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四章

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 目をぱちっと開けると現世とは違う。
 風も匂いも感じない。そんな無機質な場所は死後の世界だとすぐに分かった。

 予想通り死後の世界へと扉だったみたい。

 あたりをきょろきょろと見まわすと、少し先の方で柊が大きく手を振りかざしていた。

「おーい! 未蘭! こっち!」

 柊の姿をみたとたん、ふっと体の緊張がとけたきがした。
 私は柊の元へとかけだした。
 
 だけど、途中で足が止まった。
 柊の横にもうひとりいるのがみえたから。

 柊の横には、黒いスーツを着た大人の女性が立っていた。
 無表情な顔は怒っているように見える。

 なんだか怖くなって、歩く足が重くなった。
 なんだろう……なんか怖い。

 良い印象はもてなくて、ドキドキと動悸がする。
 
 私がルール違反をしたのは事実だ。
 守護霊代行は人と話してはいけないのに、飛鳥先輩と話してしまったんだもん。
 怒られても守護霊代行をクビになっても仕方がない。それだけのことをしてしまった。

 いったい私はどうなるんだろう。
 仮死の状態って聞いたけど、もう死後の世界から戻れないかもしれない。

 つまり、私は死ぬかもしれない。ということだ。
 嫌なことばかり頭に浮かんで、今にも涙が落ちてしまいそうだ。

 ゆっくりと足を進めて、柊たちの目の前にたどりついた。
 

「なんで呼び出しされたのかは、わかっているわよね?」
「……はい」

 女性の声は、どこか冷たくて。
 嫌な予感がつよくなった。

 それに、呼び出されたことに、心当たりはある。
 むしろ心当たりがいくつもありすぎて、言い訳も出てこないよ。

 そう思った私は、深く息を吸った。

「思い当たること、あ、あります」

 そういって、じっと見つめる。そんな私をみて、何度か頷くと女性はゆっくり口を開いた。

「まず自己紹介が先ね。私は楓といいます。守護霊代行の上層部にいるわ」

 柊から聞いていたことだった。
 守護霊代行には上層部がいて、管理してるって言ってたっけ。
 つまり、楓さんは偉い人だ!

「通達がきたの。あなた人と話したって本当?」

 ドキッ。心臓がはねた。
 怖くて手が震えそうになる。


「実は……」
  
 私は覚悟を決めた。飛鳥先輩との間に起きたことを素直に話した。
 きっと説明はへたくそだったはず。
 だけど楓さんは相槌をうちながら、最後まで聞いてくれた。

 
 全部話し終えた後、楓さんは天を仰いでなにか考えているようだった。
 その間もなんて言われるのか怖くて、私の心臓はドキドキと鳴り続ける。

 すごく怒られるんだろうな……。
 そう思って、目をぎゅっとつむっていると。


「その子は、霊感があるのかしら?」
「へ?」

 ぱちりと目を開けて楓さんを見ると、意外にもあっけらかんとした態度。
 怒られると思っていた私は拍子抜けしてしまう。

「れ、霊感?」
「霊感がある人は私たちのことが、ぼや~とホワホワした光みたいに見えるって聞いたことがあるわ。私たちも魂だから、簡単に言うと幽霊と同じだからね……」

 なんだかすごく納得した。
 そういえば、飛鳥先輩も私が透けて見えるっていってたっけ。

 一瞬だけ考えて、それから優しい笑顔をむける。

「イレギュラーなことだったとはいえ。ルール違反はルール違反よ」

 もちろん、その通りだと思った。
 ルール違反をしたのは私だもん。

「わ、私は……どうなるんですか?」

 やっぱりこのまま死後の世界へと連れていかれるのだろうか。
 あぁ、こんなことなら、守護霊代行のときに、お母さんに会いに行けばよかったな。

 友達の顔も見に行けばよかった。
 そんなことを考えていたら。
 
「どうしようかしらね……」

 腕を組んで考えている楓さん。
 私はちょっとだけホッとする。
 すぐに死後の世界へと連れていかれると思っていたから。
 
 
「は、反省はしてます!」

 えーい!この際、思ったことは言ってしまおう。
 もう後戻りできないと思った私は、すがるように楓さんをみつめる。


「ルール違反は一回で、解雇。のはずなんだけどね……実は問題が発生してるの」

 も、問題って⁉︎
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