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2章
絡みつくしがらみ
しおりを挟む「……」
「俺、今死んでもいいからさ、実験台にしていいよ?」
「簡単に死んでもいいなんて、冗談でも言わないでよ……」
「冗談で言ってない。……俺死にたがりだから」
そう言った綱くんの瞳は今まで見たことないくらい冷たくて、少し怖かった。触れたいのに、触れてはいけないような。
「……」
「だから、考えておいて? 俺本気だから」
そう言ってすぐ視線を逸らして俯いたので、綱くんの表情が見えない。
「俺からも質問していいか?」
「う、うん」
「昨日なにがあった?」
やはり彼にはお見通しだった。
「えっと」
「言いたくないなら言わなくてもいいけど。人に言って楽になることもあるよ?」
「……聞いていて嫌な気持ちになるかもしれないけど、聞いてくれる?」
私は勇気を振り絞って話そうと思った。
鬼王家のこと。昨日叔母さんに言われたこと。ゆっくりと言葉に詰まりながらも説明をした。綱くんは相槌を打ちながら真剣に聞いてくれた。すべて聞き終えると、深いため息を吐いた。
「なんだよ。それ……。なんで花純の未来まで決める権利あんの? 毒親って言うんじゃねーか?」
「毒親……」
「毒叔母か? そもそも、花純の家は古くからのしきたりが強すぎて、毒親というより全てのしがらみが絡んでくるんだな」
「そう、だね。普通の家とは少し違うかも……」
「しがらみを脱ぎ捨てて、逃げられたらいいのにな」
「綱くんも……しがらみがあるの?」
「あー。絡みついて離れない」
「それって……」
「でもさ、大人になってもいいなりになることないと思う。鬼王家のしきたりも、叔母さんの考えも、花純が違うな。と思ったら、それが正解だから」
聞こうとした質問を遮られた。会話をけん制されて気がして、それ以上は聞けなかった。
彼の言葉は心にスーッと染み込んでいくようだ。荒れた心は少し軽くなった気がする。
「あ、ありがとう」
「今の俺には何もできないなー。こういうとき大人じゃないって実感して、歯がゆいな」
「あ、あの、なんかね、話を聞いてもらって……。それで今、心が軽くなった」
「そっか? それは少しは役に立てたってことかな」
私は誰かに話を聞いて欲しかったのかもしれない。いつも私の意見は否定、拒否され続けてきた。共感されると心が軽くなるということを初めて実感した。
「ってか、花純は優しいんだな。俺だったら気に食わない奴全員にキスして、殺しちゃうかも」
「そ、それは……大量殺人鬼になっちゃう」
「完全犯罪もできるんじゃね?」
「な、なんでそんなこと言うの?」
「ははっ冗談だよ。そんなマジな顔すんなよ」
「冗談か……。よかった」
口を開けて笑う姿を見て安心した。真剣に提案されても、殺人の提案には乗れそうにないから。
「花純は優しいな」
「え?」
「だーかーら、花純は優しいねって言ってんの」
綱くんの表情1つに惹かれていく。彼には人を引き付ける何かがあった。
その後は、綱くんの家族の話を聞いたり、きっと何気ない会話をしていたと思う。
覚えていることといえば、この時間が終わってほしくない。そう感じていた。
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