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ディストネイルの狙い3
しおりを挟む「エミリー、ちょっといいかい?」
「…ご機嫌よう、ブルレギアス様。」
殿下への報告を終え、帰路へと着こうとする私に、ブルレギアス様は声をかける。
「ああ。今日も綺麗だね、エミリー。
ドレスがよく似合っている。
ところで…例の2人のことで。と言えばわかるかな?」
私はそれを聞いて頷く。
そしてここでは話せないからと、彼の執務室へと向かった。
それは、何年も歩くことのなかった、もとい、歩く必要のなかった廊下で、私はその道中、とても緊張していた。
彼の執務室に脚を踏み入れると、先日の2人がいた。
「エミリー。改めて君に頼むことにするよ、ディストネイル第一王女であるリリマナ。こちらに亡命してからはリンマナと名乗っていたらしい。そして彼は薬師テテ。彼は私の元で麻薬についての調査、そして成果を上げて貰うこととなった。
リンマナのことはエミリーに頼むこととなるが、何かあれば彼女にも動いてもらうことにする。それ以外は君の元で働いてもらうことにしたよ。それでいいんだな?」
先日、私が彼女を庇ったことが、ブルレギアス様に報告されたのだろう。
私はそれに頷いた。
「リンマナの面倒は私が見ます。彼女がジョルジュワーンに背いた場合、私が責任をもちますわ。」
私がそう言って彼の目を見ると、彼はクスクスと笑っていた。
「ケインシュアに聞いたよ、エミリーから言い出したんだろう。
本当に君は、…面白い。」
どうして彼が笑うのかはわからない。
しかし、彼が私の願いを聞いてくれたことは、素直に嬉しかった。
「グリニエルには私から説明するよ。
私が雇ったスパイから話を聞いた。そういうことにしておいてくれ。」
「…ありがとうございます。」
「2人も、エミリーがルピエパールで働いていることは秘密だ。分かったね。」
「はい。」「分かりました。」
彼らには私がルピエパールで働いていたことは気付かれてしまっている。しかし、ブルレギアス様にも知られていることは知らなかった。
「ブルレギアスは…」
それを聞こうとして彼を見ると、彼は口元に人差し指を立てている。
聞くなということだろう。
彼は本当に怖い。そう思った。
リンマナはルピエパールの部屋で暮らすこととなり、テテは王宮のブルレギアス様の執務室近くに設けられた研究室……とは名ばかりの部屋で過ごすこととなった。
しかし2人とも余程酷い生活をしていたのか、それだけでとても感謝された。
そんな彼らを見届け、執務室に残った私とブルレギアス様は久しぶりにお茶でもしようと執務室のソファに腰掛けた。
向かい側にはブルレギアス様。
流れるような動きに私も目を奪われた。
「…エミリー。
……ヴィサレンスから書状が届いたんだ。
エミレィナとの対談を求める。とね。」
「…。」
それはきっとオークションの人たちだろうと予想が付く。
そして私は彼に問うた。
「…私1人でお受けしても宜しいのですか?」
するとそれにブルレギアスは首を横に振った。
それはそうだろう。
ジョルジュワーンと並ぶほどの力を持つヴィサレンス。その国の者との対談に、私1人では心許ない。
「私も同席するよ。いいね?」
私はそう言われてコクンと頷く。
オークションの時の報告はしてある。
そして彼女を攫った原因はジョルジュワーンの国王にあるのだ。助けたのがジョルジュワーンの者だとしても、下手をすれば戦いとなってしまうかもしれない。
私は彼がいてくれるということにホッと胸を撫で下ろした。
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