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第1章~「開幕(はじ)まりの刻(タイム)レコード」
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刻(とき)が停まっていることは、薄々勘づいていた。蒼空(ソラ)の色が一定だし、朝も夜も星も失(な)いのだから。視(み)ている光景は、変わらず。ただ、呼吸(いき)は出来る。食糧だって、僅かだが残っていた。
「ワタクシ、アナタを仲間だとは到底思えない。アナタが敵だったら、殺(や)るだけなのだから。戦闘道場(バトルフィールド)で、殺(や)り合う展開になるけど……ね……」
少女は、にやりと笑い剣を構え喉に刃を突き立てた。
「待って下さい。僕は、違いますって!仲間じゃないですよ。赤の他人です。または、異国人同士ですよ!出来れば、争いたくはないです……。」
「交渉までしようと。まあいいわ。敵の侵入内情者(スパイ)だったら、その時は……。もちろん、分かっているわよね?」
少女の瞳は、獲物(ターゲット)を狙う攻撃者(ハンター)のようだ。逃がすまいと、僕(ひょうてき)を定め仕留めるかのように……。疑心暗鬼になるのも、仕方がないとはいえ、少しは信用して欲しいものだ。お互いが、何者なのかは知らない。知ったところで、場合によれば災いになる可能性だってある。鍵となる手掛かりだって、失(な)い訳だから。
「ワタクシ、お腹が空きました。お食事にしますので……ご忠告ですが、ワタクシは一人で脱け出しますので。アナタも、一人で脱け出して下さい。くれぐれも、足枷(じゃま)だけは一切しないで下さいね。」
「もちろん、しませんよ。一人で脱け出しますから!先ほどから、黙って聴いていれば……赤の他人だとは到底思えない発言ばかり。そちらこそ、邪魔しないで下さい。」何なんだよ!偉そうに。険悪な雰囲気(ムード)に、なろうがこの際知らない。お互いに干渉し合わないのならば、命の保証も一切関与しない。それでこそ、赤の他人なんだろう。ただ、捜している誰かがいたら?話は別だ。賭けるか……賭けないか……。さて、どちらを選んだ方が好都合で得をするのか。悩んだ末に出した答えは…。
「あの!捜している仲間(ひと)がいたら、話は変わります。だけど……どうしても一人がいいのなら……構いません。僕が言いたいことは、組織(ギルド)を創作(つく)りませんかという……。ただ、それだけです……。」
「加入して欲しいと言う提案ですか……。一人で脱出するという考えは、捨てませんがね。仲間だとは、全く思っておりません。だけど、こうなってしまった以上は……。」彼女は、仕方なく折れたのだが、耳を貸してくれたことが少し嬉しかった。偉そうだと思っていたが、少し見方が変わった。今頃気付いたことだが、彼女のマントの刻印。どこかで見たような。いや、見間違いかもしれない。
「ところで、組織(ギルド)の名前は?何にするの?」
「いや~、まだ決まっていないものでして。」
「そう……。」彼女は、そう言って遠くを見つめた。
組織(ギルド)を創作(つく)るって、簡単に言ってしまった。果たして良かったのだろうか。編成しなきゃいけないし、何人体制とか場合によったら必要だ。人数集めだって、出来ない。まさかの、2人だけで戦闘(たたか)えってこと?いくらなんでも、無謀だ。戦闘能力も、レベルも、称号も、ランクもない。ましてや、剣銃(ぶき)もない。こういう時、仲間がいたら……。救助(たすけ)てくれるのにな……。
飛翔(ロケット)も、壊れてしまったので帰還(かえ)れなくなってしまった。不時着した場所も、この異世界(せかい)も全く分からない。
遠くに小さな小屋らしき建物がぽつりと見えた。玄関にランプが点いていたので、上がらせてもらうことにした。
「すみません、泊めてもらうことは出来ないでしょうか。」
応答がなかったので、仕方なく僕は小屋の外で眠ることにしたのだが、少女は融通が利かず、勝手に侵入してしまった。
カタコトと歯車同士がゆっくりと廻り始め、 小さな扉が開き奥から人が出てきた。
「君、勝手に侵入したの?ここはね、俺の基地(ラボ)なんだよね。他の人だったら、ただじゃ済まされなかったかもしれないよ。俺だったから、よかったけどね。」
「外で眠ったことがなかったので、勝手に小屋に侵入してしまいました。すみませんでした。」
「いいよ、怒っている訳ではないから。俺の名は、サンゼン。ここは、廻宇時計の狭間。いわゆる、都市でもない。不思議な空間なんだ。どうして僕だけが往き来出来るのか。お父親(やじ)が創(つく)った通称:彗彩の光速(ワープ)。代々、受け継がれてきた。俺は、5代目。正常に動いていたのだが、ここ最近、時空が歪み始めた。何者かが、侵入して機具(ギア)を廻し、時を停刻させた。君らが、ここに来るほんの少し前に起きた。今、都市が危険の更地化している。俺は、もう一つの職をしている。軸宇宙基地(プラネットラボ)隊の遣い。長話になってしまったね。ところで、君たちは何処から来たんだい?」
自分が、一体何故この異世界(せかい)に来たのか全く検討がつかない。気を失い瞳を開けた瞬間(とき)、異様な光景に移り替わっていた。そして、自分自身が誰なのかも知らない。これは、ただの夢に過ぎない。最初(はじめ)は、そう思っていたのだが。
「ワタクシは、何処から来たのか分からないのです。そして、自分が誰なのかも分からなくて。」
「僕も、同じです。」
少女も、僕と同様に記憶が失(な)くなってしまっていた。
「そうだったんだ……。しばらくの間、俺の基地(ラボ)に居るといいよ。君たちが、全て思い出すまで俺は君たちを護衛(まも)るからさ。」
サンゼンと少女と僕の生活が始まった。
サンゼンは、軸宇宙基地隊(プラネットラボ)という組織(ギルド)に加入していて、街を護衛(まも)る為だいたい外出してしまう。その為、僕と少女にだけになってしまうことが多い。基地(ラボ)の中には、彗彩の光速の設計図や色んな種類の機具(ギア)がある。その中でも、特に気になるのが薇(ゼンマイ)仕掛けの隠し扉だ。きっと、隠し扉の中には帰還(かえ)れる廻道(みち)と廻道(みち)が通じているのだろう。
「あの隠し扉、気になりますよね。ワタクシ、開けてみようと思います。」
手を翳せば開く構造になっているようだ。
少女は、手を翳したが全く開かなかった。
僕も、試しに翳してみたがびくともしなかった。
「サンゼンさんにしか開かない構造になっているのでしょうね。」
薇仕掛けの隠し扉の横に、蜘蛛の巣で覆われている古めかしい本棚があった。一冊だけ、目に止まった本を二人で読んだ。
「刻(トキ)の廻間(はざま)~少女の記憶再生」
リミテッドワーパーズという組織があった。
統治していた少女スフィアの記憶が失(な)くなってしまったが故に、新たな統治者を捜すことにした。後に事態を大きく揺るがしてしまう。
突如消えた「ゼグテロ」「グリアス」「ユアロワ」などの鍵を握る重要な人物が異世界へ消えてしまった。そこで、彗彩の光速(ワープ)を開発することにした。主催者は、ゲームを開催させようとしたが失敗に終わった。彼らの行方を辿ってほしい。
G.S
トントントントン
「ただいま。何か面白いものでもあったかい。」
サンゼンが帰って来たので、隠し扉とこの本のことについて聞いてみることにした。
「隠し扉は、俺しか開けられない構造になっていて、中には次空圏があるんだが封じられていて、動かすことが出来ない。この本は、この世界に光速(ワープ)して来た少年が書いた本なんだ。少年も、行方が分からなくなっていると聞いてね。とても不可解な事件だよ。」
作者も、行方不明で登場人物も行方不明。ミステリアスな内容で、大変興味深い。
「隠し扉が、二人とも気になっているみたいだから、お見せしよう。」
ガタッガタッガタッガタッ
サンゼンが手を翳(かざ)しただけで、歯車同士が段違いに廻り始めた。そして、扉が開き文字盤が蒼白く光って別世界(そと)へと通じる旋廻経路(かいだん)が果てしなく続いていた。
「旋廻階段(かいだん)をひたすら登っていくと、無数の扉があるんだ。一部、歯車が劣化し欠けていて廻らない為、扉が開かないんだ。修理(メンテナンス)しようと思っても、大変手間がかかかってしまう。だからそのままにしてあるのさ。」
少女は、扉の隙間に剣を忍ばせ無理やり抉(こ)じ開けようとした。剣は折れ曲がり、結局扉は開かなかった。僅かな隙間から、中の様子が見えた。そこには、僕と少年と少女が、この旋廻経路(かいだん)を登り、リミテッドワープという都市で冒険を繰り広げていくという物語が映し出されていた。少女が、ここにいる少女にどことなく似ていた。この映像は、これから起こる出来事を映し出しているということなのだろうか。
「見てしまったんだね…。この映像は、君たちの運命を映し出しているんだ。妥当な決断を下さなければ、都市もろとも滅亡してしまうだろう。これは、君たちの決断にかかっている。」
チュンチュンチュンチュン
雀が朝を告げカーテンの隙間から、日の光が差し込んだ。ここは、いわゆる日常という名の現在(いま)なのか。ということは、帰還(かえ)ることが出来たということだろうか。あの少女も、きっと今頃自分の居場所に帰還(かえ)っていることだろう。
「おはよう、宙(そら)。」
僕は、そらという名前なのか。
「僕は、宙で…。あなたは…。」
「失礼な子ね。私は、あなたの母親よ。」
「ここは、何処でしょうか…。僕は、一体誰ですか…。」
「ここは、あなたの家よ。あなたの名前は、水星宙
(そら)。こんな話に付き合っている時間はないの。学校に遅刻させる訳には行かないし、お母さん忙しいのよ。あ、もうこんな時間。遅刻しないで行ってよ。行ってきます。」
状況が全く把握出来ない。整理すると、サンゼンと少女と僕で別世界(そと)へと通じる廻旋経路(かいだん)を見て…そこから、よく覚えていない。
歪んで停刻(と)まった異世界から、どうやって戻って来られたのだろうか。
ピピピピッ
僕のスマートフォンだろうか。
「刻(トキ)の廻間(はざま)~少女の記憶再生」
ダウンロードした覚えがないのに、マイアプリに登録されている。削除(アンインストール)を押したが、マイアプリに登録されたままになってしまう。
その後もやってみたが、削除(アンインストール)されることはなかった。
とりあえず、制服に着替えて朝食を食べて。でも、
学校の名前も場所も全く分からない。お母さんに聞こうと思ったが、すでに外出してしまった。メールを送信して、教えてもらうしか方法がない。
ピピピピッ
メールが届きました メールが届きました
誰からだろう。篠山宇(たすく)とは、誰だ。
「宙、昨日学校休んだだろう。昨日、転校生が来てさ。その転校生が、ゲームの主人公に凄く似ているんだよ…。まさか…この世界に来たとか。それは、いくらなんでも、あり得ないよな。今日は、学校に来いよ。あ、そうだ。今から宙の家に行くから。チャイム鳴ったら応答しろよ。じゃあな。」
篠山宇。僕の友達なのだろうか。迎えに来てくれるのなら、有り難い。
ピンポーン
ドアスコープ越しに、彼ともう一人の人物がうっすら見えた。
ガチャッ
「迎えに来たぞ。 そして、転校生を連れてきた。」
「軌月彗香です。よろしくお願い致します。」
「僕は、水星宇宙です。よろしくお願いします。」
彼女を何処かで見たような気がしたが、何一つ思い出せない。
「あの…学校を案内してほしいのですが…。」
「学校?いつも通っているだろう、宙。」
「宙さんが言ったのではなく、私が言いました。風邪気味で、時々声が変になってしまうもので。ゴホン、ゴホン。」
彼女は、僕を庇(かば)ったのかどうかは定かではないが、嘘を付いた。
「風邪大丈夫?あまりひどいようなら、病院に行った方がいいと思うけど。」
「大丈夫です。昨日は、クラスルームしか見ていなかったものですから、今日は全てを見て回りたいと思いまして。」
彼女に会釈をした後、部屋に入り身支度をした。ドアのノック音がしたので、開けると宇が部屋に入り込んできた。
「やはり、ゲームの主人公に似ている気がする。リミテッドワープ都市の統治者、スフィアの双子の妹フィアリに。銀に近い白髪は同じだけど、瞳の色が違うんだ。スフィアは、濃い紫色でフィアリは薄い青。特徴が当てはまるけど、偶然キャラクターと似てしまったとしか言いようがないよな。だって、この世界に来るということは、到底不可能だから。」
宇の単なる思い違いだと、聞き流した。仮に、ゲームキャラクターが向こう側の異世界(せかい)を抜けて出してまで、何の為にこの世界へ来るというのだろうか。
「宙さん、宇さん!もう、20時15分ですよ!遅刻してしまいますよ。」
彼女はドアを強く叩き、声を大にして言った。
「すっかり話込んでしまった。猛ダッシュで行かなきゃ、間に合わない!宙、早くしろよ。彗香さん、怒らせたら何をするか分からないから。」
「聞こえていますよ。もう、これだから…。(こうなったら、一時的に時間を停刻(と)める呪文を…。)」
クオーノーズディプロ!
視界が見えなくなるほど、一面霧で覆われていた。誰かに手を掴まれ、気が付いた時には着席していた。 時刻は、20時15分だった。その時間、僕は身支度をしていた。宇は僕の部屋で話をして、彼女は部屋の前で僕らに声を掛けていた。まさか、瞬間移動(テレポート)したとでもいうのか。
「篠山さん…こんなことをいうのも異常だと思いますが…僕らきっと瞬間移動(テレポート)した可能性があると思います…。」
「宙、俺も不思議に思っているよ…。瞬間移動(テレポート)したような気が…。これって、いわゆる超常現象という現象が起きたってこと?」
「超常現象がどうしたって?」
「何でもない。これは、俺と宙と彗香さんの問題だから。」
ピンポンパンポーン
「彗星宙さん、篠山宇さん。至急校長室へ来て下さい。校長先生がお呼びです。」
校長室?校長先生?何か教師や校長先生に対して反抗的な態度をしてしまったのか。校長先生も教師も全く知らないし、思い当たる節も全くない。一体、僕と宇は何をしたというのか。
「宙、呼ばれるようなこと俺らした覚えないよな。」
「何もしていませんよ…。」
「でも、呼ばれるということは悪いこととは限らないけどな…。大抵は、悪く考えてしまうものだよな…。」
コンコン
「失礼します、篠山宇です。」
「失礼します、水星宙です。」
「宇さん、宙さん。軌月彗香をもちろんご存知ですよね。彼女と私がどうしてこの世界にいるのか。それには、れっきとした理由があります。私は、スフィア様と双子の妹フィアリ様の家来、シリテスと申します。軌月彗香と名乗っていますが、フィアリというキャラクターです。今朝、早く学校に着けたのはフィアリ様が時を一時的に止める「一時停刻」呪文を唱えたからです。このように、ゲームの世界にいるはずのキャラクターが現世にいるのはどうしてなのか…。それは、鍵を握る重要な登場キャラクター達がこの世界に逃げ出してしまったからです。そして、私共が暮らしているリミテッドワープという都市(くに)の統治者、スフィア様の記憶が失(な)くなり新しい統治者が現れました。彼女の名は、ブリューテ。彼女の登場で破滅都市へと変わってしまった…。篠山宇さん、水星宙さん。どうか、我が都市(くに)をお救い頂けませんか?そして、スフィア様の記憶を取り戻して頂けませんか?」
この物語を何処かで聞いたような気がする。何より軌月彗香がフィアリに似ていると宇が発していた言葉が、本当だったとは驚きを隠せない。都市(くに)を救うなど前代未聞の話だ。スケールが大きすぎるのと、記憶を取り戻すこともキャラクターを見つけ都市(くに)に帰還(かえ)すことも出来ず失敗に終わってしまったら…。それだけは、何としても避けなければならない。そう考えたら、承諾をしない方が喪失感を彼らに都市(くに)に与えずに済むだろう。僕なりの正解は、参加すべきでないということだ。
「俺は、参加します。だって、このゲームコンプリートしましたし、内容だってきっと同じだから。宙も、一緒に冒険に行こうぜ。」
「僕は…参加しません…。都市(くに)を守る契約も彼女の記憶を取り戻すということも…登場キャラクターを見つけ出すということも…。果すことが自分には出来ないからです…。有能な方なら、成せるでしょう。でも、僕には無理です…。シリテスさん…伺いますが、どうして僕なのでしょうか?僕が参加しなければいけない理由があるからですか?」
「そうおっしゃると思いました。参加しないというのならば、構いませんよ。でも、参加した方がいいのではないでしょうか。宙さんは、過去を変えたい運命を変えたいと思ったことはありませんか?これ以上、どうこう言うおつもりはありません。ですが、もう一度ご検討のほどよろしくお願い致します。」
過去を変えたい…運命を変えたい…。どうしてそのようなことをシリテスは、僕に問いたのか不思議に思った。
「水星宙は、参加しないと言っておりましたが改めて検討を考え直させるよう命じております。」
「当然だ。彼には、責任を課さなければならない。だが、彼は記憶喪失。記憶を取り戻してしまった瞬間(とき)、残酷な運命が彼を蝕み喰らい尽くすだろう…。それでも、挑戦してもらうしか選択肢はない…。」
(なるほど…水星宙は何かしら繋がりがあるという訳か…。)
「ねぇねぇ、校長先生と何を話していたの?」
「どちら様でしょうか。」
「ひどいな、全く…。光時廻計(こうじかいけい)だよ。覚えておいてね、篠山宇君。ところでさ、宇君といつも一緒にいる水星宙君っていう子、何処にいるか教えてくれない?」
「具合が悪いから学校を休む。と、メールが来ていたから家にいると思うよ。」
先ほどの会話、たまたま立ち聞きしてしまった。おかげで紐解くことが出来た。校長先生が突然辞職したり、時間が一時的に止まっていたのは全てゲームの登場人物の仕業。水星宙と篠山宇が選出されるのには、重大な理由がある…。詮索しなければ…。
「廻計とやら、授業に遅れるぞ」
「宙君の家まで、一緒に行ってくれない?」
「俺まで早退しろと…。逆に怪しまれると思うが…。」
「じゃあ…時間をずらして、待ち合わせるというのはどうかな?」
「分かったよ…。」
光時廻計…。何故、宙の家に行くと突然言い出したのか謎だ。俺らのことを全く知らないはずなのに…。そして、俺らも彼のことを全く知らない…。
彼が、今日に限って近付いてきたのは、俺らの情報を握っている為か。それに、名乗ったこともないのに何故名を知っているのか。思い当たるとすれば…昨日の会話を盗み聞きしたとしか考えようがない。
「宇、今誰と話していたの?」
「光時廻計という名前の人。」
「誰?転校生?でも、この学校に光時廻計という名前の生徒いないよ。そして、転校生なんてこの学校に誰も来ていないよ。」
「軌月彗香という転校生が来たじゃん。銀白の髪の毛で瞳が濃い青色の女の子。」
「そんな生徒、この学校に転校して来たという情報なんてないけど。」
あれは…夢だったというのか…。試しに水星宙について訪ねてみることにした。
「水星宙は、流石に知っているだろう。」
「水星宙という名前の生徒もいない。でも、水星銀月という生徒なら5年前に卒業したと記されている。」
水星銀月…。誰だ。名前からして、宙の義兄(あに)や義姉(あね)あたる人物のように考えられるが、宙は一人っ子のはずだ。
「ここにいる時空は、時と共に消滅してしまいます。皆さんが、水星宙さんのことや軌月彗香さんを知らないと言ったのは、そのせいです。もうここ側の時空は、あなたの知らない世界に変わります。そして、この時空は二度と戻ることのない、無効時空。初めから存在しないということです。」
「では、ここにいる俺は…跡形もなく消えるということですか?」
「ええ、そうです。あなたは、ゲームの世界でしか存在出来なくなります。生き残れるかどうかは、あなた方の決断次第です。」
シリテスは、一言もゲームの世界でしか存在出来ないとは、言っていなかったが…。最初から言ってしまえば、俺らが参加しないと答えるからだと思い、今になって発したのだろう。この時空が滅亡し、存在しない。それが指し示す意味とは…。
「あの…。もちろん帰還(かえ)ることは出来ますよね…。時空が滅亡したり、存在しないということにはなりませんよね…。」
「生き残ることが出来れば…ですよ。これは、単なるゲームではありません。それに…参加してしまうとなると現実世界は一時的に存在しなくなります。ご家族に一切会えない。ご友人にも一切会えなくなります。水星宙さんは、ご参加希望な さらないとおっしゃっていましたがきっと参加をご決断なさると思います。それは、篠山宇さんを見過ごせるようなお方ではないからだと思っております。もう一度、水星宙さんのところへ行って参りますので少々お待ちくださいませ。」
「宙を無理やり連れて行くと言うのは、違うような気がします…。宙が参加したいと言ったら…。」
「ったく、困りますよ。そんなご発言は、よろしくありません。まるで、私共が無理強いをしているかのように聞こえます。」
「ワタクシ、アナタを仲間だとは到底思えない。アナタが敵だったら、殺(や)るだけなのだから。戦闘道場(バトルフィールド)で、殺(や)り合う展開になるけど……ね……」
少女は、にやりと笑い剣を構え喉に刃を突き立てた。
「待って下さい。僕は、違いますって!仲間じゃないですよ。赤の他人です。または、異国人同士ですよ!出来れば、争いたくはないです……。」
「交渉までしようと。まあいいわ。敵の侵入内情者(スパイ)だったら、その時は……。もちろん、分かっているわよね?」
少女の瞳は、獲物(ターゲット)を狙う攻撃者(ハンター)のようだ。逃がすまいと、僕(ひょうてき)を定め仕留めるかのように……。疑心暗鬼になるのも、仕方がないとはいえ、少しは信用して欲しいものだ。お互いが、何者なのかは知らない。知ったところで、場合によれば災いになる可能性だってある。鍵となる手掛かりだって、失(な)い訳だから。
「ワタクシ、お腹が空きました。お食事にしますので……ご忠告ですが、ワタクシは一人で脱け出しますので。アナタも、一人で脱け出して下さい。くれぐれも、足枷(じゃま)だけは一切しないで下さいね。」
「もちろん、しませんよ。一人で脱け出しますから!先ほどから、黙って聴いていれば……赤の他人だとは到底思えない発言ばかり。そちらこそ、邪魔しないで下さい。」何なんだよ!偉そうに。険悪な雰囲気(ムード)に、なろうがこの際知らない。お互いに干渉し合わないのならば、命の保証も一切関与しない。それでこそ、赤の他人なんだろう。ただ、捜している誰かがいたら?話は別だ。賭けるか……賭けないか……。さて、どちらを選んだ方が好都合で得をするのか。悩んだ末に出した答えは…。
「あの!捜している仲間(ひと)がいたら、話は変わります。だけど……どうしても一人がいいのなら……構いません。僕が言いたいことは、組織(ギルド)を創作(つく)りませんかという……。ただ、それだけです……。」
「加入して欲しいと言う提案ですか……。一人で脱出するという考えは、捨てませんがね。仲間だとは、全く思っておりません。だけど、こうなってしまった以上は……。」彼女は、仕方なく折れたのだが、耳を貸してくれたことが少し嬉しかった。偉そうだと思っていたが、少し見方が変わった。今頃気付いたことだが、彼女のマントの刻印。どこかで見たような。いや、見間違いかもしれない。
「ところで、組織(ギルド)の名前は?何にするの?」
「いや~、まだ決まっていないものでして。」
「そう……。」彼女は、そう言って遠くを見つめた。
組織(ギルド)を創作(つく)るって、簡単に言ってしまった。果たして良かったのだろうか。編成しなきゃいけないし、何人体制とか場合によったら必要だ。人数集めだって、出来ない。まさかの、2人だけで戦闘(たたか)えってこと?いくらなんでも、無謀だ。戦闘能力も、レベルも、称号も、ランクもない。ましてや、剣銃(ぶき)もない。こういう時、仲間がいたら……。救助(たすけ)てくれるのにな……。
飛翔(ロケット)も、壊れてしまったので帰還(かえ)れなくなってしまった。不時着した場所も、この異世界(せかい)も全く分からない。
遠くに小さな小屋らしき建物がぽつりと見えた。玄関にランプが点いていたので、上がらせてもらうことにした。
「すみません、泊めてもらうことは出来ないでしょうか。」
応答がなかったので、仕方なく僕は小屋の外で眠ることにしたのだが、少女は融通が利かず、勝手に侵入してしまった。
カタコトと歯車同士がゆっくりと廻り始め、 小さな扉が開き奥から人が出てきた。
「君、勝手に侵入したの?ここはね、俺の基地(ラボ)なんだよね。他の人だったら、ただじゃ済まされなかったかもしれないよ。俺だったから、よかったけどね。」
「外で眠ったことがなかったので、勝手に小屋に侵入してしまいました。すみませんでした。」
「いいよ、怒っている訳ではないから。俺の名は、サンゼン。ここは、廻宇時計の狭間。いわゆる、都市でもない。不思議な空間なんだ。どうして僕だけが往き来出来るのか。お父親(やじ)が創(つく)った通称:彗彩の光速(ワープ)。代々、受け継がれてきた。俺は、5代目。正常に動いていたのだが、ここ最近、時空が歪み始めた。何者かが、侵入して機具(ギア)を廻し、時を停刻させた。君らが、ここに来るほんの少し前に起きた。今、都市が危険の更地化している。俺は、もう一つの職をしている。軸宇宙基地(プラネットラボ)隊の遣い。長話になってしまったね。ところで、君たちは何処から来たんだい?」
自分が、一体何故この異世界(せかい)に来たのか全く検討がつかない。気を失い瞳を開けた瞬間(とき)、異様な光景に移り替わっていた。そして、自分自身が誰なのかも知らない。これは、ただの夢に過ぎない。最初(はじめ)は、そう思っていたのだが。
「ワタクシは、何処から来たのか分からないのです。そして、自分が誰なのかも分からなくて。」
「僕も、同じです。」
少女も、僕と同様に記憶が失(な)くなってしまっていた。
「そうだったんだ……。しばらくの間、俺の基地(ラボ)に居るといいよ。君たちが、全て思い出すまで俺は君たちを護衛(まも)るからさ。」
サンゼンと少女と僕の生活が始まった。
サンゼンは、軸宇宙基地隊(プラネットラボ)という組織(ギルド)に加入していて、街を護衛(まも)る為だいたい外出してしまう。その為、僕と少女にだけになってしまうことが多い。基地(ラボ)の中には、彗彩の光速の設計図や色んな種類の機具(ギア)がある。その中でも、特に気になるのが薇(ゼンマイ)仕掛けの隠し扉だ。きっと、隠し扉の中には帰還(かえ)れる廻道(みち)と廻道(みち)が通じているのだろう。
「あの隠し扉、気になりますよね。ワタクシ、開けてみようと思います。」
手を翳せば開く構造になっているようだ。
少女は、手を翳したが全く開かなかった。
僕も、試しに翳してみたがびくともしなかった。
「サンゼンさんにしか開かない構造になっているのでしょうね。」
薇仕掛けの隠し扉の横に、蜘蛛の巣で覆われている古めかしい本棚があった。一冊だけ、目に止まった本を二人で読んだ。
「刻(トキ)の廻間(はざま)~少女の記憶再生」
リミテッドワーパーズという組織があった。
統治していた少女スフィアの記憶が失(な)くなってしまったが故に、新たな統治者を捜すことにした。後に事態を大きく揺るがしてしまう。
突如消えた「ゼグテロ」「グリアス」「ユアロワ」などの鍵を握る重要な人物が異世界へ消えてしまった。そこで、彗彩の光速(ワープ)を開発することにした。主催者は、ゲームを開催させようとしたが失敗に終わった。彼らの行方を辿ってほしい。
G.S
トントントントン
「ただいま。何か面白いものでもあったかい。」
サンゼンが帰って来たので、隠し扉とこの本のことについて聞いてみることにした。
「隠し扉は、俺しか開けられない構造になっていて、中には次空圏があるんだが封じられていて、動かすことが出来ない。この本は、この世界に光速(ワープ)して来た少年が書いた本なんだ。少年も、行方が分からなくなっていると聞いてね。とても不可解な事件だよ。」
作者も、行方不明で登場人物も行方不明。ミステリアスな内容で、大変興味深い。
「隠し扉が、二人とも気になっているみたいだから、お見せしよう。」
ガタッガタッガタッガタッ
サンゼンが手を翳(かざ)しただけで、歯車同士が段違いに廻り始めた。そして、扉が開き文字盤が蒼白く光って別世界(そと)へと通じる旋廻経路(かいだん)が果てしなく続いていた。
「旋廻階段(かいだん)をひたすら登っていくと、無数の扉があるんだ。一部、歯車が劣化し欠けていて廻らない為、扉が開かないんだ。修理(メンテナンス)しようと思っても、大変手間がかかかってしまう。だからそのままにしてあるのさ。」
少女は、扉の隙間に剣を忍ばせ無理やり抉(こ)じ開けようとした。剣は折れ曲がり、結局扉は開かなかった。僅かな隙間から、中の様子が見えた。そこには、僕と少年と少女が、この旋廻経路(かいだん)を登り、リミテッドワープという都市で冒険を繰り広げていくという物語が映し出されていた。少女が、ここにいる少女にどことなく似ていた。この映像は、これから起こる出来事を映し出しているということなのだろうか。
「見てしまったんだね…。この映像は、君たちの運命を映し出しているんだ。妥当な決断を下さなければ、都市もろとも滅亡してしまうだろう。これは、君たちの決断にかかっている。」
チュンチュンチュンチュン
雀が朝を告げカーテンの隙間から、日の光が差し込んだ。ここは、いわゆる日常という名の現在(いま)なのか。ということは、帰還(かえ)ることが出来たということだろうか。あの少女も、きっと今頃自分の居場所に帰還(かえ)っていることだろう。
「おはよう、宙(そら)。」
僕は、そらという名前なのか。
「僕は、宙で…。あなたは…。」
「失礼な子ね。私は、あなたの母親よ。」
「ここは、何処でしょうか…。僕は、一体誰ですか…。」
「ここは、あなたの家よ。あなたの名前は、水星宙
(そら)。こんな話に付き合っている時間はないの。学校に遅刻させる訳には行かないし、お母さん忙しいのよ。あ、もうこんな時間。遅刻しないで行ってよ。行ってきます。」
状況が全く把握出来ない。整理すると、サンゼンと少女と僕で別世界(そと)へと通じる廻旋経路(かいだん)を見て…そこから、よく覚えていない。
歪んで停刻(と)まった異世界から、どうやって戻って来られたのだろうか。
ピピピピッ
僕のスマートフォンだろうか。
「刻(トキ)の廻間(はざま)~少女の記憶再生」
ダウンロードした覚えがないのに、マイアプリに登録されている。削除(アンインストール)を押したが、マイアプリに登録されたままになってしまう。
その後もやってみたが、削除(アンインストール)されることはなかった。
とりあえず、制服に着替えて朝食を食べて。でも、
学校の名前も場所も全く分からない。お母さんに聞こうと思ったが、すでに外出してしまった。メールを送信して、教えてもらうしか方法がない。
ピピピピッ
メールが届きました メールが届きました
誰からだろう。篠山宇(たすく)とは、誰だ。
「宙、昨日学校休んだだろう。昨日、転校生が来てさ。その転校生が、ゲームの主人公に凄く似ているんだよ…。まさか…この世界に来たとか。それは、いくらなんでも、あり得ないよな。今日は、学校に来いよ。あ、そうだ。今から宙の家に行くから。チャイム鳴ったら応答しろよ。じゃあな。」
篠山宇。僕の友達なのだろうか。迎えに来てくれるのなら、有り難い。
ピンポーン
ドアスコープ越しに、彼ともう一人の人物がうっすら見えた。
ガチャッ
「迎えに来たぞ。 そして、転校生を連れてきた。」
「軌月彗香です。よろしくお願い致します。」
「僕は、水星宇宙です。よろしくお願いします。」
彼女を何処かで見たような気がしたが、何一つ思い出せない。
「あの…学校を案内してほしいのですが…。」
「学校?いつも通っているだろう、宙。」
「宙さんが言ったのではなく、私が言いました。風邪気味で、時々声が変になってしまうもので。ゴホン、ゴホン。」
彼女は、僕を庇(かば)ったのかどうかは定かではないが、嘘を付いた。
「風邪大丈夫?あまりひどいようなら、病院に行った方がいいと思うけど。」
「大丈夫です。昨日は、クラスルームしか見ていなかったものですから、今日は全てを見て回りたいと思いまして。」
彼女に会釈をした後、部屋に入り身支度をした。ドアのノック音がしたので、開けると宇が部屋に入り込んできた。
「やはり、ゲームの主人公に似ている気がする。リミテッドワープ都市の統治者、スフィアの双子の妹フィアリに。銀に近い白髪は同じだけど、瞳の色が違うんだ。スフィアは、濃い紫色でフィアリは薄い青。特徴が当てはまるけど、偶然キャラクターと似てしまったとしか言いようがないよな。だって、この世界に来るということは、到底不可能だから。」
宇の単なる思い違いだと、聞き流した。仮に、ゲームキャラクターが向こう側の異世界(せかい)を抜けて出してまで、何の為にこの世界へ来るというのだろうか。
「宙さん、宇さん!もう、20時15分ですよ!遅刻してしまいますよ。」
彼女はドアを強く叩き、声を大にして言った。
「すっかり話込んでしまった。猛ダッシュで行かなきゃ、間に合わない!宙、早くしろよ。彗香さん、怒らせたら何をするか分からないから。」
「聞こえていますよ。もう、これだから…。(こうなったら、一時的に時間を停刻(と)める呪文を…。)」
クオーノーズディプロ!
視界が見えなくなるほど、一面霧で覆われていた。誰かに手を掴まれ、気が付いた時には着席していた。 時刻は、20時15分だった。その時間、僕は身支度をしていた。宇は僕の部屋で話をして、彼女は部屋の前で僕らに声を掛けていた。まさか、瞬間移動(テレポート)したとでもいうのか。
「篠山さん…こんなことをいうのも異常だと思いますが…僕らきっと瞬間移動(テレポート)した可能性があると思います…。」
「宙、俺も不思議に思っているよ…。瞬間移動(テレポート)したような気が…。これって、いわゆる超常現象という現象が起きたってこと?」
「超常現象がどうしたって?」
「何でもない。これは、俺と宙と彗香さんの問題だから。」
ピンポンパンポーン
「彗星宙さん、篠山宇さん。至急校長室へ来て下さい。校長先生がお呼びです。」
校長室?校長先生?何か教師や校長先生に対して反抗的な態度をしてしまったのか。校長先生も教師も全く知らないし、思い当たる節も全くない。一体、僕と宇は何をしたというのか。
「宙、呼ばれるようなこと俺らした覚えないよな。」
「何もしていませんよ…。」
「でも、呼ばれるということは悪いこととは限らないけどな…。大抵は、悪く考えてしまうものだよな…。」
コンコン
「失礼します、篠山宇です。」
「失礼します、水星宙です。」
「宇さん、宙さん。軌月彗香をもちろんご存知ですよね。彼女と私がどうしてこの世界にいるのか。それには、れっきとした理由があります。私は、スフィア様と双子の妹フィアリ様の家来、シリテスと申します。軌月彗香と名乗っていますが、フィアリというキャラクターです。今朝、早く学校に着けたのはフィアリ様が時を一時的に止める「一時停刻」呪文を唱えたからです。このように、ゲームの世界にいるはずのキャラクターが現世にいるのはどうしてなのか…。それは、鍵を握る重要な登場キャラクター達がこの世界に逃げ出してしまったからです。そして、私共が暮らしているリミテッドワープという都市(くに)の統治者、スフィア様の記憶が失(な)くなり新しい統治者が現れました。彼女の名は、ブリューテ。彼女の登場で破滅都市へと変わってしまった…。篠山宇さん、水星宙さん。どうか、我が都市(くに)をお救い頂けませんか?そして、スフィア様の記憶を取り戻して頂けませんか?」
この物語を何処かで聞いたような気がする。何より軌月彗香がフィアリに似ていると宇が発していた言葉が、本当だったとは驚きを隠せない。都市(くに)を救うなど前代未聞の話だ。スケールが大きすぎるのと、記憶を取り戻すこともキャラクターを見つけ都市(くに)に帰還(かえ)すことも出来ず失敗に終わってしまったら…。それだけは、何としても避けなければならない。そう考えたら、承諾をしない方が喪失感を彼らに都市(くに)に与えずに済むだろう。僕なりの正解は、参加すべきでないということだ。
「俺は、参加します。だって、このゲームコンプリートしましたし、内容だってきっと同じだから。宙も、一緒に冒険に行こうぜ。」
「僕は…参加しません…。都市(くに)を守る契約も彼女の記憶を取り戻すということも…登場キャラクターを見つけ出すということも…。果すことが自分には出来ないからです…。有能な方なら、成せるでしょう。でも、僕には無理です…。シリテスさん…伺いますが、どうして僕なのでしょうか?僕が参加しなければいけない理由があるからですか?」
「そうおっしゃると思いました。参加しないというのならば、構いませんよ。でも、参加した方がいいのではないでしょうか。宙さんは、過去を変えたい運命を変えたいと思ったことはありませんか?これ以上、どうこう言うおつもりはありません。ですが、もう一度ご検討のほどよろしくお願い致します。」
過去を変えたい…運命を変えたい…。どうしてそのようなことをシリテスは、僕に問いたのか不思議に思った。
「水星宙は、参加しないと言っておりましたが改めて検討を考え直させるよう命じております。」
「当然だ。彼には、責任を課さなければならない。だが、彼は記憶喪失。記憶を取り戻してしまった瞬間(とき)、残酷な運命が彼を蝕み喰らい尽くすだろう…。それでも、挑戦してもらうしか選択肢はない…。」
(なるほど…水星宙は何かしら繋がりがあるという訳か…。)
「ねぇねぇ、校長先生と何を話していたの?」
「どちら様でしょうか。」
「ひどいな、全く…。光時廻計(こうじかいけい)だよ。覚えておいてね、篠山宇君。ところでさ、宇君といつも一緒にいる水星宙君っていう子、何処にいるか教えてくれない?」
「具合が悪いから学校を休む。と、メールが来ていたから家にいると思うよ。」
先ほどの会話、たまたま立ち聞きしてしまった。おかげで紐解くことが出来た。校長先生が突然辞職したり、時間が一時的に止まっていたのは全てゲームの登場人物の仕業。水星宙と篠山宇が選出されるのには、重大な理由がある…。詮索しなければ…。
「廻計とやら、授業に遅れるぞ」
「宙君の家まで、一緒に行ってくれない?」
「俺まで早退しろと…。逆に怪しまれると思うが…。」
「じゃあ…時間をずらして、待ち合わせるというのはどうかな?」
「分かったよ…。」
光時廻計…。何故、宙の家に行くと突然言い出したのか謎だ。俺らのことを全く知らないはずなのに…。そして、俺らも彼のことを全く知らない…。
彼が、今日に限って近付いてきたのは、俺らの情報を握っている為か。それに、名乗ったこともないのに何故名を知っているのか。思い当たるとすれば…昨日の会話を盗み聞きしたとしか考えようがない。
「宇、今誰と話していたの?」
「光時廻計という名前の人。」
「誰?転校生?でも、この学校に光時廻計という名前の生徒いないよ。そして、転校生なんてこの学校に誰も来ていないよ。」
「軌月彗香という転校生が来たじゃん。銀白の髪の毛で瞳が濃い青色の女の子。」
「そんな生徒、この学校に転校して来たという情報なんてないけど。」
あれは…夢だったというのか…。試しに水星宙について訪ねてみることにした。
「水星宙は、流石に知っているだろう。」
「水星宙という名前の生徒もいない。でも、水星銀月という生徒なら5年前に卒業したと記されている。」
水星銀月…。誰だ。名前からして、宙の義兄(あに)や義姉(あね)あたる人物のように考えられるが、宙は一人っ子のはずだ。
「ここにいる時空は、時と共に消滅してしまいます。皆さんが、水星宙さんのことや軌月彗香さんを知らないと言ったのは、そのせいです。もうここ側の時空は、あなたの知らない世界に変わります。そして、この時空は二度と戻ることのない、無効時空。初めから存在しないということです。」
「では、ここにいる俺は…跡形もなく消えるということですか?」
「ええ、そうです。あなたは、ゲームの世界でしか存在出来なくなります。生き残れるかどうかは、あなた方の決断次第です。」
シリテスは、一言もゲームの世界でしか存在出来ないとは、言っていなかったが…。最初から言ってしまえば、俺らが参加しないと答えるからだと思い、今になって発したのだろう。この時空が滅亡し、存在しない。それが指し示す意味とは…。
「あの…。もちろん帰還(かえ)ることは出来ますよね…。時空が滅亡したり、存在しないということにはなりませんよね…。」
「生き残ることが出来れば…ですよ。これは、単なるゲームではありません。それに…参加してしまうとなると現実世界は一時的に存在しなくなります。ご家族に一切会えない。ご友人にも一切会えなくなります。水星宙さんは、ご参加希望な さらないとおっしゃっていましたがきっと参加をご決断なさると思います。それは、篠山宇さんを見過ごせるようなお方ではないからだと思っております。もう一度、水星宙さんのところへ行って参りますので少々お待ちくださいませ。」
「宙を無理やり連れて行くと言うのは、違うような気がします…。宙が参加したいと言ったら…。」
「ったく、困りますよ。そんなご発言は、よろしくありません。まるで、私共が無理強いをしているかのように聞こえます。」
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