86 / 93
86 寝取り令嬢は恐怖に怯える(1)
しおりを挟むいったい、これはどういうことかしら?
買収した侍女から、カタリナがまた王都に行ったという情報が入ったの。
なぜ、そんなことが許されるのか理解できないわ。
間違いなく、エルフィネス伯爵には魔女の悪夢を見せたはず。王都に居続ければ娘は未婚の令嬢としての評判を落とし、名門貴族の家門の恥になるって。
それなのに、なぜ……!?
「……そこまでの話は、私は存じ上げませんわ。ただ突然、旦那様も奥様もうれしそうなご様子でお出かけになりまして……」
わたくしの剣幕に、侍女はおどおどしながら状況を説明してくる。
「カタリナは、どんな様子だったの?」
「それが……お嬢様だけは、浮かないお顔をされておりましたわ……」
彼女の話から推測するに、カタリナは王都に行ったからといって元通りの生活を送れるわけではなさそうだ。
エルフィネス伯爵夫妻が喜んでいるのに、カタリナはそうではないということが何よりの証拠。
もしかしたら、いい縁談が舞い込んできたのではないかしら?
だって、伯爵はユーレック子爵を警戒しているはず。
それなのに、わざわざ彼がいる王都に行くなんて、それ以外の何が考えられるだろう?
いずれにしても、伯爵夫妻が喜んでいるっていうことは、それなりの家門の貴族との縁談に違いない。
(まったく、腹が立つわね……相手はいったい誰なのかしら?)
悔しい気持ちを噛みしめながら、わたくしは自分がどうするべきかを考えた。
「……なかなか、あんたの悩みは解決しないんだねぇ」
開口一番、魔女はそう言ってきた。
ここはベルンの裏通りにある「魔女の館」のオーナーの部屋。
猫アレルギーのわたくしは、この部屋に入るときから口にハンカチを押し当てていたが、どうやら前にいた黒猫は優雅に散歩中らしく、鼻のムズムズやくしゃみは出てこない。
しかし、ホッとするのはまだ早かった。
今日の本題は、黒猫がいるかいないかではない……カタリナの今後を占ってもらって、それからどういう手段で彼女を追い落とすかを考えなければ。
用件を伝え終わると、魔女は呆れたようにわたくしを眺めた。
「お嬢さん、最近のあんたは本当によくわからないよ」
「何がかしら?」
「最初はね、その婚約者が好きだから相手から奪おうっていうのは理解できたさ。でも、いまは何だい? 婚約者がどうこうじゃなくて、とにかくその婚約破棄されたお嬢さんを出し抜きたいだけじゃないか」
そう言われてみれば、たしかにそうかもしれない。
でも、ここまで来たら、もう止められないのよ。
だって、わたくしよりも彼女が幸せになるなんて許せないもの。
あんな取り柄がなくてダサい子が王都に行った途端、キラキラし始めたのが気に入らないわ。
婚約破棄したのにもかかわらず、フィリップの心を掴んだまま。しかも、素敵な殿方を射止めて、カフェ事業を成功させているのも腹立たしい。
フィリップがわたくしをきちんと見てくれたら、こんな惨めな気分にならないと思う……でも、わたくしが南部に戻ってから彼からは手紙の返事さえも戻って来ない。
しがない役人なんだから、忙しいなんていう言い訳は聞かないわ。
無言のままで悩んでいるわたくしを見て、魔女は肩を竦めた。
「さて……今日は、あたしはあんたに何をすればいいんだい?」
「とりあえず、わたくしを苦しめている女がどう過ごしているかを見てほしいわ」
「わかったよ。じゃあ、これで見ようかねぇ」
そう言って、傍らにあった水晶玉を手繰り寄せ、上にかけられていた黒い布を取った。
魔女が手を翳すと、水晶玉は不気味な光を帯びていく。
48
お気に入りに追加
341
あなたにおすすめの小説
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜
光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。
それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。
自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。
隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。
それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。
私のことは私で何とかします。
ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。
魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。
もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ?
これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。
表紙はPhoto AC様よりお借りしております。
実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います
榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。
なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね?
【ご報告】
書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m
発売日等は現在調整中です。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。

【完結済】平凡令嬢はぼんやり令息の世話をしたくない
天知 カナイ
恋愛
【完結済 全24話】ヘイデン侯爵の嫡男ロレアントは容姿端麗、頭脳明晰、魔法力に満ちた超優良物件だ。周りの貴族子女はこぞって彼に近づきたがる。だが、ロレアントの傍でいつも世話を焼いているのは、見た目も地味でとりたてて特長もないリオ―チェだ。ロレアントは全てにおいて秀でているが、少し生活能力が薄く、いつもぼんやりとしている。国都にあるタウンハウスが隣だった縁で幼馴染として育ったのだが、ロレアントの母が亡くなる時「ロレンはぼんやりしているから、リオが面倒見てあげてね」と頼んだので、律義にリオ―チェはそれを守り何くれとなくロレアントの世話をしていた。
だが、それが気にくわない人々はたくさんいて様々にリオ―チェに対し嫌がらせをしてくる。だんだんそれに疲れてきたリオーチェは‥。
この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~
柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。
家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。
そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。
というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。
けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。
そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。
ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。
それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。
そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。
一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。
これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。
他サイトでも掲載中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる