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四章

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 なんだか私は、仲直りの光景をこっそり見ているような気持ちになる。

 そのあとも、2人は笑い声を交えながら楽しそうに話していた。

 今まで張り詰めていた空気も、優しくなったような気がする。



 
 それから、大河先輩は美術室を出ていった。
 私はホッと一息ついて、後をついていこうとしたときだった。



「ねぇ! まって!」


 後ろから声が聞こえた。
 ぴたりと足が止まる。


 先に出て行ったので、この場には大河先輩はいない。
 私と飛鳥先輩だけだ。

 私に話しかけてる?
 おそるおそる振り返ると……。

「聞こえてる?」

 目があってる……気がする。
 でも、そんなはずないんだ。

 だって、私の姿は人間には視えないはずだもん。

 
「ねぇ、きみって幽霊? 怪奇?」


 一瞬どきりとする。
 いや、私に話かけてるわけじゃないよね。だって私は人間には視えないはずだもん。
 あたりをきょろきょろと見まわしてみる。
 
 私の他に誰もいない。
 だけど、私に話しかけてくるなんてありえないもん!

 そう思って、知らんぷりをして足を一歩踏み出した。
 だけど、また……。

「君にいってるんだよー。今、きょろきょろして、知らんぷりしようとしてるきみ!」

 ドキリと胸がざわついた。
 それって、私のことだよね?

 信じられないけど……。
 やっぱり、私のことが視えてるんだ!

 どうしよう、どうしたらいい……?
 人間に私の存在がバレてはいけないのに。


「おーい! 聞こえてるよね?」

 頭の中でぐるぐる考えていると、耳元で声がした。
 ハッとして顔を上げると、目の前に飛鳥先輩の顔が。

 いつのまにか近くにいた飛鳥先輩は、私の顔をのぞきこんでいる。
 しっかりと目があっているんだ。

 
「わ、私が視えるの?」

 私は怖くて手のひらをぎゅっと握る。
 思わず声をあげてしまった。


「あ、やっと話してくれた! ずっと知らんぷりされてたから、話してくれないと思ってた」
 

 あまりにも自然に話すので、私はぽかんとしてしまう。
 普通は幽霊みたいな存在を恐れるんじゃないの?

 飛鳥先輩は私をみて、目じりをさげてにこりと笑う。


「あ、あの……怖くないんですか? その、私ってどう見えてますか?」
「うーん。ちょっと透けてるかな?」

 え、ウソ!? 私って透けて見えるんだ。
 私はちょっと引っ掛かる。

 でも、人間に私たち守護霊の姿は視えないって、言っていたよね。
 どうして飛鳥先輩には視えるんだろう。


「君さ、大河が俺のキャンバスをどこかに持っていいこうとしたとき、取り戻そうとしてくれてたでしょ?」
「な、なんで知ってるんですか?」
「視てたんだよ。大河と君がキャンバスを引っ張り合いっこしてるところ」

 まさか視られていたなんて思わなかった。
 私は驚いておろおろすることしかできない。


「くくっ。あ、ごめん……。ちょっと思い出し笑い」

 お腹を抱えて笑う飛鳥先輩。
 なぜわらっているのか分からなくて、首をかしげると。

「あまりにも必死だったからさ……」
「だって、人の絵を持っていくなんてダメだから」
「俺は君に助けられたってことだろ? だから話してみたいと思ったってわけ」

 また飛鳥先輩が私の顔を覗き込んでくるので、ドキッと心臓が跳ねた。

 目線を同じにして話してくれるんだけど。
 それがちょっとドキッとしちゃうんだよね。


「地縛霊? どうしてこの学校にいるの?」
「えっと……守秘義務があるので」

 守護霊代行のことは言えないので、誤魔化すことにした。
 どうやら信じたようで、飛鳥先輩は目を丸くさせる。


「へぇ! 幽霊にも守秘義務があるんだ」

 詳しく話せないので、とりあえずこくんと頷いた。

 
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