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叙任式
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皇女の仕事など、みっちりと教え込まれた俺は、日を改めて別邸へと住まいを移した。
専属騎士は何かあったときの為に、皇女の部屋の隣に住まわされる様だ。
部屋はシンプルで、直接ヴィクトリア皇女の部屋に繋がる扉もあるところを見ると、かなり信用されているのだと思った。
「隣の部屋にはヴィクトリア様が…」
口に出すとさらに現実なのだと思い知らされる。
考えただけで心臓がバクバクと音を立てているのが分かった。
「…落ち着け。俺は信頼されているのだ、変な気を起こすな。」
俺の気持ちが知られれば、騎士隊にもいられなくなってしまうかもしれない。
変な欲を出すことなくヴィクトリア皇女に献身的に仕えよう。そう思った。
先日の国王から辞令をしっかりと形にするべく、今から皇女専属騎士の叙任式が行われる。俺は指示された通りに騎士の正装に着替えて部屋を後にする。
コンコンと隣にあるヴィクトリア皇女の部屋をノックして返事を待った。
「失礼致します。ゼノでございます。」
「どうぞ。」
部屋に入ると侍女の手によって着飾られた正装のヴィクトリア皇女がいた。
ヴィクトリア皇女は机に向かって読書をしていた様だ。
「美しいです…」
呆気にとられ、ボソッと本音が漏れた。
するとヴィクトリア皇女はクスクスと笑っていた。
「ふふっ。褒められるのは嬉しいわ。貴方もよく似合っているわよ。」
そう褒められれば俺は恥ずかしくなって顔が熱くなった。
「…光栄にございます。」
「叙任式の流れは覚えたかしら?」
「はい。扉を入って真っ直ぐとヴィクトリア様のところに向かうのですよね。
そして跪き、言葉を待って、剣を受け取る。
それでよろしいのですよね?」
俺は何かを考えるのは苦手な為、大まかにしか覚えていない。
「ふふっ。貴方らしいわ。それで大丈夫よ。後は私をエスコートしながら扉から出て終わり。よろしくね?」
すっかり忘れていた後の工程を聞かされ、本当にちゃんとやり遂げられるか不安になった。
ヴィクトリア皇女をエスコートして会場の入り口まで行くと、正装をしたシャノン卿がいた。
「シャノン。」
「相変わらず美しいですね。」
流れる様に皇女を褒めるシャノン卿は慣れているようだった。
そっと手を伸ばすシャノン卿の手をヴィクトリア様が取り、そのまま俺の手から離れた。
「ゼノ。ヴィクトリア様のエスコートありがとう。私たちは先に入るから、後は式典の流れ通り頼むよ。」
ヴィクトリア様と手を重ねたままのシャノン卿に言われ、俺はコクンと頷いた。
2人は開いた扉から中へと進む。
シャノン卿とヴィクトリア皇女はなんだか距離が近い。8年も専属騎士だったのだから当たり前と言えば当たり前なのだが、なんだか羨ましいという気持ちになった。
扉の向こうでは難しい儀式が行われているようだ。とりあえず俺は名前が読まれるのを待つ。
「シャノン・テオドール。
…ヴィクトリア・フローレンスの専属騎士としての任を解き、新たに王族補佐としての任を与えよう。
そして、シャノン・テオドールの後にはゼノ・ザッカリーを任命する。
ゼノ・ザッカリー。入るが良い。」
入る合図を聞き、俺は開かれた扉から謁見の間へと入った。
入った時の視線が痛い。
こんな視線の中を自然に歩く2人はやはり凄いと思う。
ついこの間まで普通の騎士でしかなかった俺には少し堪え難いのだ。
国に仕える文官達が一斉に俺を見ている。俺はその視線に耐えながら、先程確認した通りに、ヴィクトリア様の前で跪いた。すると説明にはなかったが、ヴィクトリア様が右手を出してきた。
「え?」
少しフリーズすると、隣にいたシャノン卿が小声で手の甲にキスをするんだ。と教えてくれた。
そんなことしたことがないと思いながらも、ヴィクトリア様の手を取り、ゆっくりとキスを落とした。
するとふわっとヴィクトリア様が笑う。
「ゼノ。これからよろしくお願いします。」
そう言って剣を私に向けた。
「お任せください。」
そう言って剣を受け取ると、会場から拍手が沸いた。
これで一通りは済んだのだろうか?
後は何だったか。一生懸命考えたものの出てこなかった。
「ゼノ。」
そう呼ばれて振り返ると、手を出すヴィクトリア様がいた。
ああ。そうだ。ヴィクトリア様の手を取り、エスコートをして、ここを後にするのだと思い出す。
スッとヴィクトリア皇女様の手を取ると俺の瞳を見つめてきた。
「上手よ。」
そう言われて心がグッとなる。
俺はそのままヴィクトリア様と歩き、その場を後にした。
ヴィクトリア様の部屋につくと、一気に緊張から解放された。
「はぁぁぁぁ。終わった。」
「ふふっ。上手だったわよ。」
そう言って俺に水を差し出してくれた。
「ぁ、ありがとうございます。」
渡されたそれをゴクゴクと音を鳴らしながら流し込むと、ヴィクトリア様は嬉しそうに見ていた。
「…?ヴィクトリア様?」
「いいえ。ただ男らしいなと思っただけよ。」
そう言われた途端に顔がプシューっとなるほど顔が赤くなったのが分かった。
「…からかわないで下さい。」
「最初は素っ気ない人かと思ったけれど、やっぱり照れているだけなのね。」
クスッと笑われてしまい、俺は口を噤んだ。
そうこうしているとコンコンと扉がノックされた。
「シャノンね。」
音で分かったかのようにヴィクトリア様は言う。
「お疲れ様です。
これで私の任は解かれましたが、
何かあれば力になりますので、
頼って下さいね。ゼノ。」
そう笑顔で言われれば、俺ははいと答えるだけだった。
「さてと、今日は初日だもの、後は部屋で休んでもらって構わないわ。」
そう言われてもやることはないが、戻れと言われれば戻るしかないと部屋に戻った。
見送られる時も2人が部屋に残ることが気にかかる。なぜあれほど仲が良いのだろうか。
ただの主人と騎士の関係だけではないような、雰囲気がある。
もしかして恋人だったりするのだろうか…
それであれば、専属騎士となった俺は恋人の間を切り裂いた厄介者でしかないのではないかと頭を押さえたが、
そのあとどんなに考えても俺の頭では考え切れるはずもなく、さっさと眠りについた。
専属騎士は何かあったときの為に、皇女の部屋の隣に住まわされる様だ。
部屋はシンプルで、直接ヴィクトリア皇女の部屋に繋がる扉もあるところを見ると、かなり信用されているのだと思った。
「隣の部屋にはヴィクトリア様が…」
口に出すとさらに現実なのだと思い知らされる。
考えただけで心臓がバクバクと音を立てているのが分かった。
「…落ち着け。俺は信頼されているのだ、変な気を起こすな。」
俺の気持ちが知られれば、騎士隊にもいられなくなってしまうかもしれない。
変な欲を出すことなくヴィクトリア皇女に献身的に仕えよう。そう思った。
先日の国王から辞令をしっかりと形にするべく、今から皇女専属騎士の叙任式が行われる。俺は指示された通りに騎士の正装に着替えて部屋を後にする。
コンコンと隣にあるヴィクトリア皇女の部屋をノックして返事を待った。
「失礼致します。ゼノでございます。」
「どうぞ。」
部屋に入ると侍女の手によって着飾られた正装のヴィクトリア皇女がいた。
ヴィクトリア皇女は机に向かって読書をしていた様だ。
「美しいです…」
呆気にとられ、ボソッと本音が漏れた。
するとヴィクトリア皇女はクスクスと笑っていた。
「ふふっ。褒められるのは嬉しいわ。貴方もよく似合っているわよ。」
そう褒められれば俺は恥ずかしくなって顔が熱くなった。
「…光栄にございます。」
「叙任式の流れは覚えたかしら?」
「はい。扉を入って真っ直ぐとヴィクトリア様のところに向かうのですよね。
そして跪き、言葉を待って、剣を受け取る。
それでよろしいのですよね?」
俺は何かを考えるのは苦手な為、大まかにしか覚えていない。
「ふふっ。貴方らしいわ。それで大丈夫よ。後は私をエスコートしながら扉から出て終わり。よろしくね?」
すっかり忘れていた後の工程を聞かされ、本当にちゃんとやり遂げられるか不安になった。
ヴィクトリア皇女をエスコートして会場の入り口まで行くと、正装をしたシャノン卿がいた。
「シャノン。」
「相変わらず美しいですね。」
流れる様に皇女を褒めるシャノン卿は慣れているようだった。
そっと手を伸ばすシャノン卿の手をヴィクトリア様が取り、そのまま俺の手から離れた。
「ゼノ。ヴィクトリア様のエスコートありがとう。私たちは先に入るから、後は式典の流れ通り頼むよ。」
ヴィクトリア様と手を重ねたままのシャノン卿に言われ、俺はコクンと頷いた。
2人は開いた扉から中へと進む。
シャノン卿とヴィクトリア皇女はなんだか距離が近い。8年も専属騎士だったのだから当たり前と言えば当たり前なのだが、なんだか羨ましいという気持ちになった。
扉の向こうでは難しい儀式が行われているようだ。とりあえず俺は名前が読まれるのを待つ。
「シャノン・テオドール。
…ヴィクトリア・フローレンスの専属騎士としての任を解き、新たに王族補佐としての任を与えよう。
そして、シャノン・テオドールの後にはゼノ・ザッカリーを任命する。
ゼノ・ザッカリー。入るが良い。」
入る合図を聞き、俺は開かれた扉から謁見の間へと入った。
入った時の視線が痛い。
こんな視線の中を自然に歩く2人はやはり凄いと思う。
ついこの間まで普通の騎士でしかなかった俺には少し堪え難いのだ。
国に仕える文官達が一斉に俺を見ている。俺はその視線に耐えながら、先程確認した通りに、ヴィクトリア様の前で跪いた。すると説明にはなかったが、ヴィクトリア様が右手を出してきた。
「え?」
少しフリーズすると、隣にいたシャノン卿が小声で手の甲にキスをするんだ。と教えてくれた。
そんなことしたことがないと思いながらも、ヴィクトリア様の手を取り、ゆっくりとキスを落とした。
するとふわっとヴィクトリア様が笑う。
「ゼノ。これからよろしくお願いします。」
そう言って剣を私に向けた。
「お任せください。」
そう言って剣を受け取ると、会場から拍手が沸いた。
これで一通りは済んだのだろうか?
後は何だったか。一生懸命考えたものの出てこなかった。
「ゼノ。」
そう呼ばれて振り返ると、手を出すヴィクトリア様がいた。
ああ。そうだ。ヴィクトリア様の手を取り、エスコートをして、ここを後にするのだと思い出す。
スッとヴィクトリア皇女様の手を取ると俺の瞳を見つめてきた。
「上手よ。」
そう言われて心がグッとなる。
俺はそのままヴィクトリア様と歩き、その場を後にした。
ヴィクトリア様の部屋につくと、一気に緊張から解放された。
「はぁぁぁぁ。終わった。」
「ふふっ。上手だったわよ。」
そう言って俺に水を差し出してくれた。
「ぁ、ありがとうございます。」
渡されたそれをゴクゴクと音を鳴らしながら流し込むと、ヴィクトリア様は嬉しそうに見ていた。
「…?ヴィクトリア様?」
「いいえ。ただ男らしいなと思っただけよ。」
そう言われた途端に顔がプシューっとなるほど顔が赤くなったのが分かった。
「…からかわないで下さい。」
「最初は素っ気ない人かと思ったけれど、やっぱり照れているだけなのね。」
クスッと笑われてしまい、俺は口を噤んだ。
そうこうしているとコンコンと扉がノックされた。
「シャノンね。」
音で分かったかのようにヴィクトリア様は言う。
「お疲れ様です。
これで私の任は解かれましたが、
何かあれば力になりますので、
頼って下さいね。ゼノ。」
そう笑顔で言われれば、俺ははいと答えるだけだった。
「さてと、今日は初日だもの、後は部屋で休んでもらって構わないわ。」
そう言われてもやることはないが、戻れと言われれば戻るしかないと部屋に戻った。
見送られる時も2人が部屋に残ることが気にかかる。なぜあれほど仲が良いのだろうか。
ただの主人と騎士の関係だけではないような、雰囲気がある。
もしかして恋人だったりするのだろうか…
それであれば、専属騎士となった俺は恋人の間を切り裂いた厄介者でしかないのではないかと頭を押さえたが、
そのあとどんなに考えても俺の頭では考え切れるはずもなく、さっさと眠りについた。
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