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エピローグ

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 目をぱちりと開けると、白い世界がぼやりと浮かぶ。
 しばらくすると、目が慣れたおかげか、白い世界は天井だったと気づいた。

 これは、天井?
 どこの天井だっけ。

 回らない頭で考えていると、体に痛みが走った。

「……いっ、」

 あれ。うまく言葉が出ない。
 深く息を吸ってみると、鼻に残るのは独特な匂い。
 どこかで嗅いだことのあるような……。
 そうだ。消毒液の匂いだ。
 ここは、病院?
 なんで、病院のベッドで寝てるんだろう。

 記憶を辿ると、ゆっくり思い出してきた。

 そうだ、女の子を助けようと道路に飛び出して……。
 それから……その後の記憶がない。
 あれ、思い出したいはずなのに、なにも思い出せない。

 
 なんだか、ふわふわと楽しかったような。
 心がほっこりしているような気がするんだけど。


 なにも思い出せなかった。


 ただ思い出そうとしただけなのに、ひどく疲れたような気がする。
 ちょっとだけ眠りたくて、瞼を閉じた。


「おーい。おきてー!」

 遠くから声が聞こえた。
 男の子の優しい声。

 瞼をあけると、目を見開いた。

「え……」

「ひさしぶり……じゃないや。はじめましてになる?」

 ベッドの横に真っ白のスーツを着た男の子が立っていた。
 肌もいように白くて、この世の生き物じゃないような雰囲気がする。

「し、死神?」

「ぶはっ、」

 よほど面白かったのか、吹き出してお腹を抱えて笑い出した。

「お嬢さん、忘れ物をしちゃったみたい」
「忘れ物?」
「キミからすっぽり消えちゃった貴重な3日間の記憶、取り戻したくない?」

 なにを言っているのか、全くわからなかった。
 変な宗教の勧誘?
 本当に死神だったりする?

 いろんなことが思い浮かんだけど、人懐っこい笑顔のせいかな?
 不思議と警戒心はもたなかった。

「どうやったら、取り戻せるの?」

 尋ねると、男の子はにこりと笑った。


「素敵なアルバイトがあるんです。手伝ってもらえませんか? 万年人手不足でして……」
 
 意味が分からない。
 怪しいにもほどがある。

 だけど、なぜか心が弾んでいた。
 なんだかワクワクするような。


 気づくと私はゆっくりうなずいていた。
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みんなの感想(2件)

三柴 ヲト
2024.09.01 三柴 ヲト

ハラハラドキドキ、楽しく拝読させていただきました!
『守護霊』のお仕事にスポットを当てるという、その発想が非常に面白いなと思いました。
守護霊になることで、普段、人間として生活していた時は知ることができなかった相手の一面を知ることができるという、その特殊な設定にワクワクしましたし、実際に主人公が、バレないよう保護対象を助けていく姿を追いかけるのは、ハラハラしつつもとても見応えがありました。
読んでいるうちに、自分も守護霊の存在にもっと感謝しなきゃな…と、そんな温かい気持ちが湧いてくるようでした。
最後はホッとしつつも、「そうくるかー!」と想定外だった締め。とても爽やかな読後感です😊
素敵な作品をありがとうございました!!

柚月しずく
2024.09.04 柚月しずく

ヲトさん、感想ありがとうございます!
ハラハラドキドキと言っていただけて、とても嬉しいです🤍
作品の描きたかった意図を汲み取っていただき嬉しすぎます〜🥺
最後まで読んでいただき、素敵な感想ありがとうございました!

解除
赤崎火凛(吉田定理)

おもしろかったです!

柚月しずく
2024.09.04 柚月しずく

感想いただきましてありがとうございます!
読んでいただけて嬉しいです🥺

解除

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