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第四章 終焉の神
12 魔鳥
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鷲獅子騎士団の副団長ダリスがエルディアを探しているのを見て、きっとアーヴァインの所だからとロイゼルドが呼びに行ってから、かなりの時間が経っていた。時間に厳しい団長が訓練の時間になっても戻って来ないことに、ダリスは何かあったのだろうかと研究所の方角へ目を向ける。仕方なく彼は団員たちに先に始めるようにと指示を出した。
しばらくして騎士がいつものように訓練を行う中、彼は双子を連れて遅れてやって来た。戻って来たロイゼルドは肩に赤い鷹を乗せている。見覚えのあるその鳥に、ダリスはギョッとした。
「団長、その鳥はもしや?」
ダリスはアーヴァインの下にいただけあって、この鳥が何者であるかを知っている。
「離れんのだ」
憮然として答える彼に、ダリスは何が起こったかを察した。後ろにくっついてきた双子を見ると、二人とも困ったような顔で返してくる。
(アーヴァイン様の被害に遭われたのか)
魔術師団の団長は魔術の実力は一流だが、その困ったちゃん加減も飛び抜けていた。
魔獣を飼うなど危険だから捨ててこいと何度も忠言していたのだが、結局自分がいなくなるまでそのままだった。
どうせ檻から出して遊んでいたのだろう。
何度も魔術師達の叫び声を聞いていたダリスには容易に想像できた。
「お身体は大丈夫ですか?」
アーヴァインは常々研究の生贄を探していた。
妙に人馴れした魔獣だと思った覚えはある。本当に双子のフェンリルの様に人を守護する様になるとは思わなかったが、よりによってこの方を選ぶとは本当に要らぬことをしてくれる。
そう思いつつ尋ねると、ロイゼルドは深い溜息をついた後に大丈夫だ、と答えた。
「そばにいる事は認めたが、それ以上は許していない」
絶対に契約しないと言うロイゼルドにヴェーラが折れた格好だ。何が起こるやらわからない契約など危なくて出来るものかと突っぱねた。
それでは主を守護できないと言うので、とりあえず鷹の姿であればそばにいて良いと許可している。
肩に乗っているのが好きな様なので、良いようにさせていた。大きい割に軽いので苦にならない。
「害が無くて良かったです」
そう言うと、彼はなんとも言えない苦い顔をする。
「害は大ありだ」
それを聞いた鷹がコツコツと栗茶の頭をつっついた。ロイゼルドがうるさい、と肩の鳥を睨む。
「俺の僕になると言ったからには騎士団で存分に働いてもらうからな」
覚悟しておけ、と脅すと、鳥の方は呑気にキュイと返事をしていた。
「エルディア様、魔術師達について聞きに行かれたそうで」
どうでしたかと聞くまでもないが、ダリスはとりあえず聞いてみた。
案の定、エルディアは首を横に振る。
「さっぱりでした、副団長。彼等の事は貴方に聞けと言われました。あの人何の仕事してたんですか?」
思った通りの返答に、ダリスは苦笑した。
「それは貴女の方がよくご存知では?あのミゼルの名も覚えていない方が、その他大勢の名前を覚えているとは思えません」
「副団長、よくあの人の世話してましたね」
「こちらに来られて天国です」
鷲獅子騎士団の団長が普通の人で良かったと本当に思う。
「では、魔術師達についてご説明します」
エルディアがダリスに聞きながら訓練の仕方を練っている間に、他の騎士達は試合を始めていた。
「団長、魔法が使える者と騎士と二人で組んだ試合がしたいです」
エルディアの提案にロイゼルドが頷く。
「誰を出す?」
「火の攻撃魔法を持つギランと剣の得意なリュードを組ませてみたいです」
「相手は?」
「私が務めます」
む、とロイゼルドは思案する。
一対一ならともかく、二対一で相手が彼女ではとてもやりにくかろう。今の彼女なら十分相手は出来るだろうが、彼等の方が戸惑うかもしれない。
どうせなら、と彼は肩の上を指さした。
「試しにこいつと戦わせてみるか?」
ヴェーラも魔獣だ。魔獣との戦いの訓練になるだろう。
「出来るか?」
肩を見やると、キュイと返事が返って来た。どうやらやる気らしい。
どの程度の魔力があるのか知らないが手加減はしろよ、と言うと、目をパチパチさせて頷いた。いざとなれば回復役のエルフェルムがいる。
「ギラン、リュード、この魔鳥と試合だ」
呼ばれた二人はダリスに連携の指示を受けて頷き、試合広場へ入る。
赤い鷹が翼を広げて広場の真ん中に降り立った。
「始めろ」
開始の合図と共に、ギランとリュードが左右に散る。
ギランが呪文を唱えている間に、リュードが鷹に斬りかかった。
鷹は剣をかわして空へ舞い上がる。
そこへギランの炎が飛んだ。
「当たった!」
鷹の羽を焦がすはずの炎は、当たった瞬間に立ち消えた。
「炎が効かない?」
ギランの驚く声が聞こえた。
結界を張っているようには見えない。
この魔鳥に火の魔術は無効だ。
鷹はこちらの番だと言うように、空を旋回すると真っ直ぐにギランを狙いその爪を伸ばした。
ギランは際どいところで身をかわし、鷹の爪を剣で受け止める。その横から飛び込んできたリュードが、鷹の身体を真横から斬りつけた。
魔鳥の翼を斬った。そう思ったが、剣は鷹に届く前にキンと何か硬いものによって跳ね返された。
よくみると、鳥の周囲に薄く光る壁がある。
「防御結界………」
エルディアは目を見開いた。
盾のように物理攻撃を弾く防御結界は初めて見る。
鷹は何でもないように羽ばたいた。
バサバサという音と共にその風を受けた二人の騎士は、急に力を失いバタリと倒れる。決着はあっという間に着いた。
急いで二人に駆け寄ったエルフェルムが、容体を見てほっと息をつく。
「大丈夫です。眠らされただけのようです」
報告を受けてロイゼルドも安堵した。
ヴェーラはバサバサと再び彼の肩の上に戻って来て、どう?とでも言わんばかりに嘴をつんと上に向けている。
「お前の力はわかったが、全く勝負にならんな。もうちょっと手を抜け」
そう言われて鳥は不服そうにキューと唸った。
エルディアとエルフェルムが目を覚ました二人を助け起こす。
「ヴェーラ、凄く強いね」
「なんだろう、この魔力の種類。属性がない」
魔法は効かない、物理攻撃は盾で弾く、あとは敵を瞬時に眠らせる催眠。属性のない魔力。これはあまり他の魔獣では見たことがない能力だ。どうやら、この魔鳥もかなりの裏を持っているようだ。
ロイゼルドは改めて、変な鳥に気に入られてしまったものだと溜息をついた。
しばらくして騎士がいつものように訓練を行う中、彼は双子を連れて遅れてやって来た。戻って来たロイゼルドは肩に赤い鷹を乗せている。見覚えのあるその鳥に、ダリスはギョッとした。
「団長、その鳥はもしや?」
ダリスはアーヴァインの下にいただけあって、この鳥が何者であるかを知っている。
「離れんのだ」
憮然として答える彼に、ダリスは何が起こったかを察した。後ろにくっついてきた双子を見ると、二人とも困ったような顔で返してくる。
(アーヴァイン様の被害に遭われたのか)
魔術師団の団長は魔術の実力は一流だが、その困ったちゃん加減も飛び抜けていた。
魔獣を飼うなど危険だから捨ててこいと何度も忠言していたのだが、結局自分がいなくなるまでそのままだった。
どうせ檻から出して遊んでいたのだろう。
何度も魔術師達の叫び声を聞いていたダリスには容易に想像できた。
「お身体は大丈夫ですか?」
アーヴァインは常々研究の生贄を探していた。
妙に人馴れした魔獣だと思った覚えはある。本当に双子のフェンリルの様に人を守護する様になるとは思わなかったが、よりによってこの方を選ぶとは本当に要らぬことをしてくれる。
そう思いつつ尋ねると、ロイゼルドは深い溜息をついた後に大丈夫だ、と答えた。
「そばにいる事は認めたが、それ以上は許していない」
絶対に契約しないと言うロイゼルドにヴェーラが折れた格好だ。何が起こるやらわからない契約など危なくて出来るものかと突っぱねた。
それでは主を守護できないと言うので、とりあえず鷹の姿であればそばにいて良いと許可している。
肩に乗っているのが好きな様なので、良いようにさせていた。大きい割に軽いので苦にならない。
「害が無くて良かったです」
そう言うと、彼はなんとも言えない苦い顔をする。
「害は大ありだ」
それを聞いた鷹がコツコツと栗茶の頭をつっついた。ロイゼルドがうるさい、と肩の鳥を睨む。
「俺の僕になると言ったからには騎士団で存分に働いてもらうからな」
覚悟しておけ、と脅すと、鳥の方は呑気にキュイと返事をしていた。
「エルディア様、魔術師達について聞きに行かれたそうで」
どうでしたかと聞くまでもないが、ダリスはとりあえず聞いてみた。
案の定、エルディアは首を横に振る。
「さっぱりでした、副団長。彼等の事は貴方に聞けと言われました。あの人何の仕事してたんですか?」
思った通りの返答に、ダリスは苦笑した。
「それは貴女の方がよくご存知では?あのミゼルの名も覚えていない方が、その他大勢の名前を覚えているとは思えません」
「副団長、よくあの人の世話してましたね」
「こちらに来られて天国です」
鷲獅子騎士団の団長が普通の人で良かったと本当に思う。
「では、魔術師達についてご説明します」
エルディアがダリスに聞きながら訓練の仕方を練っている間に、他の騎士達は試合を始めていた。
「団長、魔法が使える者と騎士と二人で組んだ試合がしたいです」
エルディアの提案にロイゼルドが頷く。
「誰を出す?」
「火の攻撃魔法を持つギランと剣の得意なリュードを組ませてみたいです」
「相手は?」
「私が務めます」
む、とロイゼルドは思案する。
一対一ならともかく、二対一で相手が彼女ではとてもやりにくかろう。今の彼女なら十分相手は出来るだろうが、彼等の方が戸惑うかもしれない。
どうせなら、と彼は肩の上を指さした。
「試しにこいつと戦わせてみるか?」
ヴェーラも魔獣だ。魔獣との戦いの訓練になるだろう。
「出来るか?」
肩を見やると、キュイと返事が返って来た。どうやらやる気らしい。
どの程度の魔力があるのか知らないが手加減はしろよ、と言うと、目をパチパチさせて頷いた。いざとなれば回復役のエルフェルムがいる。
「ギラン、リュード、この魔鳥と試合だ」
呼ばれた二人はダリスに連携の指示を受けて頷き、試合広場へ入る。
赤い鷹が翼を広げて広場の真ん中に降り立った。
「始めろ」
開始の合図と共に、ギランとリュードが左右に散る。
ギランが呪文を唱えている間に、リュードが鷹に斬りかかった。
鷹は剣をかわして空へ舞い上がる。
そこへギランの炎が飛んだ。
「当たった!」
鷹の羽を焦がすはずの炎は、当たった瞬間に立ち消えた。
「炎が効かない?」
ギランの驚く声が聞こえた。
結界を張っているようには見えない。
この魔鳥に火の魔術は無効だ。
鷹はこちらの番だと言うように、空を旋回すると真っ直ぐにギランを狙いその爪を伸ばした。
ギランは際どいところで身をかわし、鷹の爪を剣で受け止める。その横から飛び込んできたリュードが、鷹の身体を真横から斬りつけた。
魔鳥の翼を斬った。そう思ったが、剣は鷹に届く前にキンと何か硬いものによって跳ね返された。
よくみると、鳥の周囲に薄く光る壁がある。
「防御結界………」
エルディアは目を見開いた。
盾のように物理攻撃を弾く防御結界は初めて見る。
鷹は何でもないように羽ばたいた。
バサバサという音と共にその風を受けた二人の騎士は、急に力を失いバタリと倒れる。決着はあっという間に着いた。
急いで二人に駆け寄ったエルフェルムが、容体を見てほっと息をつく。
「大丈夫です。眠らされただけのようです」
報告を受けてロイゼルドも安堵した。
ヴェーラはバサバサと再び彼の肩の上に戻って来て、どう?とでも言わんばかりに嘴をつんと上に向けている。
「お前の力はわかったが、全く勝負にならんな。もうちょっと手を抜け」
そう言われて鳥は不服そうにキューと唸った。
エルディアとエルフェルムが目を覚ました二人を助け起こす。
「ヴェーラ、凄く強いね」
「なんだろう、この魔力の種類。属性がない」
魔法は効かない、物理攻撃は盾で弾く、あとは敵を瞬時に眠らせる催眠。属性のない魔力。これはあまり他の魔獣では見たことがない能力だ。どうやら、この魔鳥もかなりの裏を持っているようだ。
ロイゼルドは改めて、変な鳥に気に入られてしまったものだと溜息をついた。
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