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第二章 生き別れの兄と白い狼

24 終章

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 リゼット嬢奪還の一報が伝えられ迎えが来てからは、エルディア達四人はゆったりと馬車に揺られて帰ってきた。


「これは迷子にならなくていいな」

「お前、いつまで言うつもりだよ!」


 リアムの冗談に、カルシードがキイッと怒ってふくれる。


「なんのことですの?」


 きょとんとするリゼットに、エルディアは事情をこっそり教えてあげた。それを聞いたリゼットは『まあ、苦労したのね』と吹き出して、エルディアと一緒に二人で笑い合った。


 途中、四人を連れた一行は王都に立ち寄り、事の成り行きを報告することになった。
 ヴィンセントと共に王に面会した後、エルディアは一人で父エルガルフに会いに行った。そしてエルフェルムに会ったことと彼の話したことを伝えて、彼から預かった銀髪の束を渡した。
 エルガルフはしばらくそれを見つめて、そして少しだけ泣いていた。父の涙を見たのは初めてかもしれない。


「よくやった、ルディ」


 エルガルフは娘を労《ねぎら》い、それから尋ねた。


「お前はこれからどうするのだ?」


 その問いは彼女にレンブルに戻るかどうかの質問も含んでいた。
 騎士団を退団し、このまま王都に留まる選択もある。しかし、エルディアはすでに心を決めていた。

 ルフィは必ず帰ると約束した。エディーサ王国を守るために彼はあの国に残った。
 エルディアは彼を信じて待とうと思う。

 彼のために何が出来るか、帰国途中で考えた。


「僕は黒竜騎士団に戻るよ。まだ、僕にはやるべきことがあるから」

「そうか」


 エルガルフはエルディアの話を聞いてただ頷く。そして、娘を優しく抱きしめて送り出した。



     *********



 無事リゼットを奪還してレンブル領に戻ったエルディア達は、待ち構えていた城内の騎士達に揉みくちゃにされて歓迎された。早速帰還を祝う宴が開かれ、その夜は城の広間で賑やかなひと時が繰り広げられた。

 エルディアはまた酔い潰れないようにと、主役をリアムとカルシードに任せてロイゼルドと共に早めに部屋へ戻ってきた。


「そろそろ女に戻らないか?」


 部屋に戻って二人になった時、ロイゼルドがエルディアにそう切り出した。


「本物のエルフェルムも見つかったし、もう騎士である必要は無くなっただろう」


 これ以上危険な世界に身を置く必要はない。彼女は女性なのだから。
 そのロイゼルドの心配に、エルディアは首を振って拒否した。


「僕はルフィが帰るまで、エルフェルムのままでいようと思うんだ」

「なぜだ?」

「ルフィは今、イエラザームの第一皇子の従者になっているんだ。もし、エディーサ王国に帰って来たとき、その事を知る者がいたら?仮にも敵国に加担していたと言われたら、一生表舞台には出られなくなってしまう」


 彼が帰ってきたら、自分はエルディアに戻る。それまではエディーサ王国のエルフェルムとして、彼の存在をこの国に置いておきたい。


「僕はルフィが帰ってきた時の居場所でありたい」

「入れ替わるつもりか」

「そう。僕が騎士団にいる間、彼は自由に動いていられる。帰って来て騎士団の配属が変われば、僕を知る人も少ないし自然に馴染めると思う」


 父にはそう伝えている。
 国王陛下にもこっそり相談したところ、君達には功績があるからと許してくれた。エルフェルムの目的も理解して、国として後押しするという。外交官であり間諜組織を持つヴィーゼル伯爵を呼びつけていたところをみると、イエラザームにいるエルフェルムに向けて協力者を送り込むつもりだろう。



「ただ、リアムとシードに刻印の秘密を知られてしまったんだよね。それとリズにも」


 それを聞いたロイゼルドはギョッとしてエルディアの肩をつかむ。


「ええっ?あいつらにか?」

「イエラザームを脱出する時、どうしても魔力が足りなくて」


 魔道具ブレスを外して見せちゃった。
 そう言って手をひらひらさせる。

 ロイゼルドは友人のレインスレンドから聞いている。彼の弟カルシードの初恋の相手がエルディアである事を。
 リアムも以前からエルディアと仲がいい。他の騎士から太陽の女神の事を色々聞き出していて、興味を持っているようだった。


「大丈夫なのか?」


 色々な意味を含めての大丈夫かという言葉だったのだが、エルディアはキョトンとしている。


「大丈夫だよ。みんなびっくりしていたけど、怒っていなかったし。ちゃんと秘密にしてくれるって」


 ロイゼルドはふうっと大きく溜息をついた。
 これは絶対わかってない。モヤモヤするが当の本人は鈍いので言ってもどうにもならないだろう。


「仕方ない、待つか」

「何を?」


 閉じ込めて自分のものにしてしまいたい。誰の目にも触れさせずに。
 そう思ってしまうのは、やはり罪なのだろうか。
 あまりにも無防備なこの想い人に、どうすればこのじりじりとした気持ちを理解させることが出来るのだろう。
 ロイゼルドは半分諦めにも似た気持ちでエルディアを見つめる。


「いつになったら俺はエルに求婚出来るのかな」

「ええっ!」

「好きだって言っているだろう?」


 頬を両手で挟んでエメラルドの瞳に自分を映す。


「エルディア、お前は俺の事をどう思っている?」


 熱を含んだ紫紺の瞳に見つめられて、エルディアはこくりと喉を鳴らした。


「僕もロイが好き………だよ」


 初めて伝えた精一杯の告白。
 その言葉を聞いた彼は、普段は絶対見せない照れたような笑みを見せて、色っぽく囁いた。


「エルフェルムが戻るまで待つから、キスくらいは許してくれよな」


 そのままロイゼルドはエルディアの唇に自分のそれを重ねた。


 彼の強さも優しさも、精悍で男前な外見も、ちょっと過保護でうるさいところも全て愛しい。

 エルディアはだんだん慣れてきてしまった自分に驚きながら、でもやっぱり男の姿でイチャイチャするのはどうかと思う。
 少しだけ、エルフェルムが早く帰って来ないかなと、別の意味で思った。


 遠くの方から、まだ宴のざわめきがかすかに聞こえてくる。
 夜の空には美しい白い月が輝いて、二人の横顔をそっと照らしていた。
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