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恋じゃない③

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「私の想い人とはロティスタディアで出会ったの。」

ロティスタディア。
そこはジョルジュワーンとヴィサレンスの国境より少し上に位置しており、各国との貿易や流通を行なっている国だ。
ジョルジュワーンとヴィサレンスは関係を持たずにいたが、ロティスタディアを通して各々の噂は耳にしていた。
いわば共通の流通国だ。

その国は小さいながらも豊かで、貿易商達はよくその国に出入りしている。


「では、お相手はそこの王太子様ということでしょうか?」


「いいえ。その国に来ていたどこかの外交官だったと思うのだけれど、あまりはっきりとは覚えていなくて、探すのにさえ苦戦しているの…。だからグリニエル様に聞いても、分からないと言われてしまって…。」


「外交官ですか…。」

「ええ。ロティスタディアに確認したけど、それらしい方はいなかったから、もしかしたらジョルジュワーンにいるのかと思ったのだけれど、ディストネイルの方かもしれないし、分からないのよね。
服装はロティスタディアの物だったから、参考にならないし…。
でも、諦めたくないの…。」

「そうだったのですね。
顔の良い方ばかりに話しかけていらっしゃったから、気が多いとばかり思っておりましたわ。」


「…ミレンネ。
私をなんだと思っておりますの?
外交官は男性が多いのですから、男性に聞く方が情報を得られると思っただけのことです。
…それに、彼が女性と仲が良いなどと考えただけで胸が張り裂けそうですわ…。」



いつもは勝気なセレイン従姉様も、恋の前では弱々しい。私はその姿に、どうにかできないものかと思った。


「グリニエル様は外交に詳しくありませんから、分からなかっただけかもしれません。
私がジョルジュワーンで仲良くさせてもらっている方がいますから、その者に聞けば、もしかしたら分かるかもしれませんわ。
もしその方が外交官であるならば、商人であるほうが知ってることもあるかもしれません。
…それで、その方の特徴を教えてもらえますか?
その方に聞き次第、御手紙で知らせます。」



私が思い浮かべたのは、ルピエパールの経営で隊長に案を貸してくれているランドリフだ。
私よりも年下ではあるが、彼なら顔も広い為、何か知っているかもしれない。そう思った。

国に戻ったら、1週間後に予定している
歓迎会の前にランドリフに会いに行って、その商人を知らないかと尋ねてみよう。

戻ったらルピエパールでも働けなるし、潜入騎士としても働けなることを考えると、様々な引き継ぎを行わなければならない。

1週間はとても忙しくなりそうだとは思っていたが、セレイン従姉様のためならば、忙しくとも彼の元へと行こうと思ったのだ。






「私が彼に会ったのは2年前。
見た感じだと私よりは年下な気がしたわ。
でも、他国に貿易に来るくらいだから、腕はあるのだと思うの。
茶色の髪に瞳はオレンジ…。
誰にでも笑いかけるような好青年だったわ。
でも、それ以外は分からない。
名前はリーフ…だと思う。そう呼ばれていたの。」







「茶色の髪にオレンジの瞳…。
もしかしてですが、一重で目の下にホクロがあったりしませんでしたか?」

「っ!そう!
そうだったわ!何か手掛かりでもあるのかしら。」


「…。」



まさかとは思ったがランドリフ本人のようだ。しかし、彼は貴族ではなく、ただの商人。
外国に行っていたのもきっと商交が理由で、外交官としてではない。

その事実にセレイン様はどうするのだろうか。そう思って少し間を置いてしまったが、事実は知らせようと思って口を開いた。


「リーフ…彼の名前はランドリフと言います。
彼はジョルジュワーンにおります。」

「まあまあ!それは良いことを聞いたわ。
…でも、グリニエル様が知らなかったのは何故?
エミリーは知っているのでしょう?」



「それは…
ランドリフは貴族ではなく、商人だからでございます。」

「「「…っ。」」」


その場にいる誰もが驚きに染まる中、私はそのまま続けた。

「彼は若いながらも腕は確かですから、何か貿易のためにロティスタディアを訪れたのだと思います。
彼は隊長と接点がありますが、グリニエル様とは関わることなどほぼありません。
ですから、グリニエル様は“リーフ”という名だけではピンとこなかったのだと思います。」


「そうなのね…。」


「……セレイン従姉様…。」


セレイン様は俯き、その背にはミレンネが手を置く。やはりショックだっただろう。
想っていた人が身分違いでは、結ばれることは難しい。









「ふふっ…うふふ…。」

「?」

「お姉様…?」

急に笑い出したセレイン様に、私もミレンネも、ステファニーでさえ驚いた。


「やっと見つけることができたわ!
明日にでも母に話をしなければなりませんわね。絶対に逃したりはしませんわ!」

「え…?」



急に立ち上がったセレイン様は、目を輝かせてそう言うと、こうしてはいられないと部屋を飛び出して行った。






「ミ、ミレンネ。どう思う?」

「どう思うって言われても…。
ヴィサレンスでは身分など関係がないから、商人だから諦めるという選択にならなかったんじゃないかしら…。」


「あ……そ、そう…。
結果的に喜んでもらえたのは良かったけど、
上手くいくといいわね…。」


「従姉様のことだもの、どうにかこうにか手を尽くすと思うわよ。」


「…。」


大丈夫だろうか。
一応、ランドリフには想っている人がいる。

まあ、既に結婚してしまっている人への想いの為、報われない恋だ。
どうにかこうにか、収まるところに収まって欲しいと思った。


「まあ、セレイン従姉様も行ってしまったし、私はエミリーに伝えたいことは伝えられたから、もう部屋に戻るわね。
明日、ちゃんとグリニエル様に確認すること。
いいわね?約束よ?」


「…っ。」

そうだった。
しかし、それが出来ればとやかく言われることもなくなるのだから、明日の朝にでもグリニエル様に確認しに行ってしまおう。

そう思いながらコクンと頷いた。
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