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黒のストッキング3

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食堂に着くと、まだロレンザ様もグリニエル様も来ていなかった。


「エミリー。夜は一緒にオイルでマッサージをしてもらいましょう。私の部屋に来て頂戴。
明日の正午は儀式があるけど、午前中は魔力石作りも始めたいわね。」


楽しそうに予定を立てていくミレンネに、私の緊張も少しずつ解れていった。


優しく、ふんわりとした雰囲気を纏うミレンネは、いるだけで周りを癒してくれるようだ。力を使っていなくとも聖女の素質は備わっていたものだと思う。

「ええ。それじゃ、湯あみを終えてからミレンネの部屋に伺わせていただくわね。」

「あっ!なんなら湯あみも一緒にやりましょう。私の部屋にもう一つバスタブを用意させるから、そのままマッサージをするのがいいわ。」

ウフフと笑う彼女話は、先ほど部屋にいたときのように楽しそうに笑っていた。



「待たせて悪いな、2人とも。
…それにミレンネの相手をしてくれてありがとう、エミレィナ。
…ミレンネは対等に話せる友人というものがあまりいなくてね。
だから君には随分と押しが強くなってしまっているようだ。
苦だったらすぐに言ってやってくれ。」


現れたのはロレンザ様だ。
その後ろからはグリニエル様が続く。

話し合いが終わったところなのだろうか。



「っ…!」

グリニエル様は私の姿を見るや否や、目を開いて固まった。

「グリニエル様?御気分でも優れませんか?」

急に動きの止まった彼に私がそう言うと、ロレンザ様が口を開いた。


「いや。いつもより更に美しさの増した君に驚いただけだろう。2人は本当に仲が良くて羨ましいよ。」


「ありがとうございます。ミレンネとステファニーのおかげです。私は何も…。
ただ、ドレスに心惹かれまして、それに合わせて2人がしてくださいましたの。」


「ほう…その色を選ぶとはなかなか情熱的…。
いや、無意識とは、罪深く愛らしいものだ。
なぁ、グリニエル殿?」


「っ。…よく似合っているよ、エミリー。」

彼が柔らかい笑顔を向けてくれたことにホッとしつつ、私はあることに気づく。


「あら。そういえばグリニエル様の瞳の色と同じですわね。」

私も気付いたことをミレンネが先に口に出す。それに続くように私は謝った。


「本当、無意識とはいえ、失礼致しましたわ。」


知らず知らずとはいえ、彼色のドレスを着てしまったことに謝ると、彼は首を振ってくれた。


「いや、エミリーが自分で選んでくれたのだろう?嬉しいよ。
毎日でもその色のドレスで構わないくらいだ。」






冗談がすぎる。

流石に着る物に拘りのない私でも、毎日赤紫色のドレスばかりを着ようとは思わない。



「本当、2人共お似合いですわ。
早く明日の儀式が済めばいいのに。
そうすれば何も問題なく手を取り合えますもの。」

ミレンネは私たち義兄妹の仲の良さを褒めてくれる。
私はそれに素直に嬉しさを表した。

「ありがとう、ミレンネ。」





「ふっ…はっはっは。グリニエル殿も意外と苦労しているようだな。」



「っ…いえ。…まあ。」




ロレンザ様とグリニエル様は席へと座り、私達はとても美味しいディナーを食べ終えた。


その間、隊長による修行が明日から行われること、ここでの大まかなスケジュールなどの話を聞き、私達は元来た道を戻った。


ミレンネはロレンザ様に、
私はグリニエル様のエスコートで歩く。


するとすぐにカコン。と足元で音が鳴った。


私のパンプスが脱げてしまったのだ。
王族としてなかなかの失態とも言えるのだが、支えてくれたグリニエル様とフォローしてくれたミレンネのおかげで赤面は免れた。


「ストッキングでパンプスが滑りやすかったのね。明日からはシューズバンドを用意させるわね。」

これは私の失敗ではなく、その履物が悪いというようにフォローしてくれたことで、ロレンザ様がそういうことか。と納得してくれた。


「慣れていないのに申し訳ない。
ミレンネが無理を言って履き替えさせたのだろう。
脱げたものは私が履かせてやろう。」


脱げたパンプスを1人で履くわけにはいかないが、まさかヴィサレンスの王太子に頼めるようなことではない。

そう思う頃にはすでに彼が動いてくれていた。


「私がやるよ。」

ジョルジュワーンの王子に頼むことでもないが、私にとって血の繋がりのある従兄妹より、血の繋がらない義兄の方が頼みやすい為、私はそのまま少しドレスを上げて足先を出す。

よくは見えないがこれなら履かせやすいだろう。そう思ってふくらはぎが少し見えるくらいで止めると、跪いていた彼がグッと固まってしまった。


「っ。」


私の足先はストッキングという物に覆われ、艶やかに光を集めている。

黒くよく伸びるその生地は、ピッタリと私の脚にフィットしており、一寸の余裕もない。

なんとも絶妙に足が透けて見えていることだろう。



あんなに小さいものがこれほど伸びるとは予想外で、すぐにでも破れてしまうのではないかと不安になる。

すると私と同じように顔を赤らめた殿下は、そのまま時が止まっていた。


「ぐ…グリニエル様?」


「ハッ…あ…す、すまない。今やるよ。」

ハッとしたグリニエル様は私の足にパンプスを履かせ、すぐに立ち上がる。

すると赤く染まる顔を片手で覆っていた。


「ロレンザ殿。…あとで頼みがあるんだが…。」


「ああ。構わない。
では書斎にお茶を準備させるよ。」


ロレンザ様はグリニエル様の話が何か分かっているかのように頷いていた。



「それじゃ、お兄様、グリニエル様。
おやすみなさいませ。

あとは私たち2人で過ごさせていただきますので。」


ミレンネの部屋についた私とミレンネは、エスコートしてくれた彼らに礼を告げて2人と分かれた。





そしてその後は、花弁の浮かぶ湯船で湯浴みをし、侍女たちのマッサージやら髪に櫛を入れられたりしながら過ごす。


ミレンネはいつものように潤い、私は見違えるのではないかというようにプルプルとした肌になった。


「エミリーは磨けば磨いただけ輝くわね。本当に宝石の原石のよう…。

さっきもグリニエル様が驚いていらしたし、明日も驚かせてしまいましょう。
きっと一層愛されること間違いなしだわ。」

彼がシスコンだということは、もうすでに知られているのか、ミレンネはニコニコと笑っていた。





 







________________________

今まで書いたところまで
全部公開してみました。

後戻りできないこの感じ、
そして皆さんに読んでもらえる喜び、
噛み締めております。


私の身近にいますね、脚フェチ。
その人に話を聞いて書いています。

いろんなフェチがあるとは思いますが、
私は腕フェチです。
筋肉の形が浮き出る筋が好き☺︎



次の更新は少し空きます。

ここまで読んでくださりありがとうございます。


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