脚フェチ王子の溺愛 R18

彩葉ヨウ(いろはヨウ)

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お出かけ④

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「グレン様?」

「…エミリー。
私から離れるんじゃない。良いね?」


「どうかなさったのですか?」


「っ…あれだよ。」

彼はゆっくりと空に人差し指を向け、それを私に教えてくれた。



「え……グリフォン…?」

それは空を飛ぶ魔物。グリフォンだ。
下半身は馬であるが、上半身は鳥。
翼が生えていて、陸空両用の姿をしていた。


「通常より大きいな…。」

「っ。」

正直、気持ち悪い。
これほど禍々しいものなど、私はこちらの国に来てから2度目だ。
慣れるようなものではない。


「いつ襲ってきてもおかしくない…。
せめてもう少し上の方にいるか、もう少し小さければ、魔法で粉々に焼き消せるんだが…。」


あまりにも低空飛行のそれを攻撃すれば、ヴィサレンス国民に被害が出てしまうかもしれない。

そういうことを言っているのだろう。



「っ。ではどうすれば…」


私とグリニエル様が話し合っているうちに駆け出したのは、後方で人に紛れていたイザベラだ。

人をかき分け、壁を伝い、屋根から屋根へと飛び移る。その身軽さに私もグリニエル様も驚いた。


「あの身軽さは血筋かもしれないね。
ケインも素早いから、サクリ国はそういう血が流れているんだろう。」

「ええ。そうかもしれません。」


まるで風を切るように走る彼女を見た国民たちは、一斉に沸き上がった。


「黒の乙女だ!」
「イザベラ様!」
「お助けください!」 

国民の声援に応えるようにイザベラが剣を抜き、その首筋へと一太刀入れる。
少し大きめのそのグリフォンは、足掻いているのか、首をイザベラの方に向けてその口を広げた。

「食われるぞ!」

「イザベラ様ー!」

「避けてください!」


空中にいるイザベラはそこから動かない。
咄嗟に剣を構えてはいるが、このままだと確実に避けることはできないだろう。



すると、グリフォンのガッという音と共に、イザベラは隊長に抱えられ、近くの屋根へと降ろされた。

その腕にはグリフォンのくちばしで食いちぎられそうになった傷があり、間一髪だったことが窺える。


「…ベラ。1人で突っ込むな。」

「兄…さん」


下からでもよく見えた。
隊長が頭まで覆っていたマントを取り、グリフォンを睨み付けている様を。

そして一目こちらに目線を下げてから、グリフォンへと剣を向ける。


それは、前勇者の使っていた聖剣で、聖女の持つ聖杖と対になるもの。それを持つものは勇者とされている。


そんな剣を持ち、空中でグリフォンを3つに斬り裂く。
その際に下から上へと剣を流すと、その肉片は多少空へと上がった。


グッとグリニエル様が拳を上げ、それをグリフォンに向けてまた握ると、その肉片は爆発するかのように燃えて消えた。

肉片も血も降り注ぐことはなく、ただ焦げ臭さだけが残ったなか、街では更にどよめきが広がる。


「イザベラ様と同じ漆黒の髪だ!」

「聖剣を手にしている!」

「あの髪にあの面持ちは…ジョルジュワーンにいる生きる剣ではないのか!」

「黒の乙女とどんな関係が…っ」

「今の攻撃は一体どこから…」



街では沢山の憶測が飛び交い、
皆が混乱していた。






「とりあえず、被害は食い止められたね。
すぐにでもケインとイザベラと共に城へ戻ろう。」

「ええ。そうですね。」

私とグリニエル様がそう決める頃、街では先程のようにザワザワとし始めたことに気付く。


「グリフォンだ!」

「王都上空にもいるぞ!」

「っ!」


バッと上を見上げた私達が見たのは、先程よりも小さいグリフォンだ。

「グリニエル様…」


彼の魔法で届くだろうか。
そんな場所を飛行していた。


先程のグリフォンは親だったのだろうか。
小ぶりのそれは、もう一体の行方を探しているように興奮し始めていた、


「…もう少しこちら側に来ていれば…。
しかしケインの転移魔法はアテにならないからな…。」

「…。」


ここにいる者で、唯一隊長が転移魔法を使うことができるのだが、隊長のそれではあまりにも賭けが大きすぎるのだ。

隊長は長い距離を適当に詰めるだけなら可能だが、コントロールが上手くない。
そう、ディストネイルから戻ってくる時のように、間の距離をショートカットできるくらいで、今それを使えば、グリフォンを通り越してしまう可能性だってあるのだ。


「…私が殿下の魔法が届く範囲に
グリフォンあれを蹴り飛ばせればいいのですが…っ」

自分で口にしてハッとした。
それならば街に被害が出ることもない。


「グリニエル様!頼みます…。」

上手くやれるかは分からない。
しかしやってみようと思って側にいた彼にフォローを頼んだ。


「ま、待て、何をしようと言うんだ。
エミリーを危険に合わせるわけには…っ。」


「…。グリニエル様…
私は貴方に対等だと言ってもらえて嬉しかった。だからこそ、貴方の側にいてもいいと思えるように、私は役に立ちたいのです。」


「…っ。」


私が彼を真っ直ぐ見ると、彼は口を開いた。


「君は本当に…ずるいな…。
私がエミリーに弱いと知っていてそう言うのだろう…?…っくそ…。」





「………すみません。」


「っ……怪我は許さない。
安全に行うんだ。
擦り傷でもしようものなら、次からは私の後ろから絶対出させない……。
頼むから大人しく私に守られていてくれ…。」

「………分かりました。」




失敗するわけにはいかない。
私は彼と対等なのだ。

彼に守られていてばかりでは嫌なのだ。


その想いを胸に刻み、私は口を開く。


「…アネモス。」



力を貸して欲しい。
そう願い、私が彼女にどうして欲しいかを事細かに伝えると、私の体は軽くなった。




それからのことは、一瞬だった。

風の速さで空に飛び立った私は、容姿魔法が解けたことにも気付かず、その速さのままにグリフォンの向こうへと回り、それを蹴り飛ばす。

空中で踏ん張ることができるかは、正直、分からなかったが、私がどう動きたいかを詳細に伝えていたからか、空中に地面があるかのように力を加えることができたのだ。

蹴り飛ばされたグリフォンは、何が起こったのかをまだ理解していないようで、こちらを見ることもしなかった。

そのままその体はグリニエル様の爆破魔法によって粉々に消し飛ばされ、私はまたその名を口にした。




「アネモス…。グリニエル様の所へ向かうわよ…。」


誰かに見られてしまわないように、私は役目を終えてすぐに彼の元へと戻ると、グリニエル様は路地裏へと移動していた。


「グレン様…。グリフォンを倒してくださり、ありがとうございました。」


「…礼なんていらないさ。エミリーがあれの場所を変えてくれなければできなかったことだからね…。怪我はないかい?」

「大丈夫です。
それよりもイザベラの怪我が気になります。」

先程の攻撃で怪我をしたのはイザベラだ。
出血も見えた為、少し気掛かりだった。

「イザベラは魔物からの攻撃にも慣れている。対処は分かってるさ。
それに、聖女がいるのだから、歩いてミレンネ殿の所へ向かうだろう。
私達は人目につく前に城へ戻ろう。」

「はい。」



ヴィサレンスのことはヴィサレンスで解決する。それはこちらへきた初日にロレンザ様に言われたことだ。

手を出しすぎることは良いことではない。
しかし、それがこの国で受け入れられた黒の乙女ならば話は違う。そしてその兄妹であれば、歓迎してもらえることだろう。


そうして私とグリニエル様は、その場に姿を見せることなく、隊長とイザベラを置いて城へと戻った。
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