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三章 オモテとウラのカオ
3-1
しおりを挟む正式に守護霊代行の仕事がはじまることになった。
気合をいれようと、ぐっと手を握っていると……。
ポケットにしまっていたsumattiから通知音が鳴る。
柊と別れるときに、渡されたsumatti。
これは死後の世界の連絡手段で、現世で言うとスマホのようなもの。
どうやら担当する人物の詳細が送られてきたみたい。
ドキドキしながら、送られてきた資料を開けてみる。
「え……」
表示された名前を見て、自然と声が出た。
だって、知ってる人の名前だったから。
本日の担当
田口 大和 28歳 男性
職業:桜ヶ丘高校 教師
この名前は知っている。
私が通う桜ヶ丘高校の教師だったから。
3年生を担当する先生で、私とは直接のかかわりはなっかった。
だけど、怖いということで有名な先生なんだ。
いつも怒っているような顔をして、仏頂面で無愛想。それに加えてあまりしゃべらないので、生徒から怖がられている先生。
「田口先生だなんて……苦手なのになぁ」
弱音がとびでてしまった。
学校で一番怖くて近寄りたくなかった先生だもん。
どうしても心が拒否してしまう。
心にずんと重苦しいものが広がっていく。
でも、嫌だと思っても担当するしかない。
「が、がんばろう……!」
正直気が重かったけど、なんとか自分の気持ちを切り替えた。
sumattiに送られてきた情報をもとに、田口先生の家へと向かうことにした。
まだ早朝。街は静かでまるで眠ってるようだった。
大きく深呼吸をして、風と匂いを目一杯吸い込んだ。
「ふわー。やっぱり空気が気持ち良いなぁ」
そんなこと、改めて思ったことなんてなかったなぁ。
死後の世界は匂いや風も感じなかったから、そよりと吹く風が心地良い。
しばらくすると、担当する田口先生の元に辿り着いた。
全面白一色の外壁。シンプルなつくりのアパートだった。
「情報によると、この部屋に田口先生は一人暮らしみたい」
1階の角部屋。104号室。
ごくりと息をのみ、資料に書かれていた部屋の前で無機質なドアを見つめた。
柊に教えてもらったこと。
家に入るときはドアを通り抜けて入るのが、守護霊代行の基本らしい。
基本と言われても、勝手に人の家にはいったことがない私は、すぐに実行に移せなかった。
緊張でドキドキが止まらない胸元をおさえる。
「お、おじゃましまーす」
ぽつりと小さな声で囁いた。
先生には視えてないので、挨拶をする必要はない。
だけど、勝手に人の家に入るのは気が引けたんだ。
ぎゅっと目をつむりながらドアに向かって一歩を踏み出した。
目の前はドアがあったはずなのに。
身体に何かがぶつかったような感覚はない。
ゆっくりと目を開けると……。
景色が変わっていた。足元には靴が何個もバラバラに置かれていて。
部屋を見渡すと、ベッドとテーブルが置いてあった。
そう。ここは田口先生の部屋の中。
するッと体がドアを通り抜けたってこと。
ほ、本当に通り抜けちゃった。
驚きながらも部屋を見渡した。
なにか違和感を感じる。
ん? なんか。なんだか……。
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