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3章
あたたかい涙
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叔父さんの働く病院に着くと、病院特有の消毒の匂いが鼻に残った。この匂いは昔から嫌いじゃない。
叔父さんは本来内科医なのだが、わたしの事は医師も嫌がり診てくれないので、整形外科医の代わりに診察してくれる。本来の内科の診察が終わってから、診てもらえるということだったので、病院の待合室の人目の少ないところで待つことになった。
そんな私を横目に見て、ヒソヒソと話す人達は多かった。これだから病院は嫌いだ。鬼の子の光希はもちろん有名だ。今日は隣に光希がいることで、悪口や中傷の数は少ない。
待合室で長い待ち時間の後、診察室へと通された。診察室には一段と消毒の匂いが強くて鼻に残る。
「だいぶ内出血してるけど、レントゲンで見るには骨は折れてないようだね。湿布貼って様子を見てみよう」
「叔父さん、ありがとう」
今もジンジンと鈍い痛みがある肩は、ただの打撲で良かった。安堵の溜め息が自然と漏れた。
「それにしても、光希から連絡来た時は驚いたよ。花純が球技大会で怪我したっていうから。」
「叔父さん忙しいのに、ごめんね」
「全然いいよ。良かったな。球技大会に参加出来て」
叔父さんは優しく微笑んでくれた。叔母さんや光希の高圧的な口調と違い、話し方もゆっくりで性格が穏やかな人だ。その優しさのせいで、叔母さんに主導権を握られ、逆らえないというのは欠点でもある。
「花純、表情が柔らかくなったね?」
「え、そう?」
「笑顔が自然で、笑う回数が増えたよ」
自分では全く気づかなかった。叔父さんに指摘されて、初めて気づかされた。
「うん。実は今日初めて高校生活が楽しいと思えたんだ。ドラマや漫画でしか見たことがなかった学園生活が、自分の目の前で起きててね……」
優しい叔父さんになら、胸の内を話してもいいと思えた。相槌を打ちながら聞いていた叔父さんは目頭を押さえて、嗚咽の声が漏れ出した。
「お、叔父さん?」
いきなり泣き出したので、私は驚いてあたふたする。
「良かった……花純、よかったね」
どうやら叔父さんは、私が高校生活が楽しかったと言ったことが嬉しくて泣いているらしい。
私のことで泣いている叔父さんを見て、なんともいえない幸福な気持ちになる。
コンコン。
診察室のドアがノックされ、光希が大きな溜息を漏らしながら、呆れた顔で立っている。
「親父、遅いと思ったら何泣いてんの?」
「花純、高校生活が楽しいって……叔父さん、その言葉を聞けたのが嬉しくて……だって、あの花純が……うぅ」
「あー。はいはい。ジジィの「だって」はやめてくれ。クソキモい。母さんにバレたらまた怒鳴られるよ?」
「そ、それは……光希言わない、でくれ」
「小遣い」
「……取引成立だ」
やはり叔母さんに頭が上がらないらしい。
「花純、帰るぞ」
「うん。叔父さんありがとうね」
「花純、本当に良かったな。本当に……」
また泣き出してしまった叔父さんを残して、私達は病院を後にした。
叔父さんは本来内科医なのだが、わたしの事は医師も嫌がり診てくれないので、整形外科医の代わりに診察してくれる。本来の内科の診察が終わってから、診てもらえるということだったので、病院の待合室の人目の少ないところで待つことになった。
そんな私を横目に見て、ヒソヒソと話す人達は多かった。これだから病院は嫌いだ。鬼の子の光希はもちろん有名だ。今日は隣に光希がいることで、悪口や中傷の数は少ない。
待合室で長い待ち時間の後、診察室へと通された。診察室には一段と消毒の匂いが強くて鼻に残る。
「だいぶ内出血してるけど、レントゲンで見るには骨は折れてないようだね。湿布貼って様子を見てみよう」
「叔父さん、ありがとう」
今もジンジンと鈍い痛みがある肩は、ただの打撲で良かった。安堵の溜め息が自然と漏れた。
「それにしても、光希から連絡来た時は驚いたよ。花純が球技大会で怪我したっていうから。」
「叔父さん忙しいのに、ごめんね」
「全然いいよ。良かったな。球技大会に参加出来て」
叔父さんは優しく微笑んでくれた。叔母さんや光希の高圧的な口調と違い、話し方もゆっくりで性格が穏やかな人だ。その優しさのせいで、叔母さんに主導権を握られ、逆らえないというのは欠点でもある。
「花純、表情が柔らかくなったね?」
「え、そう?」
「笑顔が自然で、笑う回数が増えたよ」
自分では全く気づかなかった。叔父さんに指摘されて、初めて気づかされた。
「うん。実は今日初めて高校生活が楽しいと思えたんだ。ドラマや漫画でしか見たことがなかった学園生活が、自分の目の前で起きててね……」
優しい叔父さんになら、胸の内を話してもいいと思えた。相槌を打ちながら聞いていた叔父さんは目頭を押さえて、嗚咽の声が漏れ出した。
「お、叔父さん?」
いきなり泣き出したので、私は驚いてあたふたする。
「良かった……花純、よかったね」
どうやら叔父さんは、私が高校生活が楽しかったと言ったことが嬉しくて泣いているらしい。
私のことで泣いている叔父さんを見て、なんともいえない幸福な気持ちになる。
コンコン。
診察室のドアがノックされ、光希が大きな溜息を漏らしながら、呆れた顔で立っている。
「親父、遅いと思ったら何泣いてんの?」
「花純、高校生活が楽しいって……叔父さん、その言葉を聞けたのが嬉しくて……だって、あの花純が……うぅ」
「あー。はいはい。ジジィの「だって」はやめてくれ。クソキモい。母さんにバレたらまた怒鳴られるよ?」
「そ、それは……光希言わない、でくれ」
「小遣い」
「……取引成立だ」
やはり叔母さんに頭が上がらないらしい。
「花純、帰るぞ」
「うん。叔父さんありがとうね」
「花純、本当に良かったな。本当に……」
また泣き出してしまった叔父さんを残して、私達は病院を後にした。
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