31 / 104
黒の乙女2
しおりを挟む
シュンッと言う音と共に私達が着いたのは、見慣れない塔の下だった。
どうやら国境である門を越え、人目のつかないように国境機関に直接きたのだろう。
渋い緑色のそれは、年代の感じる建物だ。
ロレンザ様は“ちょっと待て”と言い残し、その塔に足を踏み入れると、どうやら手続きを行なっているようだった。
私たちはその後ろ姿を見送った後、見慣れないその景色を眺めていた。
「ここがヴィサレンス帝国…。」
「なんだか空気がひんやりとしているね。」
「確かにそうですね。」
母の故郷であるヴィサレンス帝国は、ジョルジュワーンと比べると何だか少し肌寒い気がする。
私とグリニエル様はヴィサレンスに興味があり、キョロキョロと辺りを見渡しているとジョルジュワーンとは違う植物を見つけた。
「ヴィサレンスはジョルジュワーンと比べると気温が低いので、育つ植物も違うのです。
日中は暖かいですが、夜は比べ物にならないほど寒くなりますの。」
私と殿下に説明してくれるのはミレンネだ。
ちなみに隊長は塔の方が気になるようで、トロアに説明を受けているようだった。
それを見て、私は更に数メートルだけ離れ、また珍しい植物に視線を注いだ。
「待たせたね。」
そう言って戻ってきたロレンザ様は、そのまま続けた。
「どうやらこの近くで魔物が出たようだから、鉢合わせしてしまう前に城に向かうよ。
集まってくれ。」
「え?魔物の討伐はなさらないのですか?」
すぐそこに魔物がいるというのに、ロレンザ様は先を急ぐ。
私は不思議に思ってそう問いかけた。
「ここはヴィサレンスだ。
他国の者を巻き込むわけにはいかない。
それに、騎士たちは弱くはないのだから任せるんだよ。そうすることで、より一層貢献した気持ちが大きくなるだろう?
それに、私がここを出る前に張っていた防御魔法が解かれているから、戻って貼り直さなければならない。
…いくら大きさを優先したものだとしても、簡単には壊せないものだったんだがね、誰か戦いで無茶でもしたのだろう…。とにかく城に戻って状況を把握するのが先だ。」
他国の客である私達を巻き込むことはせず、尚且つ騎士たちに委ねる。
それはヴィサレンスの騎士にとってやはり嬉しいことだろう。皇太子殿下に討伐を任せられるというのは、力を認められているからで、とても名誉あることだと思う。
私も殿下に頼られれば嬉しい為、気持ちは分かる。と小さく頷いた。
そうとなれば、私たちは手を出さないようにしなければならない。そう思って私がロレンザ様の所に向かおうと、足を踏み替えると、背後で気配を感じた。
「っエミリー!」
殿下の声と同時に後ろを振り返ると、見上げる程に大きい魔物が私たちに向かってきていた。
「っ。」
それを見た時、魔物を目にしたことのない私は、一瞬にして血の気が引き、せめて攻撃を受け止められるようにと体勢を整えた。
横目に映る誰しもが動いてはいるが、きっと自分で動くのが1番早いと判断し、魔物に目を向ける。
その魔物は私に向かって大きな口を開きながらに何かを叫んだ後、私のすぐ前に倒れ込んだ。
「…え?」
私はなにもしていない。
それなのに、魔物は急所でも突かれたかのようにピクリとも動かなかった。
「エミリー!大丈夫かい?」
グリニエル様が私に駆け寄り、私の背に腕を回しながら確認してきたが、怪我どころか殴りもしていない私はどこも平気だ。
それを見た彼はホッとしているように眉を下げた。
「エミレィナ!無事か⁈」
「はい。お手を煩わせてしまい、申し訳ありません。」
私も殿下も何もしていない。それならば少し遠くにはいるものの、ロレンザ様だろうと口にしたのだが、彼は首を振って魔物の方を指差した。
「っイザベラ…。」
その名を呼ぶのは隊長だ。
私のそばまで来ていた隊長が、小さいながらも声を漏らした。
「…。」
魔物を挟んだ向こうにいたのは、黒髪に鈍色の瞳をした女性。彼女がこの魔物を止めてくれたらしいのだ。
キリッとした綺麗な顔立ちをしている彼女は、妹と言われれば納得するほどに、隊長と似ている。
「…どうして私の名を知っているの。」
感情の読めない表情でそう聞く彼女は、隊長に興味があるようで、魔物を跨いでこちらに近づいてくる。
「ねえ、どうして私の名を知っているの。」
「…。」
隊長は何も発さない。
まず、何を話せばいいのかが分からないというような顔をしていた。
するとそこに少し遅れてロレンザ様とトロアが合流した。
「イザベラ。来ていたのかい?」
「…ロレンザ様。」
「君のことだからジッとしていられなかったのだろうが、魔物の討伐は騎士に任せてくれないと…。
君が怪我でもしたらどうするんだ。」
イザベラの前に立つロレンザ様は、なんだか今までの印象と違い、なんだか優しげだ。
すると、ミレンネが教えてくれた。
「イザベラ様はお兄様の婚約者となる御方です。
…まあ、兄の一方通行にも見えるのですが、意外とイザベラ様も受け入れておられるようで、仲が宜しいのです。」
確かに2人は左右互い色のピアスをしており、2人が近づくにつれ、その輝きが増すようだ。
「……ところで、あなたは誰。
どうして私を知っているの。」
逃さまいと隊長の前に立つイザベラに、隊長は少し困ったような顔をしている。
するとそれを見兼ねたのか、グリニエル様が口を開いた。
「……ロレンザ殿。
ケインシュアには妹がいる。
それがイザベラという女性です。
今年24となりましょう。
イザベラは5年前に行方不明となり、ケインはずっと妹を探しておりました。
そして目の前にいる彼女は、妹であるイザベラと瓜二つ。そして名前まで同じようなのですが…。
彼女はヴィサレンスの生まれなのでしょうか。」
グリニエル様の問いに、ロレンザ様は小さくそういうことか、と言葉を漏らす。
「イザベラは5年前にふらりとこの地にやってきたんだ。
彼女は自身の名と剣術以外を全て忘れていて、いわば記憶喪失というやつだった。
そしてそのままこの地に居着き、今では腕の立つ者として“黒の乙女”という肩書きまで付けられている。
まさか彼女が“生きる剣”の妹だったとは…。
確かによく見ると似ている気もする。」
ロレンザ様は興味深そうに2人を見比べる。
するとイザベラが口を開いた。
「私の…兄だと言うのですか?」
「“生きる剣”と呼ばれているあなたが?」
「…。」
信じられないとでも言いたげな顔をするイザベラに、隊長はまたしても何も言わない。
「わ…私を連れ戻しに来たの…ですか?」
「…ああ。」
「っ。…そうですか。」
イザベラはどんな気持ちでいるのだろうか。
彼女の表情だけでは何も読み取ることができない。
「…だが辞めた。」
「…は?」
事実自分を迎えに来た兄が急にそれを取り止めると言ったことに、彼女が困惑していることだけは分かった。
「ベラはここの暮らしに慣れたのだろう。
お前がジョルジュワーンに戻りたいならそうするが、そうではなさそうだ。
…だから、連れ戻すのは辞めだ。」
「っ。」
信じられないと言うように目を見開くイザベラに、隊長は続けた。
「代わりに、ここに滞在する間はベラの成長がみたい。
一緒に過ごさせてもらってもいいだろうか。」
「…!」
イザベラは判断を伺うようにロレンザ様を見ると、ロレンザ様はため息をついた。
「…イザベラ。
君のしたいようにすればいい。」
自分に聞いてくれたことに嬉しそうにしながらも、断れるようなものではないと思ったロレンザ様は優しく微笑んだ。
「…まさか生きる剣にご指導願える日がくるとは…。
…よろしく頼みます。」
きっとイザベラは生きる剣を尊敬しているのだろう。トロアと一緒で、隊長が生きる剣だと分かった時の眼差しがまるで違う。
「…ケインシュア。
もし良ければトロアも一緒に見てもらうことはできるだろうか。
“生きる剣”に剣術を見てもらう機会などそうそうあるものではないからな。」
「…ああ。構わない。
こちらの要望を通してくれて感謝する。
ヴィサレンスの皇太子殿下。」
「……ええ。
それじゃまず、城まで移転しよう。
国王が首を長くして君達を待っているだろうからね。」
隊長の刺々しい言葉には反応せず、ロレンザ様は城に行くための陣を描く。
人数や距離がある場合は、こうすれば何度も移転しなくとも1度に動くことができる。
陣無しでは大きさや質が変わるのだとミレンネが教えてくれたのだ。
でも、陣を描くだけで軍をも動かすことのできる人なのだから、やはりすごいとは思うのだ。
「それじゃ、行くよ。」
陣は一度使えば消えてしまう。
これも、私たちが使えば消えてしまうものだろう。
綺麗に描かれたそれが儚く勿体無いと思いながら、私は彼の2度目の移転魔法に身を委ねた。
どうやら国境である門を越え、人目のつかないように国境機関に直接きたのだろう。
渋い緑色のそれは、年代の感じる建物だ。
ロレンザ様は“ちょっと待て”と言い残し、その塔に足を踏み入れると、どうやら手続きを行なっているようだった。
私たちはその後ろ姿を見送った後、見慣れないその景色を眺めていた。
「ここがヴィサレンス帝国…。」
「なんだか空気がひんやりとしているね。」
「確かにそうですね。」
母の故郷であるヴィサレンス帝国は、ジョルジュワーンと比べると何だか少し肌寒い気がする。
私とグリニエル様はヴィサレンスに興味があり、キョロキョロと辺りを見渡しているとジョルジュワーンとは違う植物を見つけた。
「ヴィサレンスはジョルジュワーンと比べると気温が低いので、育つ植物も違うのです。
日中は暖かいですが、夜は比べ物にならないほど寒くなりますの。」
私と殿下に説明してくれるのはミレンネだ。
ちなみに隊長は塔の方が気になるようで、トロアに説明を受けているようだった。
それを見て、私は更に数メートルだけ離れ、また珍しい植物に視線を注いだ。
「待たせたね。」
そう言って戻ってきたロレンザ様は、そのまま続けた。
「どうやらこの近くで魔物が出たようだから、鉢合わせしてしまう前に城に向かうよ。
集まってくれ。」
「え?魔物の討伐はなさらないのですか?」
すぐそこに魔物がいるというのに、ロレンザ様は先を急ぐ。
私は不思議に思ってそう問いかけた。
「ここはヴィサレンスだ。
他国の者を巻き込むわけにはいかない。
それに、騎士たちは弱くはないのだから任せるんだよ。そうすることで、より一層貢献した気持ちが大きくなるだろう?
それに、私がここを出る前に張っていた防御魔法が解かれているから、戻って貼り直さなければならない。
…いくら大きさを優先したものだとしても、簡単には壊せないものだったんだがね、誰か戦いで無茶でもしたのだろう…。とにかく城に戻って状況を把握するのが先だ。」
他国の客である私達を巻き込むことはせず、尚且つ騎士たちに委ねる。
それはヴィサレンスの騎士にとってやはり嬉しいことだろう。皇太子殿下に討伐を任せられるというのは、力を認められているからで、とても名誉あることだと思う。
私も殿下に頼られれば嬉しい為、気持ちは分かる。と小さく頷いた。
そうとなれば、私たちは手を出さないようにしなければならない。そう思って私がロレンザ様の所に向かおうと、足を踏み替えると、背後で気配を感じた。
「っエミリー!」
殿下の声と同時に後ろを振り返ると、見上げる程に大きい魔物が私たちに向かってきていた。
「っ。」
それを見た時、魔物を目にしたことのない私は、一瞬にして血の気が引き、せめて攻撃を受け止められるようにと体勢を整えた。
横目に映る誰しもが動いてはいるが、きっと自分で動くのが1番早いと判断し、魔物に目を向ける。
その魔物は私に向かって大きな口を開きながらに何かを叫んだ後、私のすぐ前に倒れ込んだ。
「…え?」
私はなにもしていない。
それなのに、魔物は急所でも突かれたかのようにピクリとも動かなかった。
「エミリー!大丈夫かい?」
グリニエル様が私に駆け寄り、私の背に腕を回しながら確認してきたが、怪我どころか殴りもしていない私はどこも平気だ。
それを見た彼はホッとしているように眉を下げた。
「エミレィナ!無事か⁈」
「はい。お手を煩わせてしまい、申し訳ありません。」
私も殿下も何もしていない。それならば少し遠くにはいるものの、ロレンザ様だろうと口にしたのだが、彼は首を振って魔物の方を指差した。
「っイザベラ…。」
その名を呼ぶのは隊長だ。
私のそばまで来ていた隊長が、小さいながらも声を漏らした。
「…。」
魔物を挟んだ向こうにいたのは、黒髪に鈍色の瞳をした女性。彼女がこの魔物を止めてくれたらしいのだ。
キリッとした綺麗な顔立ちをしている彼女は、妹と言われれば納得するほどに、隊長と似ている。
「…どうして私の名を知っているの。」
感情の読めない表情でそう聞く彼女は、隊長に興味があるようで、魔物を跨いでこちらに近づいてくる。
「ねえ、どうして私の名を知っているの。」
「…。」
隊長は何も発さない。
まず、何を話せばいいのかが分からないというような顔をしていた。
するとそこに少し遅れてロレンザ様とトロアが合流した。
「イザベラ。来ていたのかい?」
「…ロレンザ様。」
「君のことだからジッとしていられなかったのだろうが、魔物の討伐は騎士に任せてくれないと…。
君が怪我でもしたらどうするんだ。」
イザベラの前に立つロレンザ様は、なんだか今までの印象と違い、なんだか優しげだ。
すると、ミレンネが教えてくれた。
「イザベラ様はお兄様の婚約者となる御方です。
…まあ、兄の一方通行にも見えるのですが、意外とイザベラ様も受け入れておられるようで、仲が宜しいのです。」
確かに2人は左右互い色のピアスをしており、2人が近づくにつれ、その輝きが増すようだ。
「……ところで、あなたは誰。
どうして私を知っているの。」
逃さまいと隊長の前に立つイザベラに、隊長は少し困ったような顔をしている。
するとそれを見兼ねたのか、グリニエル様が口を開いた。
「……ロレンザ殿。
ケインシュアには妹がいる。
それがイザベラという女性です。
今年24となりましょう。
イザベラは5年前に行方不明となり、ケインはずっと妹を探しておりました。
そして目の前にいる彼女は、妹であるイザベラと瓜二つ。そして名前まで同じようなのですが…。
彼女はヴィサレンスの生まれなのでしょうか。」
グリニエル様の問いに、ロレンザ様は小さくそういうことか、と言葉を漏らす。
「イザベラは5年前にふらりとこの地にやってきたんだ。
彼女は自身の名と剣術以外を全て忘れていて、いわば記憶喪失というやつだった。
そしてそのままこの地に居着き、今では腕の立つ者として“黒の乙女”という肩書きまで付けられている。
まさか彼女が“生きる剣”の妹だったとは…。
確かによく見ると似ている気もする。」
ロレンザ様は興味深そうに2人を見比べる。
するとイザベラが口を開いた。
「私の…兄だと言うのですか?」
「“生きる剣”と呼ばれているあなたが?」
「…。」
信じられないとでも言いたげな顔をするイザベラに、隊長はまたしても何も言わない。
「わ…私を連れ戻しに来たの…ですか?」
「…ああ。」
「っ。…そうですか。」
イザベラはどんな気持ちでいるのだろうか。
彼女の表情だけでは何も読み取ることができない。
「…だが辞めた。」
「…は?」
事実自分を迎えに来た兄が急にそれを取り止めると言ったことに、彼女が困惑していることだけは分かった。
「ベラはここの暮らしに慣れたのだろう。
お前がジョルジュワーンに戻りたいならそうするが、そうではなさそうだ。
…だから、連れ戻すのは辞めだ。」
「っ。」
信じられないと言うように目を見開くイザベラに、隊長は続けた。
「代わりに、ここに滞在する間はベラの成長がみたい。
一緒に過ごさせてもらってもいいだろうか。」
「…!」
イザベラは判断を伺うようにロレンザ様を見ると、ロレンザ様はため息をついた。
「…イザベラ。
君のしたいようにすればいい。」
自分に聞いてくれたことに嬉しそうにしながらも、断れるようなものではないと思ったロレンザ様は優しく微笑んだ。
「…まさか生きる剣にご指導願える日がくるとは…。
…よろしく頼みます。」
きっとイザベラは生きる剣を尊敬しているのだろう。トロアと一緒で、隊長が生きる剣だと分かった時の眼差しがまるで違う。
「…ケインシュア。
もし良ければトロアも一緒に見てもらうことはできるだろうか。
“生きる剣”に剣術を見てもらう機会などそうそうあるものではないからな。」
「…ああ。構わない。
こちらの要望を通してくれて感謝する。
ヴィサレンスの皇太子殿下。」
「……ええ。
それじゃまず、城まで移転しよう。
国王が首を長くして君達を待っているだろうからね。」
隊長の刺々しい言葉には反応せず、ロレンザ様は城に行くための陣を描く。
人数や距離がある場合は、こうすれば何度も移転しなくとも1度に動くことができる。
陣無しでは大きさや質が変わるのだとミレンネが教えてくれたのだ。
でも、陣を描くだけで軍をも動かすことのできる人なのだから、やはりすごいとは思うのだ。
「それじゃ、行くよ。」
陣は一度使えば消えてしまう。
これも、私たちが使えば消えてしまうものだろう。
綺麗に描かれたそれが儚く勿体無いと思いながら、私は彼の2度目の移転魔法に身を委ねた。
0
お気に入りに追加
97
あなたにおすすめの小説


【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり

だいたい全部、聖女のせい。
荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」
異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。
いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。
すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。
これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。

幼馴染がそんなに良いなら、婚約解消いたしましょうか?
ルイス
恋愛
「アーチェ、君は明るいのは良いんだけれど、お淑やかさが足りないと思うんだ。貴族令嬢であれば、もっと気品を持ってだね。例えば、ニーナのような……」
「はあ……なるほどね」
伯爵令嬢のアーチェと伯爵令息のウォーレスは幼馴染であり婚約関係でもあった。
彼らにはもう一人、ニーナという幼馴染が居た。
アーチェはウォーレスが性格面でニーナと比べ過ぎることに辟易し、婚約解消を申し出る。
ウォーレスも納得し、婚約解消は無事に成立したはずだったが……。
ウォーレスはニーナのことを大切にしながらも、アーチェのことも忘れられないと言って来る始末だった……。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?
氷雨そら
恋愛
結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。
そしておそらく旦那様は理解した。
私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。
――――でも、それだって理由はある。
前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。
しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。
「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。
そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。
お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!
かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。
小説家になろうにも掲載しています。

【完結】逆行した聖女
ウミ
恋愛
1度目の生で、取り巻き達の罪まで着せられ処刑された公爵令嬢が、逆行してやり直す。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初めて書いた作品で、色々矛盾があります。どうか寛大な心でお読みいただけるととても嬉しいですm(_ _)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる