上 下
77 / 104

案内③

しおりを挟む



「ソリシエールには行ったことがないので、転移できるのは国境までです。」


クローヴィスが今からの流れを説明する。
その説明からすると、転移後すぐに狙われることはないなと思った。


「それで構わない。少しでも距離が縮まることに変わりないんだ。…早く行くぞ。」


陣はいらない。
そのおかげですぐに出発の準備が整った。



「ケインシュア。深追いは禁物だ。
人質の安全が確保されればすぐに戻ってくること。戻り次第、体勢を立て直して襲撃に備えるんだ。」

「…。」


「シェリーを危険な場に置いたまま戦うな。…と言えば分かるかい?」


「…ッチッ。
分かったから、何回も言うな。
俺だってそのくらいの考えは回る。」


「…それならいい。」


暴走した隊長を止めることができるのはグリニエル様ただ1人。
しかし魔族との対峙中、移転価格さなければならない状況で隊長が残って戦おうとすれば、みな戻るに戻れない。…リスクでしかないのだ。

隊長には冷静になってもらわなければならない。


そんな話を横で聞いていた私は、後ろにいるルキアに声をかけられて振り向いた。




「エミリー。ずっと魔族だということを黙っていて申し訳ありませんでした。」


「いいのよ。あなたはきっと、居たかったのでしょう?
むしろ手を借りてしまってごめんなさい。」


「それはそうですが、エミリーに頼ってもらえないのはそれはそれで寂しいのです。
お役に立てるのなら、命だって差し上げます。どうか私を使い捨てる気持ちで使って下さい。」






「……あのさ、同じ魔族として、戦いたくないとは思わないの?」


「…人間は争いの対象にしてはならない。
そう教えられました。
それなのにそれに逆らった者がいる。
それは教えに従わなかったことと同義…。
共感できるものではありません。
たとえ同族だろうと戦うことに、何も感じはしません。」



真っ直ぐに私を捕らえるその瞳からは迷いは感じない。本当にそう思っているのだろう。

「そう、なの…。
それじゃ、案内の他にもう一つお願いしてもいいかしら?」

「はい。なんなりと。」


「…自分の身を守ることもちゃんと考えて。
いいわね?」



「っ。」




「戻ってきたら、のんびりとまた一緒に暮らしましょう?」




ルキアのその目は先ほどよりも驚きに染まり、その目はゆらゆらと揺れている。


やっぱり、多少は思うところがあり、1人で食い止めようなどと考えていたのかもしれない。


「ルキアはもう私の従者なんでしょう?
主を1人で帰すつもりなのかしら。」

「…っい、いえ。
そういうわけでは…!失礼致しました。
仰せのままに……。」


彼は胸に手を当て、私に頭を下げる。
そんな彼の頭を、私はいつものように撫でてあげた。


「…っ」

「……あなたが悪いわけじゃないわ。
さあ、行きましょう。」


「っはい…。」






「ふんっ…私のエミリーと共に過ごそうなどと図々しいぞ。」


じっとりとした目で割り込んできたのは、思った通りに彼しかいない。

「…。グリニエル様…。」



「エミリーと一緒に過ごしておいて、今後もそうするだと?…私でさえそんなこと…っ」


「はぁ…ヘタレ王子…。
私はいつもそばで見ていたが、お前は本当に救いようの無いで回りくどい。
いつまでもそんなのだからのだ。
それに引き換え、私は一心にエミリーを想っている。だから側にいることを許されたのだ。」


「お前っ…猫の分際でっ…」




「ったく。何をしている。転移するぞ。
早くクローヴィスの所に来い。」


またもやルキアとグリニエル様が衝突しそうになったが、隊長のおかげでそれは防がれ、私たちは移転魔法に覆われた。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

私のウィル

豆狸
恋愛
王都の侯爵邸へ戻ったらお父様に婚約解消をお願いしましょう、そう思いながら婚約指輪を外して、私は心の中で呟きました。 ──さようなら、私のウィル。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

妹の事が好きだと冗談を言った王太子殿下。妹は王太子殿下が欲しいと言っていたし、本当に冗談なの?

田太 優
恋愛
婚約者である王太子殿下から妹のことが好きだったと言われ、婚約破棄を告げられた。 受け入れた私に焦ったのか、王太子殿下は冗談だと言った。 妹は昔から王太子殿下の婚約者になりたいと望んでいた。 今でもまだその気持ちがあるようだし、王太子殿下の言葉を信じていいのだろうか。 …そもそも冗談でも言って良いことと悪いことがある。 だから私は婚約破棄を受け入れた。 それなのに必死になる王太子殿下。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

処理中です...