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婚約祝い①

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この想いは消える日が来るだろうか。
こんな気持ちを抱えたまま、グリニエル様のそばにいても良いのだろうか。

そんな気持ちがぐるぐると私の中で渦巻く。



するともうすでに中庭まで来ていたことに気付いた。

サァァっと中央にある木が揺れ、葉の擦れた音がきこえる。

「ふぅ…。」

大人気ないだろうか。
グリニエル様と話をしようとは思うものの、踏み切れない自分がいる。


すると後ろから気配を感じ、私は勢いよく振り返った。


「っ…おー。気付いたか。」

「え…レオ…?」




一瞬構えてしまったが、その顔を見て緊張を解く。目の前にいたのは私の幼馴染みであるレオッツオ・バリトン。

貴族ながらに剣術に長け、隊長の元で戦っていた彼は、隊長が前線から退くと同時に国境警備を任され、それからずっと音沙汰なく過ごしていた。



「やー。久しぶりに戻ったから城の中を散策してたんだが、お前を見つけてさ。」

「っ…。ひ、久しぶりに帰ってきて言うことがそれなの?」


「………あー…ただいま。エミリー。」



「っ…おかえりなさい。レオ…。」




先程までの渦巻いていた暗い気持ちは消え、私の中に温かな光が差し込む。


彼はゆっくりと私の前に立つと、以前のように私の耳に流れる髪をかけた。


「顔がよく見えない。」

「見えるでしょ。」


これは彼がいつも私にしていた行動。
その行動が懐かしく、それなのに自然で、私は笑みが溢れた。



「少し話そうぜ。」
 
グイッと引っ張られ、連れられたのはすぐそばにある木の下。私がまだ王宮内で暮らしていた頃、よくここで話し込んだりもしていた。



「…どうして戻ってきたの?
いつから来ていて、いつまでいられるの?」


自分から出る沢山の質問に、レオは一瞬目を丸くしたが、すぐに笑って話してくれた。



「なんだ、俺のこと待ってたのか?
まあ、今回戻ってきたのは、俺の婚約が決まってな。
そのことを殿下に報告するのと、エミリーには直接言いたくて国に戻る許可を貰ったんだ。」


「あら!おめでとう。
お祝いしなくちゃね。」


幼馴染みの婚約。
それを聞いて私の心は高鳴った。



「こっちにきてから丸3日は経ってるから、散々他の奴らに祝ってもらったからいいよ。」


「なによ、幼馴染みの婚約よ?
私にも祝わせてほしいわ。
今日の夜、ルピエパールに来て頂戴よ。
部屋でお祝いしましょう。」


「んー。
それじゃ、沢山祝ってもらうとするかな。
今日は立て込んでいるから明日でもいいか?」

「ええ。もちろんよ。
隊長も誘いましょうか。」


「それは嬉しいな。
エミリーと隊長には1番に報告したかったんだけどな。」


「ふふっ…グリニエル様にもでしょう?」


「やー…。あの人は俺に興味がないだろう。
あ、いや、むしろ喜ばれるかもしれないか。
あの人とはどうだ?進展したか?」







「…。あー…進展はないけれど、私、グリニエル様のことが好きだって気付いたわ。」



。それはないが、私にとっては大きな変化。そのことを彼に報告したかった。




「そうか。やっと気付いたんだな。」

「え…なにその反応…。
もしかして知っ…」

「知ってたよ。」


「っ…!」


レオがここを去ってから、もう4年とちょっと経つというのに、レオは私の知らない気持ちを知っていたと言う。
そのことに、私はとても驚いた。



「まあ、何となくだけどな。
兄貴にあんなにべったりしているのが妹心だけって思うと違和感があっただけだ。
そうじゃなきゃ自分から身を引こうだなんて思わ…っ。」


「え?」

「な、何でもない。
とにかく、その話は明日聞くわ。
お前がここにいるってことはグリニエル様も戻られたんだろ?
俺も顔を出さなきゃならない。」


「あ、そうね。
それじゃ…っ。」



シュンッという音と共に、私の容姿魔法が解け、私は生まれながらのその髪色に戻る。

「えっ…。」

状況をうまく理解することができない。
自ら解いたわけでもなく、目の前にいる彼が解いたわけでもない。

そんな混乱状態に陥ると、後ろから声が聞こえた。

「ごめんね。私の能力なんだ…。」


「っ。」


バッと後ろを振り返ると、可愛らしい女性が立っている。一般的な女性の声よりやや低い。
しかしそれも彼女の可愛らしさを増すようなものに過ぎないようだ。



「驚かせてしまったようで…。
私はティトリリー・ロティスと申します。」


「っ。」


その子はにっこりと笑い、先に名乗る。
私は他国の王女に先に名乗らせてしまったことに、すぐに名乗りを返した。



「ヴィサレンス代5継、エミレィナ・ヴィサレンスと申します。
ロティスタディアのティトリリー様とは知らず、不快な思いをさせました…。
申し訳ありません。」


「……ふふっ。いいのです。
急に後ろから声をかけたのですから…。
それより。随分と、我が護衛付きのレオッツォ・バリトンと仲がいいようで…。
気になった次第です…。」


「あ…。彼とは幼馴染みでして。
彼の婚約の報告を受けていたところでした。
あの…、特に深い関係ではございませんので…。」


「いえ。いいのですよ。」


「え?」



「レオッツォからは仲のいい幼馴染みの話は良く聞いておりましたから、そんなに警戒しないでください。
それより、あなたは随分と魅力的ですわ。
…ロティスタディアの王子であるゾゼダイルの妃になることに興味はないでしょうか。」


「え…。」



ゾゼダイル様。それはロティスタディアの第二継承者である王子殿下だ。
その人との縁談。一見魅力的にも思えるそれは、急に聞かされるには怪しすぎた。



「…。」



「警戒なさらないでください。
あなたの先程の立ち回りに惹かれたのです。
妃教育も受けていると聞いていますし、血筋もヴィサレンスの王族のもの…。
ぴったりだとは思いませんか?」


「っ…。
……も…うしわけありませんが…
正式な申し出ではない以上、私から返事は致しかねます。それがご本人様からの申し出であれば、私が身を置くこととなったジョルジュワーンの王家を通していただきたく思います。」



怪しすぎる。
突然言い出すには随分と大きな内容。
しかも、仮にそれが姉君の方からの申し出であればまだ分かるが、それが妹君からと言うところにも引っ掛かりがあるのだ。




自ら断ることは国間のいざこざに繋がりかねない。もしジョルジュワーンがロティスディアとの関係を求めているならば、私はその通りに従うだけだろう。
しかしながら、グリニエル様と目の前にいる彼女。ティトリリー様が婚姻関係となれば関係は構築される。

私が出向く必要はない為、きっとブルレギアス様が断ってくれることだろう。

そう思ってその場の返事をした。





「ふふっ……奴が私をこの国から遠ざけていた理由が分かった気がする…。
それじゃ、分かりました。
もし、グリニエルが君をロティスタディアに嫁がせると決めた場合、従うのですね。」



「っ…。」


はい。そう断言したいのに、震えた手からは自身が拒絶していることが伺えた。


「は……」

「エミリーがこの国から出ることは許さない。」



随分と息を切らして私の横に着いたのは、グリニエル様だった。


「ぐ、グリニエル様…。
そんなに急いでどうなさったのですかっ。」


何かあったのだろうか。
少し汗ばんでいるようにも見える彼は、キッと彼女を睨んだままだ。



「ロティスタディアとの繋がりはもうあるのだ。それ以外に繋がりを必要とするのなら他を考えて頂きたい。
エミリーはヴィサレンスとの繋がりの架け橋だ…。この国から出ることは許されない。
それに、何よりも、私の側を離れるなど、私が絶対に許しはしない。」


ハカハカとなりながら彼がそう言うと、ティトリリー様はため息をついた。


「難儀なもの…。
エミレィナ様からはお前の側を離れたくないなどとは言われませんでしたわ。
貴殿の独りよがりに過ぎません。」



「っ。」




「それでも、私が彼女の側にいたいのだ。」



「え…?」







「はぁ……。まあ、良いです。
彼女はまだ誰のものでもないのですから、ゾゼダイルが婚姻を申し込むのは自由ですからね。」





「っ…それより、さっきから何なのだ。
その口調といい格好といい…。それではまるで…っ。」



「話は後で…致しましょう。」



スッとグリニエル様の口元に当てられた人差し指は彼女のもの。
その指が彼の口に当たると、彼は静かになった。


「ほら、いきましょう。グリニエル殿
今日だけで話が纏まるように、知恵を振り絞ってくださいませ。」



「っ…エ、エミリー。
仕事が片付いたら話をしよう。
話さなければならないこと…いや、確認しなければならないことがあるんだ。」


「………分かりました…。
ではその時お呼び下さいませ…。」


ぐいぐいと腕を引かれたグリニエル様は、半ば強引にその場を後にする。


「悪いな、うちの主人あるじが。」


「そんなことないわ。…レオも話し合いに行かなければならないのでしょう?
明日のお祝いら楽しみにしていてね。」


「ああ。それじゃ、また明日な…。」


私はその後ろ姿を見送り、元々の目的だったルキアの迎えを終えて、その日はゆっくりと過ごした。



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