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26 伯爵と過ごす熱い夜
しおりを挟む「……抱くなら、さっさとしろよ。俺も、声出さないようにするから」
即物的な欲求に駆られて、俺はそう応じていた。
メディス伯爵は、このマルニック王国の支配階級としての立場を守ることよりも、俺といまここで抱き合いたいと言う。
そういう要求のほうが、理解できる。
さっきの『愛している』っていうビックリ告白よりも、『抱きたい』って言われるほうが俺にとっては百万倍もわかりやすかった。
だって、言葉なんてなんの証拠にもならない。
男が口にする愛なんて、人によっては挨拶みたいなもの。
それがメディス伯爵にとってもそうかどうかは知らないけれど、相手を唆すときだけ上辺だけの美しい言葉を使う輩がいるのが現実だ。
だから、再びヤツに噛みつくような激しいキスをした。
言葉より体でお前の想いを伝えてみろ。
そんな意思表示のために――。
「んッ……」
夜の静寂に紛れ、抑え切れない声が漏れ出る。
俺は地面にひいた天鵞絨のマントの上に四つん這いになり、後ろからヤツを受け入れていた。
尻を高く掲げて動物のように交わる形は、俺の被虐心を満足させた。
肉体の昂ぶりよりも、このシチュエーションに官能が燃え上がってくる。
前戯もほぼナシで、彼を受け入れているのだ。
ここ一週間近く、性的な関係は誰ともしていない……なのに、メディス伯爵の昂ぶりに触れただけで、本来、男を受け入れる機能のない部分が欲情に潤んだ。
そして、まるで色情狂の女のように『犯してくれ』と頼んでいた。
「どうしました……? 声は出さないって、さっき言っていたじゃないですか?」
一週間ぶりに味わう伯爵の熱さと、硬さ……そして、激しい勢いを俺は堪能し、既に二度も白濁を放出していた。
誰に見られるかわからない外での交情は、彼にとっても刺激的らしい。
前にベッドで抱かれたときよりも荒々しく、俺のことを扱ってくる。
上品な振る舞いに覆い隠しているが、こいつも男だ。
アルファだろうが貴族だろうが、発情期のオメガを前にすれば、理性を失ってしまうただの雄に成り下がる。
そんなセックスのときにだけ見え隠れする伯爵の獣性を知るのは、この世で俺だけなのかもしれない。
そう思うだけで妙な昂ぶりと多幸感に惑わされ、すぐに達してしまいそうになる。
「ウソつきですね、君は……!」
「ヒ……ッ」
両肘で体を支えていたが、思いがけぬ激しい突き上げに俺はマントの上に崩れ落ちる。
布越しに、ゴツゴツした石の感触が頬に当たった。
「私のことも……、子どもの頃の約束も忘れていたくせに……!」
怒りを孕んだ声に、腰を打ちつける打擲音が混ざる。
灼熱に膨れ上がった肉芯が、俺の内側を抉るような動きを繰り返した。
「んッ、んーっ……!」
自分の服の袖を噛んで声を押し殺していたが、すさまじい快感に理性のたがが外れてしまう。
俺の奥底にある男以外の『性』が激しい責めに歓喜し、女みたいに濡れながらヤツをきつく締めつけていく。
俺自身が自分の肉体の開花に気づくくらいだから、俺と交わっている相手は身をもって感じるのだろう。
メディス伯爵は、掠れた声で呻きを放った。
「あッ、そんなに締めつけ、たら……!」
切迫感のある声に、さらに俺の情欲は加速していく。
「うッ……やりたく、て、やってるわけ……じゃあ、ねーしッ……!」
途切れ途切れの反論に、伯爵の哄笑が聞こえた。
「ふふ……、声がうわずっていますよ。君も、感じているんでしょう?」
「クッ、うるせー!」
「淫乱な子ですね……私以外とこんなことをしないよう、体に知らしめないと……!」
そう言われ、尻を打たれる。
「……あッ!」
唐突に与えられた刺激に、俺は呻いた。
夜の闇に響く、パシ、パシッというあやしげな打擲音。それと同時にもたらされる微かな痛みは、肌の火照りと肉欲の疼きを呼び起こす。
肉体の内側を支配される感覚と、熱っぽい肌を打たれる感覚……これまで知らなかった被虐的な欲を掻き立てられ、俺の理性はすっかり溶けてしまっていた。
「あんッ、もっと……! もっと、打って……!」
「淫乱なだけじゃないですね……打たれて感じるなんて」
そんな言葉にさえも、浅ましく興奮してしまう自分がイヤだ。
「こっちを向きなさい、シェリル」
命令のままに、俺は後ろを向いた。
月明かりに照らされた伯爵は、俺を深々と犯しながら淫靡な笑みを口元に浮かべていた。
「美しい……感じている君は、どんな美女よりも淫らで悩ましい」
「……あ、ひッ、ああッ!」
自分の雄を握り込まれて、俺は悲鳴した。
限界まで張り詰めているソレは、熱を持ちながらも夜の冷気に晒されて何とか踏みとどまっていた。
しかし、伯爵がねっとりとした手つきで触ってきたから、暴発しそうになる。
「あ……や、やだッ……!!」
「やだ? こんなにいやらしい液でぐっしょりなのに?」
「アッ、はぁ、んん……っ!」
濡れそぼる先端をほんの少しいじられるだけで、全身に甘い痺れが走った。
「こうされるのが、好きなんですね?」
「んっ、あぅ……!」
自分で頷く前に、屹立を含まされた隘路がうねる。
その動きに、彼の秀麗な顔が歪んだ。
「……クッ……感じすぎ、ですよ……!」
「ん……ぁ、ああッ!」
「もう、我慢できません……! もっと、腰をあげなさい」
今の俺は、メディス伯爵の奴隷だ。
主の言うことは絶対だから、言われるがままに限界まで尻を突き上げた。
「いい子ですね……よく見えますよ」
「なに、が……?」
小声で尋ねながら、後ろを振り向く。
「……君と私が、つながっているところが」
伯爵は好色な笑みを浮かべていた。
つながっている部分を凝視されると、羞恥で顔まで熱くなってくる。
「ッ……」
「屈辱に歪む顔も、すごくステキですよ。君はなんてキレイなんだ……」
うっとりしたように囁く伯爵に、俺は眉を顰める。
「この、変態、野郎……! 幼児趣味だけじゃなくて、とてつもないサディストだし! っつーか、さっさとイかせろよ!」
吐き捨てるように言うと、彼は俺の分身をなぶりながら律動を再開する。
「ん……あッ」
激しい突き上げに、寸止めされていた肉欲は一気に爆発しそうだった。
「どうですか……? こっちもいじってあげましょうか?」
「ヒッ、ああ……んッ」
先端だけじゃなく、全体を擦られると気絶しそうな快感が全身を駆け抜ける。
「ひ、ィ……ッ! イク……、イっちゃうッ……!」
「シェリル……! わ、たしも……」
何度目かに湧き起こったエクスタシーに翻弄され、俺は叫びながら吐精する。
それに僅かに遅れるようにして、伯爵も俺の内部におびただしい量の精液を注ぎ込んだ。
――木々が夜風にそよぐ音以外にこの闇の中にあるのは、俺たちの荒い息づかいだけ。
心地よい疲労感にマントに横向きに寝転んでいた俺だったが、唐突に足を抱え上げられていた。
「お、おい……! まだ、ヤルのかよ?」
「私は、まだ満足していませんからね」
月の光を浴びて、蠱惑的に微笑むメディス伯爵はまるで美しい悪魔のよう。
俺の理性を乱すばかりではなく、鎮火した肉体の火照りも再び引き起こす。
そう言えば、コイツは魔法使いだった。
変な薬を作ったり妙な魔法を繰り出したりすることができるんだから、俺を魅惑するのもコイツの魔法のせいかもしれない。
足を抱え上げられて、過敏になっている粘膜部分に灼熱の欲望を感じると、身の裡に堪えきれない疼きが湧き起こった。
「あッ……熱い……」
「それは、私だけじゃないでしょう?」
ゆるりと、彼の手が俺の屹立を掴む。
この上なく熱くなっている俺の分身を撫でさすり、再び透明な蜜を溢れ出させている先端をいじられる。
「あ……、やだ……ッ」
我慢できなくなって、俺は物欲しそうに腰をうねらせた。
「畜生……! もう一回、責任とってイかせろよー!」
「言われなくても、そうするつもりですから」
至近距離で囁かれると、一層体が火照った。
俺たちの嬌態を見るのは、冴え冴えとした月だけ。
マルトでの最後の夜、声を押し殺すことさえ忘れて、俺たちは夜が明けるまで貪り合うことになった――。
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