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パーティ④
しおりを挟む「それでは、エミレィナから言葉を賜り、その後パーティの始まりとしてオープニングダンスを行う者を選んでもらう。」
挨拶を終えると、皇帝から指示が飛び、私は皇帝に見守れた位置に立って口を開いた。
「…この度、王族として迎え入れられることとなったエミレィナでございます。
急に王族だと知らされ、皆さま混乱したことかと思います。
…私は生まれたころからジョルジュワーンで過ごし、様々な教養を受けさせていただきました。
その甲斐あって、最短で皆様の前に出ることができております。
私は、ヴィサレンスのその名に恥じぬよう生き、ヴィサレンスに貢献できるよう、役割を果たして参りたいと思っております。」
私はそう話している中、自身の役割について考える。
私の役割はヴィサレンスとジョルジュワーンを繋ぐ架け橋となること。つまりこの国の誰かと交友関係でいたいと示すために踊るのがベスト。
やはり隊長と話していたときのように、レヴィと踊るのが良いのだろう。しかし、隊長が言っていた言葉が引っかかり、私は他の貴族を選ぶべきかとも思うのだ。
「それではエミレィナ。お前のダンスには誰を指名するか、皆の前で進言するのだ。」
私が話さないことで、皇帝が流れを忘れたかと心配してくれたのか、この後の流れを口にするが、私の迷いは未だに晴れてはいなかった。
「其方はヴィサレンスの王族。悩むことなどない。其方が思うように流れは変わる。
正解などないのだ。もしそれが最善である必要があるのであれば、其方の立場を考え、行動するだけで良い。
…さあ、其方が側にいたい者はこの中におるか?」
小さく、優しい声。
私に親がいたならば、こんな風に後押しをしてくれたのだろうか。そう思った。
「…私はジョルジュワーン第二王子で在られる、グリニエル・ジョルジュ様をご指名させていただきます。」
「っ。」
「どういうことだ。」
ザワザワと会場が騒がしくなる。
「ジョルジュワーンとヴィサレンスは同盟国となりました。
私はヴィサレンスの名を持ちながらも、ヴィサレンスの地を離れ、ジョルジュワーンで暮らすことを選んでおります。
ですから、これからの友好の証として、私の手を受けてくださいますか?」
私の申し出はあくまでヴィサレンスの王族であるエミレィナの役割を果たすためのものだ。
私はもうジョルジュワーンの者ではない。
ヴィサレンスの者として、王族として私が何をすべきか、それに辿り着いた応えだ。
「…喜んでお受けいたしましょう。」
私の目の前にある階段下に迎えてくれたグリニエル様は、私の手を導くように手を差し伸べる。
私はゆっくりと足を踏み出しながら、その手に早く触れるようにと手を伸ばした。
「さあ、皆の者。中央を空けよ。
今からオープニングセレモニーの始まりだ。」
私とグリニエル様はそのまま中央へと歩き、向き合うと、そのままダンスの流れへとなった。
「まさか私を選ぶ選択をしてくれるとまでは思わなかったよ。」
ダンスが始まると、余裕がありそうな彼は私に声をかけた。
「…私も、ずっとレヴィを選ぶのが最善だと思っておりました。
でも、そうなるとここに残るなどという要らない噂もたつかと思いまして…。
グリニエル様であれば、同盟とこじ付けてダンスを行うことができるかと思ったのです。」
「……何も考えず、ただ私を選んでくれれば、それは嬉しいものだったんだがね。
…仕方がないかな。」
「…。」
少し寂しそうに笑う彼に、私は少しばかり心が痛む。
だが、理由は後からつけただけのものだ。
私が側にいたいのはグリニエル様ただ1人。
皇帝に言われて、私が共にありたいと思う人と踊るために理由を付け加えたのだ。
「ケインから聞いたよ。
きっとロレンザ殿が仕組んだのだろう。
あわよくば君をヴィサレンスに留めさせ、同盟も聖女の力も、全てをヴィサレンスに集中させるつもりだったのだろう。」
「ロレンザ様が?」
あり得なくはない。
国の繁栄を考えていた彼が、急に考えを変えて私のヴィサレンス行きを辞めたのは、聖女の力を確実に得るためで、今回の訪問は、私と王族との繋がりを強固にするためのものだったのだ。
「私は、君が私を選んではくれないと思っていたからね、君の耳にピアスがあれば、婚約者がいることとなって、この国に残る話はなくなると踏んだのだが、肝心のエミリーが見つからなくてね…。
きっとロレンザ殿がエミリーの部屋に防壁でも張って存在を隠していたのだろう。」
「そんな…。そこまでして。」
「見つかったとしてもピアスの穴が隠されていればどうともできないと考えていたようだが、それは私も予想していたからね。
君にネックレスとして持たせることができて少しだが、安心はしていたんだ。
…まさか私を選んでくれるなんて…。
踊った者に私の存在を知らしめようとしたのだが、その意味はなかったようだ。」
つまりグリニエル様は私の婚約者を演じようとするために、互い違いにピアスをつけておきたかったのだと分かり、私はそれを理解できたことが嬉しかった。
「そこまで考えていらしたのですね。」
「まあね。」
「でも良かったです。」
「え?」
「私が側にいたいのはグレン様だけですもの。こうやって踊れて、嬉しいですわ。」
「っ…。」
私の誠意を見せることが出来ただけでなく、ジョルジュワーンで過ごすことをヴィサレンスで公言することができた。
やっと私は隠れることなく彼の側で仕事をすることができると安堵した。
するとなんだかグリニエル様の周りがキラキラして見え、なんだか胸のあたりが温かくなることを感じるころ、ダンスは終盤へと差し掛かり、私とグリニエル様は微笑みあいながらその手を離した。
「これにて正式にエミレィナの王族即位を認める。皆、それぞれ今夜は楽しんでくれ。」
皇帝がそう口にすると、その場は賑やかになり、パーティが正式に始まった。
「グリニエル様。申し訳ありませんが、このままエミリーをお借りしても宜しいですか?」
「え?ええ。
構いませんよ、ミレンネ殿。セレイン殿。」
私の両脇に立ったのはミレンネとセレイン様だ。なにやらニコニコと私の時間を欲する彼女達は、私の腕を片方ずつ掴んで、場所を移動しようとする。
「え?セレイン従姉様?ミレンネ?
どこに行くつもりで…」
「今日は疲れましたもの。
早くお部屋に戻りましょう。」
「そうです。式典は終わりましたの。
長居する必要はありませんわよ。」
「え?え?」
混乱する私を他所に、2人はどんどん進んでいく。
そして私は訳の分からないまま、2人に連れられ、その場を後にした。
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