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五章
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しおりを挟むきっとこれは良くない知らせだと瞬時にわかった。
きっと、杏子ちゃんや、飛鳥先輩のママと話したこともバレている。
仕方ないとはいえ、話しているんだもん。
処罰はあって当然だ。
だけど、もう少しだけまってほしい。
飛鳥先輩の命の危険を守れるまで。
コンビニに行くと聞いたので、近くにあると予想する道を選んで駆け出した。
飛鳥先輩がこの先にいますように。
そう願いながら、走り続けた。
すると、見かけたことのある背中が視界にうつった。
大きくて肩張った背中。
「飛鳥先輩だ……」
私はホッと安堵する。
走る足をとめずに、追いかけた。
後、もう少し。もう少しで飛鳥先輩の元にたどりつける。
そう思った時だった。
飛鳥先輩がぴたりと立ち止まった。
あれ。どうしたんだろう。
イヤな胸騒ぎが、ぶわりと広がった。
私たちがいる歩道の向かい側には、小さな公園がある。
公園には、小さな子供が二人。
そして、お母さんと思われる女性が二人いた。
飛鳥先輩は立ち止まって公園の方を見つめている。
わたしは不思議に思って、公園をじっとみる。
3歳くらいの男の子が、ポーンポーンとボール遊びをしている。
すると……。
男の子の遊んでいたボールが、高く跳ねてそのまま道路へと飛び出した。
女性たちはおしゃべりに夢中で、気づいていない。
叫んでお母さんたちに知らせればきっと間に合う。
だけど、飛鳥先輩は身体が動いていた。
勢いよく地面を蹴ったと思えば、道路の真ん中で止まったボールの元へ手を伸ばしている。
このとき、私は思い出した。
『俺って、言葉より体が動いちゃうタイプでさ。だから体育はけっこう好きなんだよ』
そういってたっけ。
飛鳥先輩は、考えるよりも先に体が動いてしまったということだ。
焦りながらも見守っていると。
耳にエンジン音が届いた。
パッと顔を上げると、少し先からこちらに車が迫ってくる。
飛鳥先輩も早く道路から離れないと危ない!
そう伝えたいのに、私は声を出すことができない。
声を出すことはルール違反だからだ。
これ以上ルール違反をすれば、わたしは……。
赤文字のメールが頭に浮かび、喉まで出かかった言葉が出てこない。
目の前で起きていることが、心臓が痛いくらいに怖い。
飛鳥先輩は、ボールを手に取ると、向かいの歩道まできていた男の子にポンと投げ返した。
「道路に出たら、危ないぞー」
飛鳥先輩は、ここでやっと声を上げた。
そして、すぐに男の子に背中を向けて、道路から離れようとする、
男の子が道路に出る前に、飛鳥先輩がボールを拾ってあげたということだ。
よかった。ホッと胸をなでおろした。
だけど……。
「おにいちゃーん!」
ボールを受け取った男の子は、飛鳥先輩に向かって話かける。
くるりと振り向いた飛鳥先輩は、目を丸くさせた。
男の子は、追いかけるように道路に出ようとしているからだ。
あぶない! 向こうからは車が迫ってきている。
迷っている時間はなかった。
それに、私の気持ちに迷いもなかった。
「危ないっ! 道路に出ないで!!!」
声を張り上げた。もちろんルール違反だ。それを承知で、あたり一面に響き渡るほどの大声で叫んだ。
生まれて今まで過ごした中で、一番声を張り上げたと思う。甲高く張った声が響き渡る。
私の声が聞こえたようで、公園にいたお母さんは、やっと気づいた。
そして、物凄い速さで、男の子に駆け寄り、道路に出ようとする男の子の腕を掴む。
そして数秒後。
向こうから走ってきていた車は、私たちの目の前を通り過ぎた。
数秒の時間のはずなのに、あまりにも危ないことがありすぎて、息切れをしそうだ。
男の子のお母さんは、飛鳥先輩に頭をペコリと下げてお礼を言っているみたい。
「はぁ、」
自然とため息が漏れた。
まだドキドキしてる……。
さっきまでの光景が頭に浮かんで、唇をぎゅっと噛み締めた。
あのままだったら、飛鳥先輩が交通事故に遭っていたかもしれない。
そう思うと、怖くて涙が落ちてきそうだったから。
突然、視界がぐにゃりと歪んだ。
今までに聞いたことのないようなサイレント音が鳴り響いた。
頭に響いて、気持ち悪くなる。
わたしは思わずその場にしゃがみこんだ。
「大丈夫か?」
わたしの様子が視えた飛鳥先輩は、心配そうに私の顔を覗き込む。
「ありがとう。さっきは守ってくれて」
守った?
私、飛鳥先輩を守れたってこと?
嬉しいはずなのに、息が苦しくて、頭がぼうっとするような感覚。
目の前にいる飛鳥先輩の顔がどんどんボヤけていく……。
まだ話したいことあったのに……。
必死に手を伸ばすと。
そのまま、私は意識を手放した。
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