【完結】竜の翼と風の王国

藤夜

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25 翼を持つもの4

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だってあの時………

「私、あの時気づいたんだ。風の精霊がいなかった。ずっと、私の周りにはいない。見えないし、声も聞こえない。だから気づかないだけかと思っていた。でも、違う。最初からいないんだ。私、風の乙女なんかじゃない。アルファさんはきっと間違えたんじゃないのかな」

泣きたい気分だった。
こんな弱音を陛下に聞かせたくなかった。
でも、口が勝手にうごいてしまう。
張り詰めた糸がぷっつり切れてしまったように。

「それなら、私がここにいる理由がない。私の存在の意味がない」
「ルーラ………」

陛下がいたわるように肩に手を置く。

「死ぬつもりはないよ。私の背中に翼があるのは本当だし、風の刻印があるのも見た。でも………だから本当の『風の乙女』にならなきゃいけないの。その為にはリューンに助けてもらっていたのでは駄目。一人でやらなきゃ結界を開くことは出来ない。きっと」

結界がどうしても私を拒むのなら、別の方法を考える。何かあるはずだ。必ず何か方法が。なければ意地でも壊してやる。たとえ死んでも。

「ルーラ」

不意にぎゅっと抱きしめられた。
何が起こったのか、一瞬理解が出来ない。

「もういい、やめてくれ………頼む」

陛下の身体がふるえている。
肩越しに、掠れた声が聞こえる。

「ここにいればいい。『風の乙女』でなくても、お前の居場所はここにある」

トクンと心臓が音をたてる。

「お前を失いたくない」

トクン トクン トクン
自分の鼓動が大きく聞こえる。
陛下が私の顔を見つめた。

「好きだ」

信じられない思いにすくむ私の頬を手ではさみこむ。
そしてゆっくりと口付けた。
彼の唇が離れても、私はしばらく身動きできなかった。

「俺にはお前の存在が必要だ。ここにいてくれ」

嬉しくて、涙が頬をつたわりおちた。
ただ、嬉しくて嬉しくて。
彼は私の頬を指でそっと拭う。

「お前は母親似だな。黒い髪、黒い瞳。気の強そうな目元もそっくりだ」
「………陛下は私の本当のママを知っているの?」
「ああ、子供の頃に会ったことがある。とても美しい人で、か弱そうなのに芯が強い女だった。会いたいか?」

本当のママーーー
私は首を横に振った。
私のママは一人でいい。
陛下はそんな私を見て、少し笑った。

「とにかく、神殿に行くのはリューンが治ってからだぞ。それまでは大人しく寝ているんだ」

ビシッと私に指を突きつける。

「わかったな」

念を押しながら部屋を出て行った。
その頬が少し赤かったのは、もしかして照れていたのかな?
私はくすくす笑いながらそれを見送った。
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