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案内③
しおりを挟む「ソリシエールには行ったことがないので、転移できるのは国境までです。」
クローヴィスが今からの流れを説明する。
その説明からすると、転移後すぐに狙われることはないなと思った。
「それで構わない。少しでも距離が縮まることに変わりないんだ。…早く行くぞ。」
陣はいらない。
そのおかげですぐに出発の準備が整った。
「ケインシュア。深追いは禁物だ。
人質の安全が確保されればすぐに戻ってくること。戻り次第、体勢を立て直して襲撃に備えるんだ。」
「…。」
「シェリーを危険な場に置いたまま戦うな。…と言えば分かるかい?」
「…ッチッ。
分かったから、何回も言うな。
俺だってそのくらいの考えは回る。」
「…それならいい。」
暴走した隊長を止めることができるのはグリニエル様ただ1人。
しかし魔族との対峙中、移転価格さなければならない状況で隊長が残って戦おうとすれば、みな戻るに戻れない。…リスクでしかないのだ。
隊長には冷静になってもらわなければならない。
そんな話を横で聞いていた私は、後ろにいるルキアに声をかけられて振り向いた。
「エミリー。ずっと魔族だということを黙っていて申し訳ありませんでした。」
「いいのよ。あなたはきっとそのまま、居たかったのでしょう?
むしろ手を借りてしまってごめんなさい。」
「それはそうですが、エミリーに頼ってもらえないのはそれはそれで寂しいのです。
お役に立てるのなら、命だって差し上げます。どうか私を使い捨てる気持ちで使って下さい。」
「……あのさ、同じ魔族として、戦いたくないとは思わないの?」
「…人間は争いの対象にしてはならない。
そう教えられました。
それなのにそれに逆らった者がいる。
それは教えに従わなかったことと同義…。
共感できるものではありません。
たとえ同族だろうと戦うことに、何も感じはしません。」
真っ直ぐに私を捕らえるその瞳からは迷いは感じない。本当にそう思っているのだろう。
「そう、なの…。
それじゃ、案内の他にもう一つお願いしてもいいかしら?」
「はい。なんなりと。」
「…自分の身を守ることもちゃんと考えて。
いいわね?」
「っ。」
「戻ってきたら、のんびりとまた一緒に暮らしましょう?」
ルキアのその目は先ほどよりも驚きに染まり、その目はゆらゆらと揺れている。
やっぱり、多少は思うところがあり、1人で食い止めようなどと考えていたのかもしれない。
「ルキアはもう私の従者なんでしょう?
主を1人で帰すつもりなのかしら。」
「…っい、いえ。
そういうわけでは…!失礼致しました。
仰せのままに……。」
彼は胸に手を当て、私に頭を下げる。
そんな彼の頭を、私はいつものように撫でてあげた。
「…っ」
「……あなたが悪いわけじゃないわ。
さあ、行きましょう。」
「っはい…。」
「ふんっ…私のエミリーと共に過ごそうなどと図々しいぞ。」
じっとりとした目で割り込んできたのは、思った通りに彼しかいない。
「…。グリニエル様…。」
「エミリーと一緒に過ごしておいて、今後もそうするだと?…私でさえそんなこと…っ」
「はぁ…ヘタレ王子…。
私はいつもそばで見ていたが、お前は本当に救いようの無いヘタレで回りくどい。
いつまでもそんなのだから伝わらないのだ。
それに引き換え、私は一心にエミリーを想っている。だから側にいることを許されたのだ。」
「お前っ…猫の分際でっ…」
「ったく。何をしている。転移するぞ。
早くクローヴィスの所に来い。」
またもやルキアとグリニエル様が衝突しそうになったが、隊長のおかげでそれは防がれ、私たちは移転魔法に覆われた。
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