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それぞれの道②
しおりを挟む「エミリー。」
「あっ…レオ。」
「目が覚めて隊長のところに行ったって聞いたから向かうところだったんだ。
入れ違いにならなくて良かった。」
城へと戻る途中、中庭で会ったのはレオだった。
レオは潜入騎士の研究所を知っている訳ではない為、家に行こうとしていたのかもしれない。
そう思うと、本当に入れ違いになりかねなかったなと思った。
「何か急ぎの用でもあったの?」
私が目を覚ましたと聞いたということは、私の部屋に行ってみたのだろう。
「いや、ロティスタディアに行ったら多分戻ってくることはほぼ無いだろうから、挨拶したかっただけさ…。
意識が戻って本当に良かった。
心配したんだからな。」
レオは私の前に立つと、ポンポンと頭を跳ね撫でた。
「ごめんね。でも、私ももう立派な騎士だって分かってくれたでしょう?」
「…ああ。
……いや、もうとっくに騎士だったよ。
これからはおてんばな姫一択だけどな…。」
「…おてんばは余計ね。」
「「プッ…ハハッ。」」
私とレオは昔のように顔を見合わせて笑った。
もうこんな時間を過ごすことはないのだと思うと、やはり寂しいものだ。
「……幸せになってね。レオ。」
「…ああ。ありがとう。
エミリーこそ、そろそろあの人と向き合えよな。」
それは悪戯そうに微笑みながらも、真面目に言っているようにもとれる不思議な表情だった。
それに対して、私はもう誤魔化したりはしない。
「ええ…潔くぶつかるつもりよ。」
「…それでこそ俺の知るエミリーだ。」
「…ロティスタディアに行っても騎士を続けられるの?」
「…勿論だろ?いくら国の姫と結婚しようが、国王になる訳じゃない。
俺の本分は騎士だ。
俺から剣を取ったら俺じゃない。そうだろう?」
「うん…。わそれもそうね。
…それにしても、ティトリリー様ってかなりの美人だと聞いたけど、良くお近づきになれたわね。」
「……ああ。そうだな。大陸一の美人だよ。
それ以上の美人とは会ったことがない…。
だが、向こうから気に入ってくれれば話は違う。」
レオは惚気ているのに少し寂しそう。これが俗に言うマリッジブルーというものなのだろうか。
それにしても一国の姫が騎士に見惚れるなど信じられなかった。
「姫がお忍びで国内を回っていたんだ。
その道中で魔族に襲われているところを俺が助けた…。
本当なら勝手に他国に足を踏み入れたお咎めを受けるはずだったんだがな、婚約を受け入れるのであれば不問とし、ジョルジュワーンと交易も行うときた…。
そうとなれば道は一つしかないだろう。」
「まぁ…。」
随分と積極的な姫だ。
「ま、悪い人じゃなかった。
ゆっくりと互いを知る時間も貰ったし、本当の意味で想い合えるように精進するさ。」
「…そう。それを聞いてホッとしたわ。
騎士たるもの、一度決めたことは突き通さなければならないわよ。」
「…ああ。もし次に会える時は、彼女を紹介するよ。」
「ええ。楽しみにしているわね。
…今日のお昼には戻るのでしょう?
王子殿下の帰国に間に合って良かったわ。
護衛だけ遅れて戻るだなんておかしいもの。」
「……間に合うことは間に合うが、別にあいつだけ先に戻っても構わないさ。
どうせクローヴィスの移転で動く手筈になっているんだから、危険なんてないんだ。」
「全くもう…そういう問題ではないでしょう。ちゃんと一緒に戻るのよ?」
「…。」
「…もっと言ってやってくれ、エミレィナ。」
「あ、ゾゼダイル様。」
急に私の容姿魔法が解けたということは、彼だろう。そう思うのと同時に、私はその人の名前を呼んだ。
「レオッツォは私に冷たいんだ。
まあ、彼の気持ちを無視して強引な要求をしたことを詫びて、兄弟として気兼ねない仲を求めたのはこちらなのだが…。
君からも言ってくれないだろうか。」
「まあ…。レオ。お義兄様になるのだからそんな態度はだめよ。
それに、いくら安全だろうと、王族の方を一人で帰すなんてあってはならないわ。
あなたも王族の一員となるのだから、規則にはまじめに向き合わなければだめよ。」
「はぁ……。まあ、努力はするよ。」
頭を押さえてとりあえず返事をするだけの彼は、本当にやる気があるのか不安になる。
「んー。本当なら私の妻にエミレィナを迎えたいんだ。
君がいればレオッツォは真面目に動いてくれるだろうし、何より君は可愛くて面白い。
魅力的だと思うよ。」
問題が解決したからなのか、もうティトリリー様の格好をしていない彼は、一国の王子の装いで私に腰を屈めた。
私もそれに倣って淑女の礼で返す。
「申し訳ありませんが、そばにいたいと思う人が既におりますから、お断りさせていただきます。」
「…おや。」
この間とは違う断りに、ゾゼダイル様は目を丸くする。
「……自分の気持ちに素直になると決めたのです。」
「………なるほど、そうか。
それは残念であり、楽しみだね。」
ゾゼダイル様はショックではないらしく、そう告げると笑っていた。
「当たり前でしょう。
エミリーを妻にだなんて、俺も許しませんから…。」
割って入ってきたレオは、私の気持ちを知っているからか、ゾゼダイル様に一線を引いてくれた。
「ああ。残念だ。
だが、グリニエルが目を覚まさなかったら、私が君を貰ってあげるからね。
頭に入れておいておくれ。」
「っ…グリニエル様はじきに目を覚ましますので、御心配なく。」
一瞬ムカっとした気持ちを抑え、私が笑顔で返すと、ゾゼダイル様は楽しそうに笑い出す。
「あぁ…言い返されることなんてないからね。
やはり君と話していると新鮮な気持ちになる。」
「っ。」
「なっ…。」
「でも、君を連れて帰ったら、ティトリリーが君とレオッツォの仲に嫉妬しそうだからね。やはり諦めるとするよ。」
「ありがとうございます。
ヤキモチを妬かれるだなんて…そんな可愛らしい方と幼馴染が婚約できて、私は嬉しく思います。
どうぞレオのこと、よろしくお願い致します。」
「フッ…ああ。やはりエミレィナは面白い。
こちらとしては君が鈍いおかげでジョルジュワーンとの繋ぎができてとても感謝しているよ。
ありがとう。」
「え…?」
「っ!ゾゼダイル様。そろそろお帰りの準備をしましょう。
ほら、お土産の買い付け忘れはありませんか?
部屋に行きましょう!」
レオは急にワタワタと焦ったかと思うと、ゾゼダイル様を帰り支度に向かわせる。
「それじゃ、エミレィナ。
また会える日を楽しみにしているよ。」
「ええ。ゾゼダイル様もお元気で。」
歩いて行くゾゼダイル様の背を見送ると、振り返ったレオが私の耳元で囁く。
「お前の隠し事、気付かないフリしてやるよ。」
「っ…!」
「俺に言わないってことは言えないってことだろ?だから言わなくていい。
ただ、俺に後ろめたさを感じるな。いいな?」
「…っ。」
レオはやはり私の心を読むかのように私の隠し事を見抜く。
隊長にレオには言うなと言われた時から、上手く隠し通すことが出来るかと不安だったが、やはりレオには叶わなかった。
「じゃあな。エミリー。幸せになれよ。」
最後であろうその挨拶は、頭に乗せられた手も最後であることが伝わる。
「またね、レオ!」
これで会えなくなるわけじゃない。
長い月日を過ごすかもしれないが、きっとまた会える。そう思いを伝えるように言を発すと、レオもまた、同じくまたな。と続けてくれた。
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