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78 王子殿下とのお見合い!(2)

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「懐かしいわぁ……また、この場所に来れるなんてね。カタリナちゃんのお陰ねぇ」
「そうだな。あの時のお前の美しさが目に浮かぶよ」
「あら、いやだわぁ、あなた! おほほほ」
 エルフィネス伯爵夫妻は、王宮に入った時から浮かれている。
 私が沈み込んでいるから、我々三人のテンションを足して三で割れば、ちょうどいい感じに浮上するのに。
 そんなことを思いながら、きらびやかな王宮の内部を眺めた。
 そこは、田舎の伯爵令嬢にとってはおそろしく居心地が悪い空間。
 赤土の煉瓦で作られた外観は、まるで中世の古い城塞を思わせるような粗野な印象があったものの、内部はここ百年ほどの間に改修されたらしい。
 希少な大理石や黄金が使われた内装は素晴らしく、どれほどの税金がここに投入されたか、思わず計算したくなる。
 侍従に連れられて私たちは優美な螺旋階段を上がった先にある謁見室へと急いだ。
 どこに行っても水晶や宝石がきらめくシャンデリア、壁には美しい絵画や美術品が飾られており、前世で言うならまるでヨーロッパの美術館のような風情である。
 その階で一番奥の部屋に、私たちは進んでいく。
 大きな扉の脇にいた衛兵が、侍従の姿を見て扉を開けた。
「エルフィネス伯爵夫妻と令嬢をお連れいたしました!」
 侍従の先触れの声と共に、私たちは中に入る。
 赤絨毯が敷き詰められた広間の奥に玉座がある。
 そこには深紅のケープを羽織った、初老の男性――ベルクロン王国の国王カルロス五世が座っている。
 その傍らにいるのは、側近らしき壮年の貴族が二人、そして、薄絹のカーテンの奥にもう一人誰かが佇んでいるのが見えた。
「ベルクロンの沈まぬ太陽である国王陛下に、ご挨拶申し上げます」
 伯爵が頭を下げるのと同時に、私はドレスの裾をつまんでカーテシーをした。
「よく来てくれた、エルフィネス伯爵……そして、ご夫人と令嬢も。南部地方からだと遠い道のりだったのではないか? 急な話なのに感謝するぞ」
「お気遣いいただきありがとうございます。陛下のご尽力によって汽車がベルンにまで通じましたので、あっという間の旅路でございました」
「おお、それはよかった……伯爵の令嬢も、もうこんなに大きくなって。わしの息子が王子妃に迎えたいと言っていたのも納得する美しさだな」
 初めて会う国王に社交辞令で誉められて、私は困ったような笑みを浮かべた。
「恐れながら、国王陛下。手紙でもお伝えしたように、娘のカタリナはグラストン侯爵令息との結婚話が破談になってからあまり時間が経っておりません。そのため、求婚の件に即答はできないと申しておりまして……」
 伯爵の説明を聞いて、国王は頷いた。
「ベルクロンは、王子たちの顔や名前を伏せることになっているからな……もちろん、今日すぐに答えが欲しいわけではないので、そこは安心してほしい」
「恐縮でございます」
 すると、国王はカーテンに顔が隠れている人物に声をかけた。
「さあ、王子よ。こちらに来て顔を見せなさい」
 国王に促され、ゆっくりとその相手は玉座に近づく。
 王族らしい礼服を身に着けており、すらりとした長身が特徴的な青年の姿に、なぜか既視感がある。
 国王に小声で何かを告げた後、彼は私たちのほうを振り向いた。
(……あっ!!)
 その瞬間、思わず声をあげそうになった。
 ……なぜなら、それは私がよく知る人物だったから――。
 

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