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第四章 終焉の神
18 城の夕食会
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その日の夜はロイゼルドがいるということで、警備の者以外の皆が広間で集まって夕食会が開かれた。鷲獅子騎士団の騎士は五人、それ以外はダリスによって集められた兵士達だ。
皆身元はある程度調査済みだが、一部は流れの傭兵経験者などもおり、騎士達から滲み出る育ちの良さとはまた違う雰囲気があった。
レンブル城の私兵ともまた違う雑多な印象だ。それでも軍隊らしい規律正しさは皆持っている。これから先、グレイ領の侯爵直属の私兵として磨き上げていくのだ。
面白いなぁとエルディアは観察を楽しんでいた。まだ階級はつけていないはずだが、大体の序列はついているようだ。雇用されて間がないはずだが、訓練などで大体お互いの雌雄が決しているのだろう。
かわるがわるロイゼルドのところに来ては話をしている。
料理は彼等の内で得意な者が作っているらしいのだが、これがなかなか素朴ながらに味が良く、エルディアは珍しくぱくぱく食べた。貴族の女性にしてはその食べっぷりが良かったので、初めは気後れしていた兵士達も和やかな雰囲気で彼女を見ている。
そのうちロイゼルドを囲む兵士達のうちの数人が寄って来た。
「お嬢さん、めちゃくちゃ綺麗なのによく食べるなあ」
「団長の彼女?」
近くにいた騎士が慌てて飛んでくる。
「こら、失礼だぞ。エルディア様は女性だが、我等騎士団の騎士だ。それに訓練指導員もされている」
「まさか。どこから見ても可愛らしい姫様じゃないか」
「本当だよ」
にっこり笑ってそう言うと、兵士達は目を瞬かせて驚いた。
常日頃軍服を着て走り回っているのだが、ふんわりスカートの格好では楚々とした雰囲気である。
「嘘だろ。このほっそい身体で?」
「剣は持てるのか?」
「何歳だ?」
「十七」
側についている騎士はヒヤヒヤしているが、エルディアは頓着せずころころと笑う。
「七歳の時から訓練は欠かしてないよ。筋肉つかないの悔しいんだよね」
思ったよりも気さくな少女に、遠くから見ていた兵士達もそろそろと寄って来る。
「騎士のお嬢ちゃん、酒はいけるか?」
「林檎酒は好きだけど」
兵士達に丁寧な口調で話させる事を諦めた騎士がボトルを指し示す。
「聖地は桃が特産で、桃のワインがあるんですよ。女性には結構好評です」
「え、桃?」
桃は大好きだが桃のワインは初めてだ。
「お注ぎいたしますよ」
騎士についでもらったワインを一口飲んで、エルディアは目を輝かせた。
「美味しい!」
甘い香りがしてとても飲みやすい。
すぐに打ち解けてわいわいと話しているエルディアを片目で見て、ロイゼルドは騎士達とこの城の運営についての相談を進めていた。
いつしか夕食会も酒が進み、数人がゲームを始めた。
壁に設置した的に向かってダガーを撃ち合う。うまく中心を貫いた者が勝者だ。そのうちにそれだけでは物足りなくなって、誰かが木切れを数本持って来た。それを空中に放り投げてそれを的とし始めた。
一本だった的が二本になり三本になり、それに合わせてダガーの本数も二本三本と増えていく。なかなか三本ともなると、同時に全てを貫くのは難しい。
「次は誰が挑戦する?」
「僕がやる!」
(ん……?僕?)
ロイゼルドが聞き咎めて振り向くと、ぽわんした顔のエルディアがすっくと立ち上がっていた。
かなり酔っている。目を離していた隙にかなりの量を飲んだようだ。
「おっ、姫さんもやるか?何本いく?二本くらいか?」
「五本!」
空に向けて右手を開いて上げると、ヒュッと口笛があちこちから聞こえる。
「マジか!成功した奴はいないぞ!」
「ダガーは四本しかない」
「大丈夫!ここの武器を使うから!」
「よっしゃ、いくぞ!」
一斉に五本の的となる木切れが空中に投げられる。それらはクルクルと回りながら別々に宙を舞った。
同時にひらりとスカートの裾が舞い上がり、すらりと白い脚があらわになる。
「!!!」
次の瞬間、エルディアの両手に握られた五本のナイフが音もなく放たれた。
カカカッとほぼ同時にナイフが突き立ち、木切れが床に落ちる。
おおーっと男達の歓声が上がったのは、ナイフが全て命中したことに対してか、それとも美脚がさらされたことに対してかわからない。
「こらっ、馬鹿!見えてるだろ!」
ロイゼルドの怒鳴り声は歓声にかき消された。
馬車の中でナイフを見せられた時、釘を刺しておくべきだった。そう激しく後悔する。
すごいすごいとはやしたてられ、満足げなエルディアの背後に黒い影が立った。
「ルディ……」
エルディアの動きがぴたりと止まった。
この低い声は怒られる時のものだ。
恐る恐る振り向くと、ピキピキと顔を引きつらせた彼がいた。
「ロイ……?」
「淑女はスカートをめくらないものだ」
「……はい」
「ナイフ投げもしないよな?」
「……はい」
「女らしくするって言ったのは?」
寒々しい声に悪寒がして思わずヒイッと直立する。
「ごめんなさい!嘘じゃないですうう!」
女の自覚が足りないとこってり叱られているエルディアを見ながら、後ろでは兵士達がひそひそと話していた。
「なんか、見た目と違うお嬢様だな」
「しかし、すげえ姫様だぞ」
「俺、あの姫さん好き」
「さすがエディーサの騎士団はよそと違う」
こうして一夜にしてエルディアは兵士達の心を掴んだ。
皆身元はある程度調査済みだが、一部は流れの傭兵経験者などもおり、騎士達から滲み出る育ちの良さとはまた違う雰囲気があった。
レンブル城の私兵ともまた違う雑多な印象だ。それでも軍隊らしい規律正しさは皆持っている。これから先、グレイ領の侯爵直属の私兵として磨き上げていくのだ。
面白いなぁとエルディアは観察を楽しんでいた。まだ階級はつけていないはずだが、大体の序列はついているようだ。雇用されて間がないはずだが、訓練などで大体お互いの雌雄が決しているのだろう。
かわるがわるロイゼルドのところに来ては話をしている。
料理は彼等の内で得意な者が作っているらしいのだが、これがなかなか素朴ながらに味が良く、エルディアは珍しくぱくぱく食べた。貴族の女性にしてはその食べっぷりが良かったので、初めは気後れしていた兵士達も和やかな雰囲気で彼女を見ている。
そのうちロイゼルドを囲む兵士達のうちの数人が寄って来た。
「お嬢さん、めちゃくちゃ綺麗なのによく食べるなあ」
「団長の彼女?」
近くにいた騎士が慌てて飛んでくる。
「こら、失礼だぞ。エルディア様は女性だが、我等騎士団の騎士だ。それに訓練指導員もされている」
「まさか。どこから見ても可愛らしい姫様じゃないか」
「本当だよ」
にっこり笑ってそう言うと、兵士達は目を瞬かせて驚いた。
常日頃軍服を着て走り回っているのだが、ふんわりスカートの格好では楚々とした雰囲気である。
「嘘だろ。このほっそい身体で?」
「剣は持てるのか?」
「何歳だ?」
「十七」
側についている騎士はヒヤヒヤしているが、エルディアは頓着せずころころと笑う。
「七歳の時から訓練は欠かしてないよ。筋肉つかないの悔しいんだよね」
思ったよりも気さくな少女に、遠くから見ていた兵士達もそろそろと寄って来る。
「騎士のお嬢ちゃん、酒はいけるか?」
「林檎酒は好きだけど」
兵士達に丁寧な口調で話させる事を諦めた騎士がボトルを指し示す。
「聖地は桃が特産で、桃のワインがあるんですよ。女性には結構好評です」
「え、桃?」
桃は大好きだが桃のワインは初めてだ。
「お注ぎいたしますよ」
騎士についでもらったワインを一口飲んで、エルディアは目を輝かせた。
「美味しい!」
甘い香りがしてとても飲みやすい。
すぐに打ち解けてわいわいと話しているエルディアを片目で見て、ロイゼルドは騎士達とこの城の運営についての相談を進めていた。
いつしか夕食会も酒が進み、数人がゲームを始めた。
壁に設置した的に向かってダガーを撃ち合う。うまく中心を貫いた者が勝者だ。そのうちにそれだけでは物足りなくなって、誰かが木切れを数本持って来た。それを空中に放り投げてそれを的とし始めた。
一本だった的が二本になり三本になり、それに合わせてダガーの本数も二本三本と増えていく。なかなか三本ともなると、同時に全てを貫くのは難しい。
「次は誰が挑戦する?」
「僕がやる!」
(ん……?僕?)
ロイゼルドが聞き咎めて振り向くと、ぽわんした顔のエルディアがすっくと立ち上がっていた。
かなり酔っている。目を離していた隙にかなりの量を飲んだようだ。
「おっ、姫さんもやるか?何本いく?二本くらいか?」
「五本!」
空に向けて右手を開いて上げると、ヒュッと口笛があちこちから聞こえる。
「マジか!成功した奴はいないぞ!」
「ダガーは四本しかない」
「大丈夫!ここの武器を使うから!」
「よっしゃ、いくぞ!」
一斉に五本の的となる木切れが空中に投げられる。それらはクルクルと回りながら別々に宙を舞った。
同時にひらりとスカートの裾が舞い上がり、すらりと白い脚があらわになる。
「!!!」
次の瞬間、エルディアの両手に握られた五本のナイフが音もなく放たれた。
カカカッとほぼ同時にナイフが突き立ち、木切れが床に落ちる。
おおーっと男達の歓声が上がったのは、ナイフが全て命中したことに対してか、それとも美脚がさらされたことに対してかわからない。
「こらっ、馬鹿!見えてるだろ!」
ロイゼルドの怒鳴り声は歓声にかき消された。
馬車の中でナイフを見せられた時、釘を刺しておくべきだった。そう激しく後悔する。
すごいすごいとはやしたてられ、満足げなエルディアの背後に黒い影が立った。
「ルディ……」
エルディアの動きがぴたりと止まった。
この低い声は怒られる時のものだ。
恐る恐る振り向くと、ピキピキと顔を引きつらせた彼がいた。
「ロイ……?」
「淑女はスカートをめくらないものだ」
「……はい」
「ナイフ投げもしないよな?」
「……はい」
「女らしくするって言ったのは?」
寒々しい声に悪寒がして思わずヒイッと直立する。
「ごめんなさい!嘘じゃないですうう!」
女の自覚が足りないとこってり叱られているエルディアを見ながら、後ろでは兵士達がひそひそと話していた。
「なんか、見た目と違うお嬢様だな」
「しかし、すげえ姫様だぞ」
「俺、あの姫さん好き」
「さすがエディーサの騎士団はよそと違う」
こうして一夜にしてエルディアは兵士達の心を掴んだ。
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