく廊下に消えた。
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