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拘りの理由②
しおりを挟む「昨日、グリニエル様と喧嘩…みたいなことになりまして…。私に反応してくださらないのは、そのことが原因なのでしょうか…。」
喧嘩の理由も正直言ってまだ分からないのに、話もできないのでは困ってしまう。
グリニエル様が固まってしまっていることの理由を知っているというロレンザ様に聞いた。
「まあ、昨日の君も少し…あれだね。
でもちゃんと話をしなかったグリニエル殿が悪いだろう。まあ、それと今日の出来事のダブルパンチってところだ。」
「…今日のこと?」
今日、私がグリニエル様とお会いしたのはこれが最初であって、特に機嫌を損ねる様なことはなかったと思う。
「先程グリニエル殿がエミレィナなところに行ったんだが、君はレヴィと何をしていた?」
「…。」
私はレヴィと魔力石作りをしたり、ヴィサレンスの昔話を聞いたりしていたのだが、それとこれと何が関係しているのだろうか。
「先程は…その。グリニエル様には秘密で作っていた、忠誠を誓うための魔力石作りをしておりましたわ…。
あとは、先々代の皇帝の話や最悪の双子の物語を聞かせてもらっていました。」
「ああ。それは後でグリニエル殿に贈っても構わない。但し、対等という意味であればだ。だから無駄にしなくていい。
せっかく何日も掛けて作っていたのだからね。」
「っ…。
先程から何か違和感があったのですが、ロレンザ様はどこから情報を得ているのでしょうか…。」
私は確かに何日もかけて魔力石をつくっていた。それだけの情報であればレヴィが報告していたと思ってもおかしくはない。
しかし、彼が私の居場所にすんなりとたどり着いたり、私とグリニエル様が喧嘩をしていた事を知っていたりと、なんだかあまりにも知られ過ぎていて怖いのだ。どこから情報を得ているのだろうか。そう思った。
「……私は防壁魔法を使っているんだ。城内の物は質を高めてある。だから城の出来事は音声までは分からないが、誰が誰と鉢合わせして、どんな雰囲気かくらいは把握できるんだよ。
…まあ、君らが昨日足湯でなにがあったかまでは分からないが、城内のことは大方…
ってなんだ、その顔は。」
「凄いとは思ったのですが、まさか私室の様子まで見られていたのではないかと…。」
城内ということは宿泊部屋だってそうだ。
なんだか正直に言うと、気持ちが悪い能力だと思った。
「ちょっと待て。勘違いするな。私室内までは視ていないさ。…まあ、昔試みたのだが、イザベラにこっ酷く叱られたからな。
それ以来、彼女に嫌われる様なことはしないと決めているんだ。」
「………そうですか。」
「城内に怪しい者が潜入したり、変な取引が行われていたり、イザベラが男と楽しそうにしていないかとか…。気を配ることは国を守ることに繋がるからな。」
「…。」
最後の事は自身の事情でしかない。
しかし、彼の能力は一応国の為でもある為、私はそれ以外何も言わなかった。
「それで、何をしていた。
とはどういう意味でしょうか。
ロレンザ様は私とレヴィの様子も視ていた事でしょうから、特に聞く必要もないかと思うのですが。」
するとロレンザ様は背もたれに寄りかかり、少し体を楽にさせてから口を開く。
「私は視ていたから分かるんだが、グリニエル殿は入口から様子を見ていたから、君とレヴィがキスをしていたと勘違いをして、そのショックでそのまま戻ってきたんだ。」
「………は?」
「まあ、言うなれば角度が悪かっただけさ。」
入口から見て、私とレヴィがキスしているように見えてもおかしくない場面を思い返してみると、てんとう虫のことかと思う。
あの時は確かに、重ならなくとも取たのではないかと思ったが、普通の令嬢であれば悲鳴物。
ならば驚いて身体を逸らしてしまったり、倒れてしまうのを防ぐ為に、レヴィは私の目の前に移動して、ナナホシテントウを取ってくれたのだ。
それを勘違いしたということだろう。
「はぁ…。あれは髪についていたてんとう虫を取ってくれただけです。他意などありませんでしたわ。」
私がそこまで言ってグリニエル様を見ると、彼もこちらを見ていた。
「…本当かい?」
「勿論です。
私とレヴィは家族になったのですよ。
恋だ結婚だなんて、そんなことある訳がないじゃないですか。
ロレンザ様に迷惑が掛かったのですから、シスコンも大概にしてください。
朝早く執務をしに行ったのに、その執務を放棄してロレンザ様にさせるだなんて、情けなさ過ぎます。」
「…んぐ……。すまなかった。
ロレンザ殿…。」
私がプリプリと怒り、ロレンザ様に謝るように促すと、グリニエル様はその流れに従って申し訳なさそうにしている。
「構わないさ。それより、私も一緒にエミレィナの魔力石を見せて欲しいんだ。
貴殿も、話は聞いていただろう?
グリニエル殿に、持っていて欲しいと言うのだから、受け取らないわけはないよな?」
「…っ。だが…。」
「エミレィナがそうしてほしいと言うのだ。
深く考えなくていい。
ただ、エミレィナを対等に扱う事を心に刻んで過ごしては欲しいがな。」
私の忠誠。
それは彼にとって重いものだっただろうか。
そう思いながら私は彼に魔力石のついたピアスを見せた。
「どうか受け取ってほしいのです…。
私の想いを。」
「っ!」
2つと揃わない不格好とも呼べるその出来だが、1つだけでもあればグリニエル様に渡すことが出来ると思っていた。
「こ、れは…。無色透明…。
エミリー、いつの間に加護など受けたんだ。」
その色味に驚いたグリニエル様は、私の手の中にあるそれを見て驚いた顔をしていた。
「…まだ正式には名前の交換をしていないので、何とも…。
側で、見ていて下さいますか?」
「っもちろんだ。
良かったよ、相談してもらえて…
1人で名を結んでいたのなら、どうしようも情けなくなってしまう所だった。」
グリニエル様は私の髪を優しく撫で、ホッとしたように告げた。
「エミレィナ。加護とは危険も伴うんだ。
闇の加護でも受けたら、身体は耐えきれず、粉々となるだろう。
だから、加護の途中で中断させざるおえない状況となった場合、相応の力を持つものでなければ助けることはできない。
だからむしろ今まで気付かなくて正解さ。
運が良かった。」
粉々。ロレンザ様のそれを聞いて、そんなに危険が伴うことだったのかと知る。
私は加護と聞いて、勝手に良い様に捉えていたと思った。
「全くだ。
エミリー。私を選んでくれてありがとう。
それと…これは本当に私が貰っても良いのだろうか。」
「はい。これをしている間、ずっとグリニエル様のお側にいることだけを考えました。
私の生涯を貴方様に捧げます…。」
「っ…。」
グリニエル様はピアスの持たない手で胸元をがっしりと掴む。胸元に痛みでも走ったのだろうか。少し苦しそうにしていた。
「グリニエル様、だ、大丈夫ですか?
お疲れなのでは…。」
「…いや、問題ない。大丈夫だよ。」
座ったままの彼を横にさせた方がいいだろうか。そう思ったが、彼が大丈夫だと告げればそれ以上は踏み込むことができず、私はただ眉を下げた。
「はっはっ。
グリニエル殿は本当に、幸せの様で辛そうだな。
生き地獄のようだ。」
ロレンザ様はグリニエル様の心配をすることなく、笑っている。
それを見て、命に関わる様なわけではないのだとわかり、私の力んだ体はその緊張を解いた。
「…エミリー。とりあえず、あとで私の部屋においで。契約を結ぶと疲れてしまうだろうから、寝巻きで構わない。寒くない様にして来るんだよ。」
「はい。分かりました。
よろしくお願い致します。」
私はその後すぐに執務室を後にし、ステファニーに湯あみを早めるように告げ、さらにミレンネには訳を話して、一緒に過ごせない事を伝えた。
そんな2人には加護のことは伝えなかったのだが、それを知っているかの様にとても輝いた目で見送られ、私は夜までを駆け足で過ごした。
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