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87 寝取り令嬢は恐怖に怯える(2)

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「ほぉ……そうかい、そうかい」
「……なにかわかったの!?」
 身を乗り出すわたくしに、彼女は勿体ぶった笑みを浮かべる。
「そうだねぇ。どうやら、あんたが嫌いなお嬢さんは、すごくきらびやかな場所に招かれているようだよ?」
「きらびやかって、高位貴族の屋敷かしら?」
「どうだろうねぇ……あれまぁ! 国王陛下がいるじゃないか。これは王宮じゃないのかい?」
「王宮……!? そんな馬鹿な!」
 魔女が嘘をついていると思ったけれど、彼女はわたくしに水晶玉を差し出してきた。
「ほら、あんたも見ればいいさ。あんただって、国王陛下の顔くらい新聞や何かで知っているだろう?」
 覗いてみると、本当に小さいが絢爛豪華な室内が見える。
 王冠を被った国王陛下の前にいるのは、エルフィネス伯爵夫妻とカタリナ……!
(いったい、何の謁見をしているというの?)
 わたくしは、あの一家が王都に行ったのは縁談のためだと思っていた。
 しかし、よく考えてみるとふつうの貴族同士の縁談であれば、求婚者のほうが令嬢の屋敷に足を運ぶのが当然ではないだろうか?
 それをせずに令嬢の家族がわざわざ王都に向かうということは、相手はよほどの高位の貴族……王家の血筋を引く者ということになる。
 このベルクロン王国のしきたりで、王子は王宮の外で自分の身分を知らずに暮らし、一定の時期になったら王太子を決めて他の王子たちはそれ相応の領地を得る。
「……カタリナの縁談の相手って王子なの……!?」
 わたくしが漏らした悔しそうな声に、魔女が手元にあるタロットカードをシャッフルして一枚を引いた。
「ふぅん……面白いね。あんたの予想は当たっているよ」
「えっ」
 魔女はわたくしの前に、人物が描かれたカードを見せてきた。
 カップを手にした白馬の騎士が描かれている。
「このカードはね、あんたが嫌っているお嬢さんにとって理想的な求婚者ってことさ。誠実な恋愛ができるっていう相手だね……二人は理想的な結婚をするだろうよ」
 それを聞いて、イライラしてくる。
 なぜ、いくら彼女から大事なものを奪っても、彼女はわたくしが持つもの以上のものを手に入れられるの?
 生まれつきの強運に恵まれるのが、なぜわたくしじゃなくてあの子なんだろう?
「……ねぇ。どうすれば、あの子の幸せを壊すことができる?」
 屈辱感に震えながら、わたくしは魔女に尋ねた。
「それは、むずかしいだろうねぇ。これまで何度も介入して壊れないのだから、何かしらの守護があると思うよ」
「それを何とか……!」
「言っておくけどね、そういう暗い感情を持ち続けていると、あんたには災厄が降り注いでしまうからね」
 カードをシャッフルして、引いた一枚を彼女はわたくしの目の前につきつけてきた。
「こ、これは……」
 雷に打たれて高い塔が崩れ落ち、人が真っ逆さまに落ちていく絵――そんな不気味なカードを見せられたわたくしは、言葉を失った。
「あんたの近未来さ。この塔の窓から落ちていくのがあんただよ」
「そ、そんなはずがないでしょう……!?」
「いや、もう崩壊の足音が聞こえているよ。せめて、命だけは失わないように気をつけないとねぇ……ふっふっふっ」
 不気味な笑い声を聞いて、わたくしは震えながらその場を立ち去った。
(そんなこと……そんなことは、信じないわよ……!!)
 そう思っているのに、魔女の館が見えなくなってからも、あの不気味な絵柄は脳裏に焼きついて離れそうになかった。

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