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75 いざ、再びの王都へ!(2)

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 ここが諸外国の貴賓を迎え入れる場所だと考えれば、設えの豪奢さやバルコニーから王都の市街地や王宮を一望できる眺めの美しさ、利便性などの点において申し分がないことは理解できる。
 ――ただ、ここの室内があまりにも快適すぎるのは考え物だ。
 食事時にダイニングルームに行けば、顔見知りがいるから何とかマルコに手紙でもメモでも渡せるはず。
 そう思ったのも束の間、エルフィネス伯爵は私にこう言ってきた。
「食事については、ここで食べることになっている。このホテルの極上の料理をルームサービスで楽しめるなんて、贅沢なことじゃないか! その予定だから、カタリナは外に出ないように」
「そうよね、あなた。このホテルは、下の階に平民たちが宿泊しているんですもの……カタリナちゃんの身に何かあったら怖いわぁ」
「その通りだよ。新興貴族やブルジョア……あいつらは、どんな名前を使ったとしても所詮は平民だからな。私たちのような根っからの貴族を憎んでいるに違いない。関わり合うと、ろくなことにならないぞ」
 偏見に満ちた二人の会話を聞いているだけで、息が苦しくなってくる。
 ……たしかに昔から、堅苦しい物の考えをする人たちだった。
 私が前世の記憶があるからじゃないか……そう思うことにしていたが、最近の彼らはおかしすぎる!
 そもそも、貴族や王族に生まれたから素晴らしい人間だっていう考え方がおかしい。
 もちろん、知性や教養があって貧しい平民たちに施しをする領主は、平民たちからも尊敬されることだろう。
 しかし、そもそも平民たちが汗水垂らして働いているからこそ、彼らはそこから税金を徴収して、富める暮らしをすることができるのではないか。
(だから、労働者を敬いなさいよっ)
 そう心の中で叫びながらも、表面では両親に微笑んで見せる。
 そう――何があっても表情はにこやかに。
 これこそ、前世で培った接客業の極意である。
「わかりましたわ、お父様、お母様。ご心配なさらないで……わたくしは、王都では王宮以外には参りませんわ」
「よかったわ、カタリナちゃんが聞き分けのいい子で! 欲しいものがあれば、店の者をここに呼べばいいから絶対部屋を出ちゃダメよ?」
 それを聞いて、私は伯爵夫人に懇願した。
「お母様……! マドレーヌをここに呼んでいただけないでしょうか?」
「……えっ?」
「明日の王子殿下との顔合わせは、エルフィネス伯爵家の娘として間違いなく伺います。しかし、わたくしは確認せねばならない帳簿がございます。カフェを経営している以上、彼女とのやり取りは欠かせないものですわ」
 機嫌を損ねた様子で、伯爵は渋い表情をする。
「まったく、お前は……貴族の娘らしく社交活動をしているのかと思ったら、商人の真似などして! そんなことをしているから、変な男が寄ってきたのではないのか!?」
「……あなた、落ち着いて! あまり頭ごなしに怒ってしまうと、縁談の席で泣き出してしまうかもしれなくてよ!」
「それは困る!」
 キンキン声で私を悩ませてくる伯爵夫人も、この時ばかりは娘を持つ母親らしいフォローを入れてくれた。
「そうですわ……わたくし、自分の作ったカフェがどんな有様なのかを数字で確認せねば、ゆっくり眠れません……!」
「……うぬぬ。わかった、人を遣わせてマドレーヌをここに呼ぼうではないか。ただ、私たちが見ている中で話をしてもらうから、そのつもりで」
「お父様、ありがとうございます! それで十分ですわ!」
 四面楚歌な状況の中で、一歩前進することができた。
 マドレーヌとの面会は、いまだ軟禁状態が解けない私にとって一縷の望みだった。

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