96 / 104
できること④
しおりを挟む目が覚めると、またいつもの天井を見る。
そしてまたルキアとローザの手助けに感謝をした。
「ふぅ…流石に5日続くとキツいわね…。」
体を起こし、少し頭痛のする箇所を抑えると、ここ最近の無理に気付く。
すると枕元から小さな声が聞こえてきた。
「ニャー…、」
心配するように、私に聞こえるかどうかも分からないほど細い声を鳴らすのはルキアだ。
「ルキア…。おはよう、
昨日も運んでくれたのね。
ありがとう。」
そう言って彼の頭を優しく撫でてやると、彼はいつもの姿へと戻る。
「…主人…。
まだ寝ていた方が宜しいかと思います。」
「え?」
彼はベッドから降り、俯き加減でそう喋るが、下から見ていた私からは表情がうかがえた。
辛そうに眉を顰め、苦しそうに目を伏せる。
それだけで私の心配をしていることが分かる。
「ごめんね、ルキア。
心配をかけてしまって…。
でも大丈夫、…もうすぐ…」
「危険です!
いくらエミリーが魔力切れに慣れていたとしても、こんなに毎日…
体が持ちませんし、何より寿命が…っ」
喋り出した彼は私に向けて自らの抱えていた不安を曝け出す。
「っ…申し訳ありません。
言葉を遮ってしまいました…。」
私が彼を諭すように喋ると、彼は被せるように言を発したあと、また辛そうな顔に戻ってしまった。
「ルキア…。大丈夫よ。
毎日気を失ってしまっているけど、魔力は命に影響のない程度に捧げているの。
…ソアレが魔力を見て、調節してくれているのよ。
彼によって眠らされているだけだもの、何も危ないことはないわ。」
「…そんな、…精霊がそんなことできるだなんて聞いたことはありません。
…それが事実だと証明する術がないのです。
私は、エミリーを失うことが怖い…。
もうあの人のためにそんな事をしないで欲しい…。」
「……。」
ずっとそんな不安と隣り合わせだったのだろうか。
ここ5日もずっと、自分の主人が倒れる様を見せられた彼は一体どんな気持ちだっただろうか。
そう考えて初めて、自分は少し自分勝手だったと反省した。
「エミリー…
貴方を忘れてしまったあの人に、
どうしてそんなに拘るのですか…
私なら何があっても、貴方を忘れたりはしない…。」
ルキアはそう言って私に顔を近づける。
キスされる…
そう思う時には体は動いていた。
「っ。…エミ、リー?」
ギュッと近付いた彼を抱きしめると、
彼は少し慌てている。
「ルキア…心配してくれてありがとう。
でも、私はそうしたくてしているの。
例え本当に命が削れていようが気にしないわ。」
「っ!そんな…っ」
「それはグリニエル様だからというわけではないわ。
これが隊長だろうがクローヴィスだろうが、私にできるならそうしている…。
もちろん、貴方がそうなったら喜んで命を削ってそうする。」
「っ…⁉︎」
「私はみんなが大切よ。
むしろ私に少しでも可能性があって嬉しい。
今まで何もできないお荷物で、私は無我夢中で生きてきたわ。
やっとみんなに報いることができて嬉しい…そう思っているの。」
「…。」
「まあ、命を削られてしまうことを防げるのならそれに越してことはないわ。
だってみんなと一緒に過ごせなくなってしまうでしょう?」
「っ!」
「だから心配しないでちょうだい。
私はまだまだ長生きするつもりよ。
貴方に支えてもらいながら…ね。」
「っ。勿論でございます。
私は一生を貴方に捧げます!
だからどうか、無理だけは…っ」
私は彼を離して目を合わせる。
そして笑った。
「大丈夫よ!」
「っ…。…貴方の大丈夫には敵いません…。
…せめて軽食を取ってください。
朝1度だけでは栄養が摂れません…。」
彼は姿勢を正すと、顔を背けてそう言った。
「ええ。分かったわ。
ありがとう、ルキア。」
「っ。こちらこそ、出過ぎた真似を致しまして申し訳ありませんでした…
でも、どうか、無理だけはしないでください。
…そうでなければ私はどうにかなってしまいそうです…。」
少し彼に心配をさせ過ぎてしまったかもしれない。
そう思って私は分かったと返事をした。
0
お気に入りに追加
97
あなたにおすすめの小説
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
【本編完結】五人のイケメン薔薇騎士団団長に溺愛されて200年の眠りから覚めた聖女王女は困惑するばかりです!
七海美桜
恋愛
フーゲンベルク大陸で、長く大陸の大半を治めていたバッハシュタイン王国で、最後の古龍への生贄となった第三王女のヴェンデルガルト。しかしそれ以降古龍が亡くなり王国は滅びバルシュミーデ皇国の治世になり二百年後。封印されていたヴェンデルガルトが目覚めると、魔法は滅びた世で「治癒魔法」を使えるのは彼女だけ。亡き王国の王女という事で城に客人として滞在する事になるのだが、治癒魔法を使える上「金髪」である事から「黄金の魔女」と恐れられてしまう。しかしそんな中。五人の美青年騎士団長たちに溺愛されて、愛され過ぎて困惑する毎日。彼女を生涯の伴侶として愛する古龍・コンスタンティンは生まれ変わり彼女と出逢う事が出来るのか。龍と薔薇に愛されたヴェンデルガルトは、誰と結ばれるのか。
この作品は、小説家になろうにも掲載しています。
神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!
カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。
前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。
全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
彫り師が異世界に聖女として召喚されたが、何よりも魔王が気になって仕方がない。
甘寧
恋愛
彫り師として世界各国をまたにかけるほど有名な私。
充実した毎日を送っていたある日、飛行機事故で命を落としそうになったその時、異世界へ召喚された。
どうやら、この世界を脅かしている魔王を討伐してくれとの事なんだが……
いや、そんな事より魔王の腕に描かれている模様……めっちゃかっこよくない!?
魔王を追いかける聖女(討伐目的じゃない)
そんな聖女にたじろぐ魔王様(決して弱い訳ではなく、積極的に迫ってくる聖女の扱い方が分からないだけ)
そんなお話……
【完結】ツンデレ一家の深い愛情を受けて育った伯爵令嬢(仮)です。このたび、婚約破棄されまして。
雪野原よる
恋愛
義父「お前は養女なんだからな、必要なものは黙ってないで言え!」 義母「貴方のために、わざわざお部屋を用意したわけじゃありませんからね」 義兄「……お前になんて見惚れてない」 義妹「……姉様って呼びたいだなんて思ってないんだから」 ──あまりに分かりやすいツンデレ一家に養女として引き取られた私は、深い愛情を注がれて、とても幸せに暮らしていた。だから、彼らに何かお返しがしたい。そう思って受け入れた婚約だったけれど……
※頭を空っぽにして書いたので、頭を空っぽにしてお読み下さい。
※全15話完結。義兄エンドです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる