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2章
はじめての球技大会
しおりを挟む球技大会当日。
爽やかな秋晴れの日だった。澄んだ空に心地よい風が吹き、1年中この気候だったらいいのに。と思わせてくれる。学校指定の男女ともに紺色の体操着を着て、口元にはマスクを装着。しっかり唇をガードする。
邪な感情は一旦置いておく。球技大会に専念しようと決意した。
準備万端。気合い十分。
決意と共に気合いは十分だけど、友達が誰もいないので、もちろんその気合いに誰も気づいてはくれない。
いつも通り、ポツンと1人で目の前で行われている競技に、心の中で声援を送る。
それでも心は弾んでいた。今までの球技大会は遠くから見ているだけか、保健室で寝ているだけだった。今年は違う。鬼の子の私も参加できるので、少しでもクラスの役に立とうと、心の中で再び気合を入れた。
球技大会に参加出来るようになったのは、綱くんのおかけだ。バスケの試合が始まる前に、お礼を直接伝えたかった。球技大会で浮き立つ生徒が溢れかえる中、キョロキョロと辺りを見回して、姿を探していた。
今日は朝から綱くんの姿を見ていない。
球技大会、乗り気じゃなさそうだったし、休んだのかな。
バスケの練習付き合ってくれて「ありがとう」って伝えたかったなあ。
「あ、いたいた。鬼王さん。もうすぐ、バスケの試合始まるから、こっちにきて」
遠くから手招きをしているのは、クラスメイトの女子だった。
種目決め以降、嫌がらせも悪口を言われることもなくなったが、クラスメイトと打ち解けたわけではない。緊張で肩に力が入る。
「私にきたボールは、バンバン鬼王さんに渡すから。ボール奪われたら、敵チームにディフェンスしてもいいよ? 面白そう」
口を開けて笑った。意地悪に笑いながら話す彼女は、思ってたより子供っぽく見えて可愛らしかった。
「ディ、ディフェンスは……こ、怖がらせちゃうから――ダ、ダメだよ」
盛大に噛んだ。悪口や中傷を言われ続けて心にトラウマを抱える私は、クラスメイトと話すのに緊張してしまって上手く喋れなくなる。
「ふふっ。冗談だよ」
体育館に足を踏み入れると、沸き立つ歓声に飛び交う雑談の声、バスケットボールが弾む音、卓球台の上で跳ねる球の音。甲高いホイッスルの音。さまざまな音が入り混じり、活気に満ち溢れていた。
体育館で行われる競技は、バスケットボールと卓球だ。自分のクラスの順番が近づいて来て、緊張感がどんどん高まる。
ピ――。
「次の試合に出る生徒は準備してください」
鳴り響くホイッスルの音と、準備を呼びかける係の人の声が響く。一気に緊張感が走る。
人生初めての球技大会。試合が始まろうとしていた。
球技大会はクラス対抗。試合の相手は3年C組。同じ3年生同士での試合だった。
「宜しくお願いします」
「宜しくお願いします」
試合開始のホイッスルと共に、互いに挨拶を交わして試合が始まる。
「C組頑張れ――」
「負けるな――」
「まずは、1点取ろう!」
応援の声や歓声があちこちから飛び交っている。歓声と雑音が入り混じり、体育館は熱気に包まれていた。
バスケコート内の生徒はピリついていて、緊張感が伝わってくる。試合が始まったのだと実感させられる。
私は体育の授業も暗黙の了解で見学していた。
すなわち、バスケはしたことがあっても、バスケの試合をした事は人生で一度もなかった。
初めてのバスケの試合への不安。それに加えて、相手チームから突き刺さる悪意溢れる私への視線。私はその場の空気感に圧倒され、体が固まってしまった。
予想以上の試合への歓声と、自分へ向けられる鋭い視線に、緊張は自分のキャパを超えていて爆発寸前だった。
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