22 / 104
ディストネイルの狙い3
しおりを挟む「エミリー、ちょっといいかい?」
「…ご機嫌よう、ブルレギアス様。」
殿下への報告を終え、帰路へと着こうとする私に、ブルレギアス様は声をかける。
「ああ。今日も綺麗だね、エミリー。
ドレスがよく似合っている。
ところで…例の2人のことで。と言えばわかるかな?」
私はそれを聞いて頷く。
そしてここでは話せないからと、彼の執務室へと向かった。
それは、何年も歩くことのなかった、もとい、歩く必要のなかった廊下で、私はその道中、とても緊張していた。
彼の執務室に脚を踏み入れると、先日の2人がいた。
「エミリー。改めて君に頼むことにするよ、ディストネイル第一王女であるリリマナ。こちらに亡命してからはリンマナと名乗っていたらしい。そして彼は薬師テテ。彼は私の元で麻薬についての調査、そして成果を上げて貰うこととなった。
リンマナのことはエミリーに頼むこととなるが、何かあれば彼女にも動いてもらうことにする。それ以外は君の元で働いてもらうことにしたよ。それでいいんだな?」
先日、私が彼女を庇ったことが、ブルレギアス様に報告されたのだろう。
私はそれに頷いた。
「リンマナの面倒は私が見ます。彼女がジョルジュワーンに背いた場合、私が責任をもちますわ。」
私がそう言って彼の目を見ると、彼はクスクスと笑っていた。
「ケインシュアに聞いたよ、エミリーから言い出したんだろう。
本当に君は、…面白い。」
どうして彼が笑うのかはわからない。
しかし、彼が私の願いを聞いてくれたことは、素直に嬉しかった。
「グリニエルには私から説明するよ。
私が雇ったスパイから話を聞いた。そういうことにしておいてくれ。」
「…ありがとうございます。」
「2人も、エミリーがルピエパールで働いていることは秘密だ。分かったね。」
「はい。」「分かりました。」
彼らには私がルピエパールで働いていたことは気付かれてしまっている。しかし、ブルレギアス様にも知られていることは知らなかった。
「ブルレギアスは…」
それを聞こうとして彼を見ると、彼は口元に人差し指を立てている。
聞くなということだろう。
彼は本当に怖い。そう思った。
リンマナはルピエパールの部屋で暮らすこととなり、テテは王宮のブルレギアス様の執務室近くに設けられた研究室……とは名ばかりの部屋で過ごすこととなった。
しかし2人とも余程酷い生活をしていたのか、それだけでとても感謝された。
そんな彼らを見届け、執務室に残った私とブルレギアス様は久しぶりにお茶でもしようと執務室のソファに腰掛けた。
向かい側にはブルレギアス様。
流れるような動きに私も目を奪われた。
「…エミリー。
……ヴィサレンスから書状が届いたんだ。
エミレィナとの対談を求める。とね。」
「…。」
それはきっとオークションの人たちだろうと予想が付く。
そして私は彼に問うた。
「…私1人でお受けしても宜しいのですか?」
するとそれにブルレギアスは首を横に振った。
それはそうだろう。
ジョルジュワーンと並ぶほどの力を持つヴィサレンス。その国の者との対談に、私1人では心許ない。
「私も同席するよ。いいね?」
私はそう言われてコクンと頷く。
オークションの時の報告はしてある。
そして彼女を攫った原因はジョルジュワーンの国王にあるのだ。助けたのがジョルジュワーンの者だとしても、下手をすれば戦いとなってしまうかもしれない。
私は彼がいてくれるということにホッと胸を撫で下ろした。
0
お気に入りに追加
97
あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
【完結】「私は善意に殺された」
まほりろ
恋愛
筆頭公爵家の娘である私が、母親は身分が低い王太子殿下の後ろ盾になるため、彼の婚約者になるのは自然な流れだった。
誰もが私が王太子妃になると信じて疑わなかった。
私も殿下と婚約してから一度も、彼との結婚を疑ったことはない。
だが殿下が病に倒れ、その治療のため異世界から聖女が召喚され二人が愛し合ったことで……全ての運命が狂い出す。
どなたにも悪意はなかった……私が不運な星の下に生まれた……ただそれだけ。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します。
※他サイトにも投稿中。
※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
※小説家になろうにて2022年11月19日昼、日間異世界恋愛ランキング38位、総合59位まで上がった作品です!

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。
つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。
彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。
なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか?
それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。
恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。
その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。
更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。
婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。
生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。
婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。
後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。
「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

【完結】聖女を害した公爵令嬢の私は国外追放をされ宿屋で住み込み女中をしております。え、偽聖女だった? ごめんなさい知りません。
藍生蕗
恋愛
かれこれ五年ほど前、公爵令嬢だった私───オリランダは、王太子の婚約者と実家の娘の立場の両方を聖女であるメイルティン様に奪われた事を許せずに、彼女を害してしまいました。しかしそれが王太子と実家から不興を買い、私は国外追放をされてしまいます。
そうして私は自らの罪と向き合い、平民となり宿屋で住み込み女中として過ごしていたのですが……
偽聖女だった? 更にどうして偽聖女の償いを今更私がしなければならないのでしょうか? とりあえず今幸せなので帰って下さい。
※ 設定は甘めです
※ 他のサイトにも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる