上 下
20 / 39
三章 オモテとウラのカオ

3-5

しおりを挟む


 職員室に入ってくる窓からの日差しが、赤みを帯びた夕日の色に変わってきた。
 
 デスクに座って、パソコンに向かい仕事をしている田口先生。
 何事もなく見守っていると……。

 「諦めなさい! 現実的には厳しいんだって。はあ、何回言ったら伝わるのかなぁ」
 
 隣のデスクから張り上げた声が聞こえた。
 ちらりと覗いてみると、声の主は椎名先生。
 3年1組の担任で、生徒から人気のある先生だった。
 明るくてにこやかに笑っている印象がある先生で、私もわりと好感をもっていた。


 そんな椎名先生がぎろりと冷たい視線を送っているのは、上履きのラインカラーが黄色。
 つまり三年生の先輩ってこと。

 椎名先生の前に肩をすぼめて立つ先輩に、ため息を吐いて続ける。

「速水の成績だと、この学校に進学は無理だって。先生は速水のことを思って言ってんだよ?」

 椎名先生は、にかっとわらう。
 だけどその笑顔は、ひきつっていてニセモノのようだった。

 どうやら先輩は椎名先生に進路相談にきたみたい。
 ただ、二人の間の空気は重い。
 
「で、でも。私、この学校に行きたいんです」

 今にも泣きだしそうな先輩は、スカートのすそをぎゅっと握っている。
 勇気を出して言っているのだろうか。声も震えていた。

 そんな先輩に向けて、椎名先生はまたため息を吐いた。

「はあ、だから……無理だって」

 半笑いで言った言葉に、私はむっとしてしまう。
 だって、先輩がこんなに真剣に相談しているのに。

 半笑いで馬鹿にしてるみたいなんだもん!
 言い返してやりたい!
 そう思ったけど……。

 今の私にはどうすることもできない。


 落胆していると、ある人物が視界に映る。
 そうだ!田口先生がいる。
 田口先生が助けてくれればいいんだ。

 期待を込めて田口先生を見ると、パソコンに向かったまま。
 特に気にしていないようだった。


 そうだよね。
 田口先生が他のクラスの生徒のことなんて気にするタイプじゃないか。

 諦めかけていると。


「まだ時間はありますよ?」

 視線は目の前のパソコンに向けたまま、ぼそっと呟いた。

「速水のためを思って言ってるんですよ? 田口先生もわかるでしょ?」


 椎名先生は割り込んできた田口先生にイラッとしたのか、早口でまくしたてる。

「受験は本人の意思ですからね……。速水の不得意は社会と地理だろ? 本気で頑張りたいなら私のところにも聞きにきなさい」

「あ、ありがとうございます……」

 先輩は軽く頭を下げると、職員室を後にした。
 

 先輩がいなくなった途端。
 椎名先生の声色が低くなった。

「受け持ちクラス以外の生徒も気にかけるなんて熱心ですね。……今どき熱血教師なんて流行らないですよ?」

 また馬鹿にしたように鼻で笑う。

「ええ。教師なのでね。生徒が困っていたら、手伝うのが教師の役目でしょう」

 その言葉には強さを感じられた。
 椎名先生は言い返すことなく、気まずそうに空笑いを浮かべて席から離れた。



 私は今まで田口先生を誤解していたかもしれない。
 怖い印象で生徒に寄り添わない先生だと思い込んでいた。

 だけど、実際は他の先生よりも生徒に寄り添おうとしてくれている。

 今日一日、守護霊代行の仕事を通して近くで見ていたから知れた真実だった。
 今まで知っていたオモテの顔と、今日知れたウラの顔。

 
 職員室の窓から空を見ると、夕焼けと夜空が譲り合い、空の様子が1日を終えようとしていた。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

理想の王妃様

青空一夏
児童書・童話
公爵令嬢イライザはフィリップ第一王子とうまれたときから婚約している。 王子は幼いときから、面倒なことはイザベルにやらせていた。 王になっても、それは変わらず‥‥側妃とわがまま遊び放題! で、そんな二人がどーなったか? ざまぁ?ありです。 お気楽にお読みください。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜

himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。 えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。 ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ! ★恋愛ランキング入りしました! 読んでくれた皆様ありがとうございます。 連載希望のコメントをいただきましたので、 連載に向け準備中です。 *他サイトでも公開中 日間総合ランキング2位に入りました!

旦那様に離婚を突きつけられて身を引きましたが妊娠していました。

ゆらゆらぎ
恋愛
ある日、平民出身である侯爵夫人カトリーナは辺境へ行って二ヶ月間会っていない夫、ランドロフから執事を通して離縁届を突きつけられる。元の身分の差を考え気持ちを残しながらも大人しく身を引いたカトリーナ。 実家に戻り、兄の隣国行きについていくことになったが隣国アスファルタ王国に向かう旅の途中、急激に体調を崩したカトリーナは医師の診察を受けることに。

処理中です...