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ディストネイルへ出向4

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王妃様のお茶会に招待されてからまた3日が経つ。あれから私とミレンネは一緒に過ごすことが増え、今日も王宮裏にある森林で祈りを捧げた後、2人で話をしていた。
いや、2人と1匹…ルキアも一緒だ。


「この猫もオークションに出されていたのよね。」

今日も散歩に出てきたらしいルキアは、私の膝に乗り、大欠伸をする。
そんな彼を、可愛いと褒めながら観察しているのだ。


「綺麗なシルバーの毛並みに湖のように透き通った目をしているのだもの、狙われたのも頷けるわ。」

私は彼の頭を撫でてやりながらそう口にした。


ミレンネの付けているピアスが光り、ルキアはその輝きに反応する。光るものが好きなのだろうか。彼はそれから目を離そうとはしない。



「…綺麗なピアスね。」


「え?…あ。ありがとう。
これは魔力石といって、その人にしか作れない物なの。
これも私が作ったものだから、そう言ってもらえると嬉しいわ。」

魔力石。それは自身の魔力で作り出す結晶で、力の宝石とも呼ばれているらしい。

「ヴィサレンスの王家では小さい頃に耳に穴を開けるの。そして5歳になるまでは両親の魔力石をつけているのよ。
そして自分で石を作れるようになって、初めて自身の色を付けることができるわ。」

「へぇ。とても素敵な伝統ね。」

「エミリーもヴィサレンスにきたら教えてあげるから、一緒に作りましょう。
私よりも深いピンクの瞳をしているあなたの魔力石はきっともっと綺麗よ。」

「…ええ。ありがとう。是非お願いするわ。」

ヴィサレンス行きは免れない。
それなら楽しみが1つでも多くあればいいと思うのだ。


「それでね。このピアスには意味もあるの。」

「意味?」


「ピアスは忠誠の証なの。夫婦で石を交換したり、左右で違う色のピアスをしている者は、婚約者のピアスをしているということなの。だから、女除け男除けに使われたりするわね。
それに、一生その主人に付き従う忠誠心としても使われるわ。
現にトロアの片耳のピアスは私の兄が持っているの。襟に付けてあるのがそうよ。」

ただのお洒落だと思っていたが、それは違うのだと分かり、その深さに驚いた。





するとルキアの耳がピッと立ち、目を開けて林の方を見つめ始めた。

「どうしたの、ルキア。」

私がそう声をかけると、ルキアは私の膝から降りて去って行く。

すると代わりに顔を見せたのは、ディストネイルに向かったはずのグリニエル様だった。

「っ。グリニエル様!」

まだ帰ってくると言う伝令は届いていない。しかし、彼はここにいるのだ。
一体どういうことなのかと思った。





「ケインの移転魔法で、途中の道を少しだけどショートカットしたからね。伝令と同じタイミングで帰ってくることができたよ。」


ならばわざわざ伝令を走らせる必要はなかったのではないかとも思うが、今は彼が帰ってきたということだけで精一杯だった。

ニコニコと笑う彼に近づき、私はそのまま抱きついた。

「…殿下。」

彼はそのまま私を抱きしめ返してくれる。

「ただいま、エミリー。」

たった何日しか経っていないというのに、彼の腕の中は懐かしく感じた。


「ミレンネ殿。トロアはロレンザ殿に報告をしておられる。トロア早く帰ってきたかったようで、大活躍だったよ。」

殿下がそう言うと、失礼しますわ。と言い残し、ミレンネは足早に去って行く。

残された私と殿下はその場に座り、少し話をした。


「殿下は報告に行かなくても宜しいのですか?」

「ああ。報告ならケインがするだろう。
私が会いたかったのはエミリーだからね。兄上ではない。」

彼はそう言って私の頭を撫でて、何をしてい過ごしていたのかと聞いてきた。


「…私はずっとここで祈りを捧げておりました……。あとは王妃様とミレンネとお茶会をしたりですね。お茶会を終えてからは毎日のようにミレンネと過ごしましたわ。」

私がそう言うと、彼の表情は途端に明るくなった。


「ああ、嬉しいな。直接見れなかったのは残念だが。ずっと私のことを考えてくれていたと言うことだろう?嬉しいよ。」

そう言って笑うのだ。


そんな顔を見てしまえば、いつもの彼だとホッとする。

そして私は日が落ちかけていることに気付いた。

「…もう戻らなければなりませんね。
今から食事をしながら報告会でもするのでしょうか。」

「…いや、今帰ってきたばかりだからな。兄上とロレンザ殿で話をまとめ、きっと明日の午前にでも時間を作ることになるだろう。

だから、ディストネイルに行く前に交わした約束を果たしたいのだけれど、夜、エミリーの部屋に行ってもいいだろうか。」


明日は報告会があるから別宮に泊まれと言うことだろう。後で1度家に戻って、ルキアのご飯だけは用意してあげなければと思った。



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