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74 いざ、再びの王都へ!(1)
しおりを挟む名も知らぬ王子殿下との謁見の日が近づいてきた。
相変わらず、エルフィネス伯爵夫妻は私への監視を弱める気配はない。
王都での宿泊先はウルジニア侯爵のタウンハウスではなく、ホテルにすると決めたらしい。おそらく、王宮まで目と鼻の先だからだろう。
いまはフランチャイズ店舗になっているものの、ホテルの一階には「カフェ・カタリナ」の第一号店がある。
伯爵夫妻は、路面店に私が行くのをひどく警戒している。
なぜなら、店舗の貸主がリオネル様だと知っているから。
もといたタウンハウスのほうが、路面店には近いのでこっそり抜け出して彼に会いに行くんじゃないか、と心配しているのかもしれない。
久しぶりの王都の景色……至る所に咲き誇る薔薇も、赤みの強い煉瓦の建物も前に見た時のままだ。
しかし、悲しいことに馬車では左右を両親に挟まれ、前には険しい表情をした侍女と護衛がいるという緊張状態。
せめて、ひと目だけでも路面店がどんな状態か見たかったのに、わざわざメインストリートを迂回させる徹底ぶりに、思わず笑いが込み上げてきた。
(どうしちゃったのよ、二人とも?)
エルフィネス伯爵は、時折何かに操られているかのような闇深い表情を見せてくる。
有力貴族の家門を守る危機感というのは、こんなものだろうか……?
そうだとしても、王都に行く前に比べて変わりすぎじゃない?
(せめて、自由に恋愛くらいさせてほしいんだけどなぁ……)
心の中でぼやいたが、南部地方にいるよりは遥かにリオネル様には近づいているはず。
そんなことを思っているうちに、馬車はホテルの正面玄関に到着した。
馬車を降りて中庭を見ると、懐かしいテラスカフェが営業中である。
天気がいいおかげか、ありがたいことに商売繁盛しているようだった。
ちょうどティータイムとあって、焼き菓子を買い求めて日向ぼっこしながら読書をするお客さんや、タルトと紅茶を友人同士で楽しんでいるご婦人たちが目立つ。
そう……これは、私が作った「カフェ・カタリナ」の原型。気軽に色々な人に楽しんでもらいたいと、前世の夢を叶えるためにがんばってきた。
つい懐かしくなって、私は先を急ぐ両親を呼び止める。
「お父様、お母様、お菓子をあそこで買ってきてもいいかしら?」
そう聞くと、二人は警戒したように顔を見合わせる。
「そんなことは後で侍女にやらせればいいわ。あなたは、わたくしたちと共に部屋に行きましょう」
「はい。わたくしが後で行って参ります」
残念ながら、侍女さえも味方ではなかった……。
私は顔見知りのスタッフと話す機会さえ与えられないまま、カフェの賑わいを見送った。
……はぁ、本当に嫌になっちゃうわ!
この厳戒体制は、いったいいつ解けるのかしら……?
用意されていたのは、ホテルで最上階に位置する広すぎるほどのペントハウス。
ベルクロン王国でまだ数台しかない昇降機がこの階専用に備えられ、荷物の上げ下ろしなど利便性についても前世の日本と大差ない。
内部には広々とした四つの寝室とちょっとした晩餐会が開けそうな長いテーブルがある食事室、応接間、小さな使用人向けの部屋が三つも備えられている。
エルフィネス伯爵の話では、ホテルに滞在すると言ったら、わざわざ王室がここを準備してくれたらしい。
民間に払い下げられたこのホテルも、諸外国からの要人を宿泊させるために、この階だけは、まだ王室が所有権を持っているようだ。
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