上 下
76 / 104

案内②

しおりを挟む

コツコツと鳴り響くその足音に後ろを振り返ると、シルバー色の髪をした綺麗な顔立ちの男性が立っていた。



「エミリー…あなた様の手を取れるこの日を、私はとても楽しみにしておりました。」

私の右側にしゃがみ、その手の甲にキスを落とした彼は、私のことを見上げたままジッと見ている。



とても綺麗な顔立ち。
しかし、こんな綺麗な知り合いなどいない。




「分からないかい?彼はだよ。」


「えっ…ルキア⁈
ルキアって猫の…?」


ブルレギアス様の説明に、私は驚きのあまり声を大きくし、どう言うことかと考えさせられた。


「…彼はそもそも猫じゃない。…魔族だよ。」



「え?魔族…?」


キョトンとする私の前で、彼はずっとニコニコと笑っている。




「どういうことです。ブルレギアス殿。私は何も知らされてはおりませんよ。」


「そうです、兄上。エミリーが男と…しかも魔族と共に暮らしていたならもっと早く教えておいてもらわないと…。」


「ほう。魔族は初めて見るが、人そのものだな…。」


各々不満やら感心やらで場が騒がしくなると、ブルレギアス様が左手を上げた。


「っ。」



「気付かないのが悪いでしょう。
彼はただ彼女に付き従っているだけ。
何も害などありません。
彼女のためなら手を貸してくれると私に約束したのです。」


「しかし…、魔族を信用できるのですか?
連れ去ったのは同じ魔族です。
共謀している可能性だって…っ。」


「…静かに。
…と伝えたはずです。ゾゼダイル殿。
魔族は1度忠誠を誓った者に忠実に従う種族。それを信じるしかありません。
さあ、ルキア…君の手を借りたいのだ。
返事を聞かせてくれるかい?」


「…。エミリーのお言葉を頂ければ従いましょう。」


「え?」


「エミリー。私はあなたの手となり足となります。盾だろうと剣だろうとあなたのお役に立てるのであれば何でもいたします。
さあ、私に命じてくださいませ。」


「っ…。」


どうしてそこまで…。
私は怪我をしていた彼を保護して少しの間共に過ごしただけ。
そんなに大それたことなどした覚えはないのだ。



「何かが不満、という顔だね。
エミリー。話してご覧。」


「い、いえ…ただ、私に付くのではなく、もっと強くて先陣を切るような方に仕える方が良いのではないかと思っただけです…。」


「…私はあなた様に命を救われた。
だからここにおります。
私が他に仕える者などおりません。
それは覆ることはなく、誰にも覆す事のできない事実でございます。
…改めて忠誠を誓いましょう。
私、ルキア・ロードはエミレィナ様の下僕となり、あなた様の一部となることを誓います。
…さあ、命を下してください。」




「っ………ルキア…。
私は、下僕は要らないわ…
だから従者としてお願いします。
私たちをソリシエールへ案内して、みんなを助ける手助けをして頂戴。」


「…。仰せのままに主人様。」





もう1度私の手にキスを落とす彼に、先程まで静かだった人がもう1度騒ぎはじめた。






「わざわざ手の甲にキスする必要などないだろう!今すぐ拭け!
それと、今まで猫だと偽ってエミリーと共に過ごしたことを謝れ!」


こちらを指差ししている手が震えるほどに怒っているのはグリニエル様だ。

今まで私はそれがただ妹を想う兄心からくるものだと思っていたが、先ほどもしかしたら恋心を持たれているのかもと期待してしまっているため、その反応をされたのは少しばかり嬉しかった。





「…何か問題でもありますか?
仮に目の前で着替えが行われようと、一緒に湯船に浸かろうと、一緒の布団で眠ろうと、それは猫の姿なのですから、問題はありません。」


「~~っ。問題だらけじゃないかぁぁっ!」



ルキアは猫の姿の頃からあまりグリニエル様とは折が合わなかったため、2人の言い合いは勝手にさせておく。


そんな2人を尻目に、他の6人で話を進めた。


「それではブルレギアス様、場所も分かった所ですし、早く準備を致しましょう。」


「そうだな。
一刻も早く人質の解放を優先する。
もし仮に戦闘になった場合、まずは人質の安全を確保し、国へ戻ってくるのだ。
ルキアが言うには城にいる魔族は15人。
クローヴィスは転移魔法で人質の解放をし、エミリーとルキアはそれの補助。
ケインシュアとグリニエルで前線に立つ。つまり、3手に分かれて動くようにするんだ…。いいね?」



「はい。」


「もし人手が必要な場合、クローヴィスが人質を連れて帰るときに言ってくれ。
そうでなければ何かあった際、一度で戻ってくることは難しいからね。」




「十分だ…。
軍で動いても守る物が増えるだけ…
俺は身軽の方が動きやすいからな。」


「信じているよ、ケインシュア。
みんなを頼む。」


「言われなくとも分かっている。」



まだグリニエル様とルキアの言い争いが収まらないまま、その会議は終わりを迎え、遂にソリシエールへと向かうこととなった。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

【完結】聖女を害した公爵令嬢の私は国外追放をされ宿屋で住み込み女中をしております。え、偽聖女だった? ごめんなさい知りません。

藍生蕗
恋愛
 かれこれ五年ほど前、公爵令嬢だった私───オリランダは、王太子の婚約者と実家の娘の立場の両方を聖女であるメイルティン様に奪われた事を許せずに、彼女を害してしまいました。しかしそれが王太子と実家から不興を買い、私は国外追放をされてしまいます。  そうして私は自らの罪と向き合い、平民となり宿屋で住み込み女中として過ごしていたのですが……  偽聖女だった? 更にどうして偽聖女の償いを今更私がしなければならないのでしょうか? とりあえず今幸せなので帰って下さい。 ※ 設定は甘めです ※ 他のサイトにも投稿しています

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

転生したらただの女子生徒Aでしたが、何故か攻略対象の王子様から溺愛されています

平山和人
恋愛
平凡なOLの私はある日、事故にあって死んでしまいました。目が覚めるとそこは知らない天井、どうやら私は転生したみたいです。 生前そういう小説を読みまくっていたので、悪役令嬢に転生したと思いましたが、実際はストーリーに関わらないただの女子生徒Aでした。 絶望した私は地味に生きることを決意しましたが、なぜか攻略対象の王子様や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛される羽目に。 しかも、私が聖女であることも判明し、国を揺るがす一大事に。果たして、私はモブらしく地味に生きていけるのでしょうか!?

「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~

卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」 絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。 だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。 ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。 なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!? 「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」 書き溜めがある内は、1日1~話更新します それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります *仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。 *ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。 *コメディ強めです。 *hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...