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目覚め②
しおりを挟む「エミレィナ・ヴィサレンス殿。
此度はジョルジュワーンとの同盟に先駆け、かの者の移住入国を認めることとなった。
客人としてではなく、1人の国民として我等と共に歩もう…。」
式典が始まってしまった。
壇上には病養中の国王陛下に代わり、ブルレギアス様が上っている。
私も、同じく壇上へと上がり、同盟を表すための式典が進められていく。
「エミレィナ・ヴィサレンスは王城の敷地内に住まい、謁見の際には我、ブルレギアスを通すものとする…。」
横目でグリニエル様を見ると、
彼は記憶喪失とは思えないように真っ直ぐと立っていた。
緊張しているわけではなさそうだが、少しぼんやりとしているようにも思える。
目が覚めてすぐに式典へ出席するなんて、やはり体力的に難しかったのだろう。
「ジョルジュワーンとヴィサレンスとの架け橋となることに、異論はないだろうか。」
「………ありません。」
「…では、正式にここに誓う。」
これが終わればあとはこのままパーティーへと移行される。
本来は日を分ける予定だったのだが、いつの間にか今日だけで終わるように予定が変更されていたのだ。
まあ、そのおかげで、忙しいのは今日だけで済みそうだ。
きっと、グリニエル様が目を覚さないことを想定してのスケジュールに変更されたのだろう。
今日だけであればグリニエル様が不在でも、どうにか誤魔化すことができるが、それが何日もとなれば噂立たない訳がない。
王族が目を覚さないとなれば一大事。
そしてその隙をついてブルレギアス様を狙う者だっていないわけではない。
そのための配慮だろう。
そんなことを考えている間に式典は終わりを迎え、皆がホール内に散らばり始めた。
「ふぅ…」
長かった。
何だか最近はこういう格式ばったものばかりしているなと思い返す。
私はゆっくりと振り向き、足を踏み出す。
するとどこからか、僅かな殺気が感じられた。
「っ!」
バレない程度にキョロキョロと辺りを見渡してみるものの怪しいものはおらず、グリニエル様の近くにいた隊長の姿は無くなっていた。
「っ…」
落ち着くのよ…。
ここで焦ってはダメ…。
どこからの殺気なのかを見極めなければならない。そう思って集中した。
冷や汗が流れ、それを辿るというころ、その姿を捉える前に、気配が動いた。
「っ!アネモス!」
その気配は真っ直ぐに、私が意識していた場所へと進む。
私はそれよりも早くその場に着くために、アネモスの力を借りて踏み込んだ。
「…っグリニエル様!伏せて!」
「っ⁈」
殺気立つその者とグリニエル様の前に立つと、私はクルリと身を翻して回し蹴りをする。
ドレスが舞い下りると同時に見えたものは、仮面を被っている男が、右腕で私のその蹴りを受けている様子だった。
誰なのかという肝心のその姿は分からず、私が一瞬怯んだ隙に、その足を払いのけて私への攻撃を早めた。
拳も蹴りも、どちらも甘い。
本当に当てようと思っているのだろうか。
そう思うが、その動きが早すぎて、私はそれを受けるのでいっぱいだった。
「っ!」
周りは私たちから距離を取ってはいるものの、慌てている様子はない。
私はその不思議な空間を冷静に分析していた。
見覚えのある動き。
その動きを前に、私は彼の拳を平手に受けて静止させた。
「…レヴィ……?」
こちらに来るには少し早い日取り。
しかし、あちらの国で何度も見たその動きを私が見間違うわけはなかった。
「…やっとか。」
彼はその仮面を取り、眉を下げながらも優しく笑う。
「ど、どうして…?」
「ちょっとした余興だよ…。後で説明する。とりあえず話を合わせてくれ。」
「え?…え?」
状況が全く飲み込めない中、私はレヴィに手を引かれ、中央へと誘われる。
するとブルレギアス様が声を上げた。
「此度の移住に当たり、ヴィサレンスの外交官であるレヴィ・ヴィサレンス殿。並びにセレイン・ヴィサレンス令嬢が参られた。
ヴィサレンスの国民はとても身体能力が高く、それは王族であれば尚のこと。…それを見て欲しいとの申し出を受け、セレモニーとさせていただいた。
素晴らしき催しに感謝致す。」
「っ。」
ブルレギアス様直々の拍手に、会場内もつられて手を鳴らす。それに合わせて2人が綺麗に礼をするので、私もそれに合わせて頭を下げるしかなかった。
「では、改めてパーティーの始まりだ。
楽しんでいってくれ。」
ブルレギアス様の挨拶に、それぞれが動き出す。
「ちょっ…セレイン姉様。
これは一体…っ!」
「エミリー。話をしている暇はなくてよ。」
「へ?」
私がセレイン姉様に説明を求めると、すぐさま私たちはジョルジュワーンの貴族達に囲われてしまった。
「此度はヴィサレンスとの同盟。おめでとうございます。」
「いやはや、ヴィサレンスの王族の方とお会いすることができるとは…。」
「妹君の移住に駆けつけるとは何とも素晴らしい兄妹愛です。」
「…ありがとうございます。」
「わたくしもそう思います。それもこれも、エミレィナが移住を決意してくれたからですわ。」
「妹のことですから当たり前のことです。
エミレィナには幸せになってもらいたいのですわ。」
あちらこちらからの質問に答えていく2人はさすが場慣れをしている。それだけでなく、外交官の経験はやはり伊達ではなかった。
するとしばらくして、ダンスの曲が流れ、レヴィは「失礼」と発すると、私の手を取り中央へと向かった。
「あれ…セレイン姉さまは大丈夫なの?」
「ああ。繋がりを多く作り、自身の評価を上げたいと言っていたから放っておいて大丈夫だ。
大方、その人と会う前に周りを固めておきたいんだろう。」
「あ……なるほど。」
セレイン姉様はとても有意義に時間を使っているようなので、私はステップを踏みながら、自分の疑問をレヴィにぶつけた。
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