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79 なぜ、あなたがここにいるの?(1)
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玉座の隣に佇むのは、すらりとした長身の青年。
物静かな美貌、静謐な湖のような瞳の色、口元にうっすらと笑みを形作り、私たちのほうを見つめていた。
(王子殿下を紹介する場所に、なぜ彼が……?)
夢か何か見ているのではないかと思って、私は目を擦った。
そんな私の仕種に、彼は眦を下げて魅惑的な視線を送ってくる。
しかし、彼の登場に疑念を感じたのは、私だけではない。
エルフィネス伯爵は慌てた様子で、国王と彼の顔を見比べた。
「国王陛下……その方は……!」
「エルフィネス伯爵が驚くのも無理はない。どうやら、息子は伯爵にも会ったことがあるようだから……王子よ。挨拶をするがいい」
そう言われた王子殿下は、高座から降りて私たちと目線を合わせた。
「ごきげんよう、エルフィネス伯爵。私がカタリナお嬢様に求婚状を差し上げた、リオネル・デ・ベルクロン……ベルクロン王国の第二王子です」
「……あ、あなた様が第二王子殿下でしたか……! 先日は、とんだ失礼を働いてしまい大変申し訳ございませんでした!」
震える声で、伯爵はそう言うと深々と頭を下げた。
「顔を上げてください。こちらも身分を隠しているのですから、仕方がありませんよ。それどころか、自分の出自を知ったのも最近のことですし……」
そう伯爵を宥めるリオネル様を見て、私はもう一度目を擦った。
そして、これがどういう状況なのか、ようやくわかる。
リオネル様のお母様は、貴族の男性と恋に落ちて彼を身籠った。
身分差があることと相手が既婚者だということで、未婚のままでリオネル様を育てたと聞いている。
しかし、その「身分差がある、既婚の貴族男性」が、ベルクロン王国の国王だったとは!
思い返せば、お母様は平民でありながら王室御用達の調香師になっているし、賃貸の許可を得るのがむずかしい王都の一等地で香水店をやっている。
……が、それだけで国王とのつながりを類推するのは困難だ。
まだ頭の中が混乱している状態だが、それはエルフィネス伯爵夫妻も同じだろう。
リオネル様は、私を見て
「カタリナお嬢様にも言わねばならないと思いつつ、先延ばしにしてしまって申し訳ございませんでした。突然、王宮から求婚状がきて、さぞかし驚かれたでしょう?」
「……わたくしは、リオネル様が求婚者だと知って、正直ほっとしておりますわ」
「そう言っていただけて、うれしいです。あなたは、出自に囚われず私のことを見てくれた数少ない人ですから……」
青い瞳に魅入られるかのように、私はリオネル様を見つめた。
さっきまで心を煩わせていた深い霧が、どんどんと晴れ渡っていく。
私にとって、彼の身分が平民でも王子でも関係ない。
愛する相手と共にいる権利が奪われないなら、リオネル様が何者であってもいいと思っている。
彼が私に見せてくれるやさしさや気遣い。お母様とリオネル様と過ごした穏やかで楽しい時間――自分の目で見て、自分の感覚で判断した彼に恋をしたのだから、それだけで十分だ。
ひと月ぶりに会う私たちは、周りの視線を気にすることなく、微笑みながら見つめ合っていた。
物静かな美貌、静謐な湖のような瞳の色、口元にうっすらと笑みを形作り、私たちのほうを見つめていた。
(王子殿下を紹介する場所に、なぜ彼が……?)
夢か何か見ているのではないかと思って、私は目を擦った。
そんな私の仕種に、彼は眦を下げて魅惑的な視線を送ってくる。
しかし、彼の登場に疑念を感じたのは、私だけではない。
エルフィネス伯爵は慌てた様子で、国王と彼の顔を見比べた。
「国王陛下……その方は……!」
「エルフィネス伯爵が驚くのも無理はない。どうやら、息子は伯爵にも会ったことがあるようだから……王子よ。挨拶をするがいい」
そう言われた王子殿下は、高座から降りて私たちと目線を合わせた。
「ごきげんよう、エルフィネス伯爵。私がカタリナお嬢様に求婚状を差し上げた、リオネル・デ・ベルクロン……ベルクロン王国の第二王子です」
「……あ、あなた様が第二王子殿下でしたか……! 先日は、とんだ失礼を働いてしまい大変申し訳ございませんでした!」
震える声で、伯爵はそう言うと深々と頭を下げた。
「顔を上げてください。こちらも身分を隠しているのですから、仕方がありませんよ。それどころか、自分の出自を知ったのも最近のことですし……」
そう伯爵を宥めるリオネル様を見て、私はもう一度目を擦った。
そして、これがどういう状況なのか、ようやくわかる。
リオネル様のお母様は、貴族の男性と恋に落ちて彼を身籠った。
身分差があることと相手が既婚者だということで、未婚のままでリオネル様を育てたと聞いている。
しかし、その「身分差がある、既婚の貴族男性」が、ベルクロン王国の国王だったとは!
思い返せば、お母様は平民でありながら王室御用達の調香師になっているし、賃貸の許可を得るのがむずかしい王都の一等地で香水店をやっている。
……が、それだけで国王とのつながりを類推するのは困難だ。
まだ頭の中が混乱している状態だが、それはエルフィネス伯爵夫妻も同じだろう。
リオネル様は、私を見て
「カタリナお嬢様にも言わねばならないと思いつつ、先延ばしにしてしまって申し訳ございませんでした。突然、王宮から求婚状がきて、さぞかし驚かれたでしょう?」
「……わたくしは、リオネル様が求婚者だと知って、正直ほっとしておりますわ」
「そう言っていただけて、うれしいです。あなたは、出自に囚われず私のことを見てくれた数少ない人ですから……」
青い瞳に魅入られるかのように、私はリオネル様を見つめた。
さっきまで心を煩わせていた深い霧が、どんどんと晴れ渡っていく。
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彼が私に見せてくれるやさしさや気遣い。お母様とリオネル様と過ごした穏やかで楽しい時間――自分の目で見て、自分の感覚で判断した彼に恋をしたのだから、それだけで十分だ。
ひと月ぶりに会う私たちは、周りの視線を気にすることなく、微笑みながら見つめ合っていた。
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