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四章
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しおりを挟む「……くそっ!」
強い力でキャンバスがひかれて、体がそのまま持ってかれそうになる。
大河先輩の引っ張る力は、私よりもかなり強い。
負けないように、私は歯を食いしばった。
絶対に渡すもんか……!
「なんでこんなに、重いんだよっ!……くそっ!」
そういうと、キャンバスを引っ張る力がさらにつよくなった。
私の身体ごともってかれてしまう。
必死に抵抗したけど、あっという間に力で負けてしまった。
次にぐいっと引っ張られると、私の手からキャンバスが離れた。
大河先輩もだいぶ力をいれていたみたい。その拍子に大河先輩はバランスを崩した。
「な、なんだ⁉︎ 急に軽くなった」
不思議そうに首をかしげる。
そして……。
「まぁいいや。俺の描いた絵として今季に開催されている美術コンテストに出してやる」
私はゾッとする。
にたりと笑った顔は、まるで悪魔のようだったから。
このままでは飛鳥先輩の絵を無断で、コンテストに出されてしまう。しかも、大河先輩の絵だと偽られて。
それは盗んで使うこと。
つまり、盗用だ。
このことを、飛鳥先輩に伝えられたらいいのだけど……。
守護霊代行の立場の私は、伝えることができない。
今、このことを知ってるのは私だけ。
私がなんとかしないと。
大河先輩は足早に歩いていく。
彼の腕の中には、飛鳥先輩の絵が抱え込まれていた。
ま、まって!
私は慌てて追いかけた。
そして、またキャンバスを掴む
「ま、またかよ。キャンバスが重くなった」
私がキャンバスをつかんだせいで、大河先輩の足が止まった。
彼に私の姿は視えていないから、引っ張られているという事実がわからない。
不思議そうに首をかしげながら、顔を歪ませる。
「な、んなんだよ!」
吐き出した声は弱弱しかった。
私にできることがこれくらいしか思いつかない。
だって、人のものを自分のものとしてコンテストに出すなんて。
絶対にダメだよ!
だけど、また力で押し負ける。私はずるずるとキャンバスと共に引きずられていく。
大河先輩の歩く足を止めることができず、職員室が見えてきてしまった。
美術部顧問の先生のもとに、行こうとしているんだ。
先生に会う前に、なんとか阻止しないと。
そう思っていたら。
「大河、その絵はどうしたんだ?」
ちょうど職員室から出てきた先生。
私はどきりとする。
美術部顧問の中尾先生だったから。
な、なんで。よりにもよって美術部顧問の先生が。
今一番現れて欲しくない先生なのに。
「中尾先生、あ、お、俺……」
まだ少し迷いがあるのか、大河先輩はくちをつぐんだ。
持っていたキャンバスをぎゅっとつかむ。
もしかしたら、大河先輩も自分の気持ちと闘っているのかもしれない。
そうだよ! 盗用なんていけないことだもの。
期待を込めて大河先輩を見つめた。
だけど……。
「おっ、それコンテストに出すやつか? 提出期限は今日だったな……」
大河先輩が持っているキャンバスに気づいた中尾先生。目を輝かせた。
「いや、えっと。これは……」
キャンバスを見せようとしない大河先輩。
しかし、中尾先生は横から取り上げた。
「コンテストに出すやつか? 提出期限は明日までだぞ?」
中尾先生は迷いがある大河先輩の手から、半ば強引にキャンバスを奪ると。
そして、じっと絵を眺めた。
「これ、大河が描いたのか?」
ちらりと大河先輩を見る中尾先生。
大河先輩は、口をパクパクさせた。
そして、顔をひきつらせたまま、ゆっくりうなずいた。
違う!
思わず声を出しそうになる。
だって、中尾先生が真剣に見ているのは、大河先輩が描いたものではない。
飛鳥先輩が描いた絵だから。
だけど、私は真実を口にすることができない。
やるせなくて、心に苦しい気持ちが広がっていく。
「いいじゃないか! 良い線いくぞ!」
中尾先生は、表情をぱあっと明るくさせ、声は弾んでいた。
ずきん、胸が痛い。
この絵は飛鳥先輩が描いたものなのに……!
心の中で反論しながら、私は大河先輩に視線を移した。
すると。大河先輩の表情は曇っていて、褒められているはずなのに、全く嬉しそうに見えない。
もしかしたら、盗用しようとしている罪悪感に襲われているのかもしれない。
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