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第二章 生き別れの兄と白い狼

24 告白

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 キースの街へ向かう船の中で、ようやく四人は落ち着いて一息つくことができた。
 幸い港を封鎖される前に船は出港したので、後はエディーサ王国に着くまで波に揺られていればいい。エルフェルムがどうなったか心配ではあったが、彼のことだから大丈夫だと信じている。

 リゼットの足にできた靴擦れを手当した後で、エルディアは三人に囲まれて詰問されていた。長く伸びた銀の髪は今は紐で一つに括られて、まるで髪を切る前のエルフェルムのようだ。


「で、説明してくれるかしら?」

「エル、お前女?男?本当はどっちだ?」

「エルディアはお前の妹じゃなかったのか?」


 三人にかわるがわるに詰め寄られて、エルディアは真実を話すことにした。後で説明すると言ったからには仕方ない。これ以上は内緒にしておけるものではない。


「ルフィが本当のエルフェルムなんだ。僕は彼の妹で、エルディア。僕達は双子で、フェンリルに襲われた時、ルフィが行方不明になった。それ以来、僕はエルフェルムとして生きてきたんだ。母やみんなの仇であるフェンリルを倒すために」


 そう言ってエルディアは、服の袖を捲って左肩を見せた。
 そこには赤い魔術紋様と白金の腕輪がある。


「アーヴァイン様が僕の魔術の師匠で、このブレスを作ってくれた。強すぎる僕の魔力を抑えて、姿を変えるんだ」


 エルディアは肩から腕輪を抜く。すると銀から金に髪の色が変わり、姿が少女のものへと変化した。
 三人は改めてエルディアの変化を目の当たりにして、言葉を失っている。


「なんともまあ、アーヴァイン様は凄いとしか言えん」

「エルが、エルディア本人だったのか?」

「なんで隠していたの?わたくし達、親友でしょう?」

「………ごめん」


 エルディアは謝るしかできない。


「女の身で騎士団に入ってるし、王宮にいた時からずっと男の姿でいたし。それに、僕の魔力は生まれながらのものではなく、このフェンの刻印のせいなんだ。魔獣との契約で魔獣と同じ魔力が得られる。これは誰にも言えない秘密なんだ。悪用されると、とても危険だから」


 知っている人はごく限られている。
 そう伝えると、三人はそろってゴクリと喉を鳴らした。


「じゃあ、ロイ様はエルがエルディアだって知っていたのね。だから、あんなに………」


 ロイゼルドは王都から届いたエルディアからの手紙を、恋人からの手紙のように大事そうにしていた。
 きっと、彼は彼女の事を愛している。そして、目の前のエルディアもまた………


「え?じゃあ、わたくしの立ち位置は何ですの?ロイ様とエルの仲を邪魔する女………わたくし、悪役令嬢?もしかして悪役令嬢なの?」


 リゼットはショックを受けたように、ブツブツと独り言を言っている。


「リズ、また訳の分からないこと言って」


 エルディアは、リゼットがまた何か変な本を読んだなとジト目で見ていた。



「シード、気の毒にな」


 リアムが呆然としているカルシードの肩を叩く。


「お前の気持ちはエルにもろバレだ」

「シード、なんかごめんね」

「言うな。頼むから」


 カルシードは頭を抱えて床に突っ伏した。好きな子に告白するつもりなくバレているなんて、恥ずかしくてたまらない。もう少し心の準備が欲しいというものだ。


「副団長がライバルだ。頑張れシード。歳はお前の方が若くて有利だ」

「だから、言うなって!」

「エル、お前はぶっちゃけ、どっちが好みだ?」

「ええっ?今、僕にそれを聞く?」

「だから、さらすなって言ってるだろう!」


 カルシードに蹴られて、リアムがゴロゴロ転がっていった。


「リアムは案外普通だね。もっと怒るとかするかと思ったのに」


 エルディアが転がるリアムにクスクス笑うと、彼は起き上がってあぐらを組み、ぽりぽりと頭をかいた。


「だって、見た目は違うけど、中身はお前だし。事情を聞いたら怒れないしなあ」

「ありがとう!」


 エルディアは飛びあがってリアムに抱きついた。


「うわあっ!」


 中身は同じでも超絶美少女に抱きつかれると動揺がすごい。男の時でも破壊力が半端ないのに。

 カルシードが慌てて飛んできて、二人をベリッと引き剥がした。


「俺の目の前で抱き合うな!」

「えーっ、いつもは何にも言わないじゃん」

「その姿の時はやめろ!いくら中身がエルでも、俺が傷付く!」

「なんか、めんどくさいな」

「お前がややこしいからだ!」

「俺は大歓迎だぞ」

「お前は下心ありすぎ!」


 にへらと笑うリアムを、再びカルシードが船の端まで蹴飛ばした。



 河を下るのは行きよりもスムーズで、船はそれから程なくキースの街に着いた。

 街に入ったエルディア達は、王都に向けて使いを出した。さすがにリゼットを連れて、野宿しながら馬で帰るわけにはいかない。迎えを依頼して、この街で待つことにしたのだ。

 数日後、ヴィンセント自ら馬車を連れて迎えに来た。
 そうして、レンブル公爵令嬢誘拐事件は無事に解決したのだった。
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