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58 伯爵令嬢からの挑戦状(2)

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 新商品のオリエンタルゼリーは、女性の悩みを解決するスイーツということで大評判になった。
 マドレーヌにポスターをデザインしてもらい、東方女性が好むお菓子と同じ素材を使っていることを前面に出した。
 この王都にも、ちらほらと東方の商人がやってくる。彼らが連れている奥方は、例外なく真珠のようになめらかな肌をしており、体つきはほっそりとして優雅。
 彼女たちの存在は、東方の食材が美容にいいということの証明だった。
 東方女性のスリムさに羨望の眼差しを向けるベルクロン王国の貴婦人たちは、迷うことなく「カフェ・カタリナ」でティータイムを過ごすようになる。
 初日からしばらくは、コーヒー味とリオネル様も絶賛してくれたオレンジ味、そしてストロベリー味にした。
 どれも蜂蜜を使っているので、くどくない程度の甘さに抑えてあるため、女性ばかりではなく男性からの人気も上々だった。
「カタリナちゃん、このコーヒーゼリーおいしいよ!」
「オレンジ味もいいよ。さっぱりしているのが、俺たちにぴったり」
 なんて、男性の常連客の評判もいい。
 新商品を投入する時はお客さんの反応が気になって緊張するが、みんなの笑顔が見られたから今回も成功したと言えるだろう。
(あー、よかった!)
 胸を撫で下ろした私に、メアリーが話しかけてきた。
「カタリナ様、よかったですね。やっぱり、カタリナ様が作るお菓子は最高ですわ!」
「ありがとう」
「カフェ・ベルトラも、新商品を売り出したんですよ。あまり、評判はよくないみたいですけど……」
「あら、エレオノールお嬢様も大変ねぇ」
 小躍りしそうなくらいうれしいが、グッと気持ちを抑える。
 実は、メアリーを使って「カフェ・ベルトラ」に嘘の情報を流している。
 今回の寒天ゼリーのレシピの代わりに、ダミーのカスタードプディングのレシピを渡させた。
 しかも、それは私が考案したものではなくて、ただの市販の料理本の抜粋である。トッピングのことを何か聞かれたら、黒いカラメルと答えておくように、と伝えた。
 この世界には、まだカラメルの概念はない。
 カラメルを何で作ったのかは知らないが、あのレシピで作ったら相当重くて甘いはずである。
 「カフェ・ベルトラ」の重すぎるスイーツと、「カフェ・カタリナ」の爽やかなスイーツ……その両極のお菓子を楽しんでもらうのも、いいと思っている。
(そうよ。あれだって、そんなにまずくはないものね)
 しかし、あまり評判がよくないのならご愁傷様だ。
 店舗に出ない彼女は顧客のニーズを把握するつもりもないのだろう。
 そもそも、飲食店の経営を舐めているとしか思えない行状だから仕方ないけれど……。
 うちのカフェからレシピを盗み、そっくりそのままのメニューを作っていたことがエレオノールの敗因。
 がんばって自分の頭で考えて負けるならまだしも、他店の盗作はNGだ。
 これからは、今回の件に懲りて正々堂々と勝負してくれるだろうか?
(まぁ……あなたの資金力にまだ余力があれば、の話よね。エレオノール)
 真っ赤なドレスを着た彼女の幻影に挑戦状を叩きつけるように、私は口角を吊り上げた。

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