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目覚め③

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「…どうしてジョルジュワーンに?」



「…ブルレギアス様から今回のことを聞いてね。提案されたんだ。
もしグリニエル殿が目を覚さなくとも我々に目が行けば少しは場を誤魔化せるし、エミリーのずば抜けた身体能力だって分かってもらいやすい。」


「…、君の命を狙おうだなんて考える奴がいたら、それは一筋縄ではいかないと先に見せておかなくてはね。」


「…っ。ありがとう。レヴィ…。」




つまりは私達のために早く国に来てくれたということだろう。

私はレヴィに合わせてステップを踏んでいき、曲の流れに身を任せる。






「目が覚めて本当に良かった。
手助けしてやれなくて悔しかったんだ。
今回のことは、とりあえず私と皇帝の中で話がまとまったよ。
従兄さんには、もう少し時間がいるという判断がなされた。」


「そう…。」




「まあ、互いに想い合えばその時に事実を知れるそうだ。だから、国では今後も聖女と勇者は交わらないものとしておくつもりだよ。」




「そうね…。無理やり合わせたところで上手くいくはずがないわ。」



聖女と勇者は奇跡も闇も両方と繋がる。
それは紙一重だということが分かった今、無理やりにそれを行うわけにはいかない。


それが分かる人で良かったと思った。


「双子達は今穏やかに暮らしているの。
だから…っ」



「ああ。双子をヴィサレンスに連れて帰ることはしない。
前勇者のアルフレッド殿に一任することになったよ。もし、何か困り事があれば手を貸すことにはなったから、安心して過ごしてほしいと思う。」



「っ…そこまで手を回してくれているのね。」



「私は外交官だ。
色々なものを見て色々な考えを導く。
それはどんな些細なこともなしにしてはならない。」


「…頼もしいわね。」


彼はもうすでに3柱。
国を引っ張り、国と国を結ぶ責任ある席へと着いた。

彼はそれだけの能力があり、それが認められたのだ。






「ところで、目が覚めたものの、彼には記憶がないんだって?」






「ええ。」







「…はぁ。やっと全てが丸く収まるだろうって時に何をやっているんだか…。
…まあ、さっきのがきっかけにでもなれば良いんだがな。」





「…きっかけ…?」




「ああ。
衝撃で思い出すかもしれないだろう?」



「衝撃…。」





グリニエル様の記憶を戻すためには、じっとしているだけが方法ではないのかもしれない。


先程の。ということは奇襲もそれに該当するかもしれないというわけだ。


ブルレギアス様にはじっとしていろと言われたものの、じっとしていられるほど大人しいわけでもない。

そう思って、私はアネモスにソアレの手がかりがないかを探してきて欲しいと頼んだ。



『…まあ、遠くには行っておらんだろうから、行ってくる。
もし何かあればすぐに呼ぶが良い。』



そう言い残して、アネモスの声は聞こえなくなった。








「このまま、もう一曲踊ろうか?」



「え…?」




「この国では2曲踊るのが普通なのだろう?
今手を離せば誰と踊らされるか分かったものでもない。
ブルレギアス殿から、グリニエル殿に声を掛けておくとは言われていたんだが…あの様子だと伝え漏れているのかもしれない。」



「っでも…。」


「2曲続けては婚約者としか踊ってはならない…だったか?
…兄妹なのだから気にせずともいい……とも思うが。
そういうわけにはいかないか。」



「っ。…ええ。」



踊り出してしまった以上、次も踊ることとなるだろう。知らない貴族達ではないため、構わないとも思うが、沢山の貴族達がいる中で1人選ぶのもなかなかに難しいもの。


できるなら、誰と踊れば良いか、事前にブルレギアス様に聞きたかったと反省した。



「それなら、ケインシュア殿に頼もう。」


「まあ、それなら…。」






曲がもうすぐ終わってしまう。



2曲踊らない手もあるが、それはジョルジュワーンのルールを知らないと取られてしまうだろう。




そうさせないために、レヴィは気を遣って、隊長に向けて合図を送ってくれた。











「あ、どうやら気付いてくれたようだ。」


「それならよかった…。」



私の前にはレヴィがいる為、どこに隊長がいるかが分からない。

しかし、彼がそういうのだからもう安心だろう。



踊ることが嫌いな隊長には申し訳ないが、今回ばかりは助けてもらうほかない。

後で隊長の好きなお酒を用意して、シェリーにお酒を注いでもらえるように頼み込もうと思った。






「…エミリーは何でも卒なくこなすな。
つい最近兄妹になったとは思えない。」



「ありがとう。褒められるのは嬉しいわ。小さい頃、グリニエル様と沢山練習したの。それの賜物よ。」


ダンスを褒められたことに私が自然に微笑むと、丁度よく曲が終わり、レヴィの手が頭に乗せられた。



「頑張れエミリー。
私たちはもう家族だ。
いつでも頼ってこい。
君がもし、彼のそばにいるのが辛くなったら、私たちはどんな手を使っても助け出してやる。」


「レヴィ…。」



そう告げると私の背に手を回し、優しくキュッと抱きしめてくれた。




「ありがとう…。」





周りは、妹の門出を祝う見送りの抱擁だと思ったようで、優しい視線に囲まれた。










すると、私の手をグイッと引き、レヴィから引き離した人がいた。






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