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3章
とまどう
しおりを挟む「おはよう」
「おはよー」
朝の挨拶をする生徒達の声が乱雑に飛び交う。
そんな中、誰にも挨拶をされずにいつも通り1人で教室へと向かう。
昨日は思いっきり説教をされた。光希が帰宅した後も、母の機嫌が悪くて家の中の空気はどんよりしていた。
今朝も気まずさを残したまま、家を出てきた。蔵の鍵を無理やり開けて、無断で入り込んだ私たちが悪いので仕方ない。
破り取られた書物のことが気になるが、目をつけられたこともあり、当分の間は蔵に近づけそうにない。呪いを解く方法があるなんて、淡い期待をしてしまった。期待することはもう忘れて、今までの日常に戻るだけだ。
学校の空気を吸いこむと、活気あふれた球技大会のことを思い出した。余韻がまだ残っているおかげで足取りは軽くなる。
ガラッ、ドアを開けて雑談が飛び交う教室へと一歩踏み出す。ガヤガヤと雑談していたクラスメイトの視線が一気に私に向けられる。
突き刺さる視線は、今までと同様だった。
球技大会で少し話したからって、今までとなにが変わるわけないか。
心の片隅にあった淡い期待は瞬時に消えた。
心に鎧を被った。悪口を言われても心が傷つかないように。
悪口を言われる準備は出来た。大丈夫。慣れっこだから。
鎧をまとい、身構えていると、予想していたものとは違う言葉を投げかけられた。
「鬼王さん、球技大会お疲れ様!」
「肩大丈夫だった?」
「シュート上手かったね」
「女子バスケの得点王!」
耳を疑った。私に向かって放たれた言葉は、悪口や中傷ではなかったからだ。
「え、」
あたたかい言葉に慣れていない私は戸惑いを隠しきれない。
優しくあたたかい言葉達は私に向かられてるはずがない。と後ろを振り返ったり辺りをキョロキョロしてしまう。
「みんな、鬼王さんに言ってるんだよ」
挙動不審な様子をみて、私の気持ちを察してくれた一ノ瀬さんが教えてくれた。
みんなが私に話しかけてくれている。
悪い意味ではなく、注目されているのも急に恥ずかしくなる。どこかに身を隠したいくらいだった。
クラスメイトから悪意のない視線を向けられるのは初めてだ。気恥ずかしい気持ちを乗り越えて、自分の気持ちを精一杯声に出す。
「きゅ、球技大会に、さ、参加させてくれてありがとう」
盛大に噛んだ。ドキドキと緊張で心臓がはち切れそうな中、自分の気持ちをなんとか言語化出来た。
反応が怖くて目を固く瞑った。返答がなかなか耳に届かず、失言をしてしまったかと不安が襲ってくる。
おそるおそる顔を上げると、クラスメイトの気まずそうな顔が視界に飛び込んできた。
「勝てたのは鬼王さんのおかげだしね」
「お礼を言うのは、俺らっていうか……」
「うん、なんか……」
「球技大会に参加してくれてありがとう」
「あと、謝りたい事あるっていうか……」
「その、今まで酷いことしてごめん」
あちこちから聞こえる声と共に、まず頭を下げたのはクラスの中心にいる目立つ男子だった。謝率先して私にいじめをしていた人物でもある。
「私も嫌がらせをしてごめんなさい」
「俺、机に落書きした。ごめん」
「私は酷いことを、わざと聞こえるように言った。ごめんなさい」
次々と謝罪の言葉が聞こえてくる。予想をしていなかった展開にコミュ障が発動して、挙動不審になる。
なんて返せばいいのだろう。教室は何とも言えない異様な空気に包まれる。
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