人柱皇女はキスをねだる(R18)

彩葉ヨウ(いろはヨウ)

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仕事の合間

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「おはようございます。」
昨日はゆっくりと休んだおかげで、変な緊張も取れ、笑顔でヴィクトリア様に挨拶をした。

「あ、おはよう、ゼノ。」
眩しい笑顔を浴び、俺の目は失明しそうだ。

ヴィクトリア皇女の仕事は生命の樹を守ること。それを終えたら書類を片付け、祈りを捧げるのだ。
俺はそれに付き添うだけで、ヴィクトリ様が執務中などのときは剣技場へと行くことにしている。

「それじゃ、行きましょうか。」
外を歩くというのに動きにくそうなドレスを着ているヴィクトリア様は慣れたように歩き出した。

いくら歩くからと言っても、皇女である以上は周りの目を気にした格好をしなければならない。大変だなと思いつつ、気にしないで歩く姿は誇らしかった。

「生命の樹はヴィクトリア様が魔力を渡さなければどうなってしまうのですか?」

それは素朴な疑問だった。

大地を癒し、人々を幸せにする樹は、彼女の魔力を使って機能している。それがなければどうなるのだろうか。

「暴走するわ。私の魔力が吸収できなければそのまま私の寿命に響くの。それでも足らなければ国が滅ぶか、その前に新しい人柱が選ばれるでしょうね。」

人ごとのように淡々と話す。
怖くないのだろうか。いや、きっと平気なわけではないだろう。

前に言っていた通り、これが彼女に与えられた使命だからしているのだ。

国の繁栄が自分の魔力にかかっている。
それがどれほど重荷で、足枷なのか俺には考えもつかない。

「私の母もそうだったの。

人柱だった母は国中の流行り病を治すために命を樹に差し出したわ。そして流行り病はみるみるうちになくなったの。


…そうして1週間もしないうちに今度は私が選ばれたわ。

泣いている暇もなく、ただひたすら樹に魔力を渡す日々が始まったの。

でもね、樹の中にあるお母様の魔力に触れていると温かい気持ちになるのよ。」

不思議よねと笑う彼女は落ち着いた顔をしていた。

生命の樹に着くと、ヴィクトリア様は以前のように根を登ろうとしていた。動きにくいドレスで足元を確認しながらそこに登り、ぴったりと大樹に寄り添った。

「おはよう。カミーリア。」
するとそのまま目を閉じて動きを止めた。
きっと魔力を分けているのだろう。

集中している主人に声をかけるようなことはしない。

俺はそれが終わるのをジッと待つだけであった。

暫くするとヴィクトリア様は目を開けた。
「ゼノ。終わったわ。」
そう言われた俺は彼女に手を伸ばす。

「危ないですので、手を。」
そう言って彼女の柔らかい手を取った。

ゆっくりと滑り降りる彼女はどこか楽しそうだ。

「ここの根、滑り台みたいよね。」
たまに見せる無邪気な笑顔がまた可愛らしい。

「危ないですから、気をつけて降りてください。」

「ごめんなさい。でもきっと、ゼノが助けてくれるのでしょう?」
初日の時に助けたことを言っているのだろうか。あの時は咄嗟に動けはしたものの、怪我をしていたらと思うとゾッとするのだ。

「それは確かに。何かあれば助けますが、何もない方がいいでしょう?」

怪我をしてそれが残ってしまったらと思うと気が気ではない。

「分かったわ。ゼノを困らせたい訳ではないし、気をつけるわ。」
そう言ってくれたことに俺は安心した。

そして
ボコボコとした道を手を繋ぎながら歩き、王宮へと戻った。


王宮へともどる途中。
王都の道端で何やら困っている女の子を見かけた。

女の子は動けないようだったが、転んで擦りむいただけだったので、ヴィクトリア皇女が簡単な回復魔法で治してあげたのだ。

彼女は本当に優しい。俺はそれを間近で見ることができて嬉しいと思った。






そうして、毎日変わらない平和な日を過ごして3日が経つと、体が鈍りそうな気がしてくる。



そうならないためにも、仕事が終わってから部屋でトレーニングをするようになったのだ。


「なんだか疲れているんじゃない?」

生命の樹へと向かう途中、彼女は後ろを歩く俺に口を開いた。

「え、そうですか?」

「仕事が終わった後何かしているの?ゼノの部屋からたまに音が聞こえるのよ。」

そう言われて言わざるを得なくなった俺は、トレーニングを始めたことを打ち明けた。

「まあ、そうなのね。私がこうやって執務している時にでも隣でやっていていいわよ?

仕事終わりは休める時に休まないと疲れてしまうでしょう?」

そう言われても仕事中の彼女の隣で筋トレやら素振りやらをしていいものかと悩む。

「気は散りませんか?」

魔力を分ける邪魔をしてしまってはいけないので、そう聞くと、むしろ何もしないで後ろに居られる方が気になるわと笑われた。

「それでは、お言葉に甘えさせていただきます。」
そう言ってゆっくりと腕立てを始めた。

「ねえ、ゼノ。……脱がないの?」
ヴィクトリア皇女の急な発言に、俺の動きは止まった。

「え?」
聞き間違いだろうか?
脱いでどうしろと言うのだろう。と、考える俺をよそに、彼女は口を開いた。

「騎士の修練中は上を脱ぐわよね?」
ああ、確かにと納得した。

「脱いでも脱がなくてもいいのです。みんなが脱いでいたから脱いでいただけで…」

俺は脱がない派です。と言いかけたところで、ヴィクトリア様がキラキラと目を輝かせているのが分かった。

「ぬ、脱いだ方が良…」
「そうね。」
まだ途中だというのに被せ気味に服を脱いで欲しいと言う彼女に、ドギマギさせられながら、上着を脱ぎ始めた。

「わぁ…素敵ね。」
うっとりと俺の体を眺めるヴィクトリア様はホウっと熱い息を吐いた。

「…触れても良いかしら?」
そう聞かれて心臓が跳ねる。

主人のしてもいいかはYesしかない。
柔らかい手が俺の腹筋を触る。

撫でるように触ったり、押したりと楽しそうにしてくれるのは嬉しいが、ヴィクトリア皇女に恋心を抱いている俺にはなかなかキツいものだった。

「わぁ。すごーい。硬いわね。」

にこにこと楽しそうにする彼女とは裏腹に、俺の理性は飛びそうなのだ。

「っ。ヴィクトリア様!」
ぎゅっと彼女の腕を掴むと、俺の理性は保たれた。

「ぁ…えっと。触るのはくすぐったいのでおやめ下さい。」

そう言って笑うと、彼女は分かったわと少し拗ねていたが、俺は自分の首が繋がったことにホッとしていた。
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