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一章 死後の世界に不法侵入⁉︎

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「お父さん、行ってきます」

 

 元気よく挨拶をしたけど、返事は返ってこない。
 部屋の片隅にある小さな仏壇。
 飾られた写真の中で、お父さんは笑っているからだ。

 私の名前は早川未蘭。中学一年生。

 私が生まれてすぐに、病気で死んでしまったってお母さんが言っていた。
 
 記憶にはないお父さんの写真に向かって、毎朝挨拶をするのが日課になってるんだ。

「今日も未蘭を見守っていてください」

 そう言ってお母さんは、仏壇の前になると、いつも悲しそうに笑うんだ。
 
「大丈夫だよ。私、毎日元気いっぱいだから!」

 お母さんを元気づけるように、大きな声で言ってみた。

「行ってきまーす!」

 家を出ていつもと同じ通学路を歩いて学校に向かう。
 お母さんは、仏壇を前にすると、悲しそうに笑うんだけど。
 私にはよくわからなかった。
 だって、私にはお父さんの記憶がないんだもん。
 お母さんが口癖のように言っている「未蘭を見守っていてください」っていうのも、正直よくわからなかった。

 幽霊なんて見えたことがないから、死んだ人が見守ってくれてるっていう話も、信じられないんだ。
 
 そんなことを思っていたら……。
 あちこちから楽し気な声が聞こえてきた。
 通学路の先には、小学校と中学校があるから、この時間は人がたくさん歩いてるんだ。

 私もいつも通り学校に向けて歩いていた。その時だった。
 ふと気づくと気になる小さい人影が見える。

 小学校低学年くらいの女の子が1人、ポツンと立っていた。

 気になって様子を伺ってみたら、瞳いっぱいに涙を溜めて、今にも泣き出しそうな顔をしている。


 あまりにも可哀そうで、キョロキョロと辺りを見回してみたけど、その子の他に同級生らしい子はいなかった。
 それに、道ゆく人は少女に誰も話しかけようとしない。

 どうしよう。私は声を掛けるか迷っていた。
 迷子ではなくただその場にいるだけなのかもしれない。

 だけど、わたしは今にも泣き出しそうな少女をなんだか放っておけなかった。
 つぎの瞬間には、足が動いていた。
 
「どうしたの? 迷子になっちゃった?」

 にこりと笑って優しい声で話しかけてみた。
 女の子は声を掛けられた事に驚いたのか、肩をビクッと震わせた。


 そして、今にも溢れ出てきそうな涙が溜まって瞳がうるうると揺れている。


「だ、大丈夫! お姉さんは怖くないよ?」
 
 今にも泣き出しそうなので、あたふたしてしまう。
 そんな私に、女の子は返事をせず小さく頭を振った。


 迷子じゃないってこと?
 うーん、どうしよう。

 どうしたらいいかわからなくて、少し目を少女から離した。

 次の瞬間。すぐに後悔する。

「あ、ちょっと! 待って!」

 女の子が急に走り出してしまったんだ。
 
 私が慌てたには、理由がある。
 女の子が走ったすぐさきは、車が多く走る車道だったからだ。


 考えるよりも先に私の体が動いた。地面を蹴って女の子を追いかけたけど、小学生の脚力は想像以上に早い。

 無我夢中で追いかけた。そしてなんとか女の子の腕を掴む。

「あっ、危ないっ、からっ……」

 いきなり走って息切れをしていた呼吸を整えた。
 ハア、ハア。よかった。間に合った。

 ほっと胸をなでおろした。
 つぎの瞬間――!

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